28 / 601
◇28 闇夜の墓城1
しおりを挟む
時間はあっという間に過ぎ去っていた。
ソウラのお店でお話をして時間を潰していた、アキラはいつの間にか空が暗くなっていることに気が付いた。窓の向こうの空は黄昏色を抜け、緩やかな暗がりが迫っていた。
暗闇が溶け出す。水の入ったコップの中に、醤油を零したみたいな深い深い色味がのめり込む。怖い。夜をそんな風に捉えることもあるだろうが、アキラにとっては、そんなものは既に脳裏から掻き消えていた。
「そろそろ行きますね」
「あれ? もう行くの?」
「はい。シャンベリーに行かないといけないんです。ソウラさん、今度はソウラさんの友達と会ってみたいです」
「そうね。多分、明日はいると思うけど?」
「うーん、明日はログインするかはわからないですけど、じゃあ是非」
アキラは笑顔で答えた。
ソウラさんの友達には興味がある。こんな変わったものを作る人たちだ。きっと変わった人で、面白いんだろうと、アキラは思った。アキラの友達も大概変わっていて面白いけど、NightもNightなので、何とも言えない。
「じゃあまた今度。ソウラさんから貰った聖水しっかり使ってみますね」
「ホント! あれ、かなり売れ残ってたから」
「あはは。まあ……ですね」
アキラは一瞬言葉に詰まるが、すぐに笑って誤魔化す。
ソウラは、アキラと同じようにこめかみや額から汗を流しながら、笑って誤魔化す。誤魔化しが誤魔化しに隠されてしまっていて、どっちつかずだったが、聖水が余っていたことは事実だ。
売れ残っている。それを押し付けられたのも、また事実だ。
そこで聖水をインベントリから大量に取り出してしまっていた。だってこれから、使うから。腰に巻いたベルトのポーチに一本入れて、アキラは急いで向かった。いよいよ、探索で楽しみだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
アキラはあの時通った暗い森の中を通った。
しかし今日はおかしい。
この間は、青白い火の玉が動いていたのに、今回は揺ら揺らしていない。なんだか、残念だ。
シャンベリーに辿り着くには、ここを通るしかない。
きっと奥でNightが待っているはずだ。そこでアキラは森の中を軽快な足取りで走り抜け、抜けた先にはこの間の大衆墓地が広がていた。今思ってもかなり広い。
「本当、ここの墓地って広いよね」
「そうだな。この大衆墓場は、あの城を中心に四方八方に広がっている。ここはちょうど東側だな」
「Night!」
気配がなかった。完全に消していた。
木の根元に腰を据え、マントの裾に、泥が付着していた。もしかしてずっと待っていたのかな?
「もしかしてずっと待ってたの?」
「そんなわけがないだろ。一度ログアウトして、さっき来たんだ」
「そっかー」
「なんだその顔」
Nightは顔色を変えた。不満そうにムッとしているが、アキラが顔を朗らかにしていたのは、別の理由だ。ちゃんと来てくれたことが嬉しい。
Nightはクールな子だ。もしかして、呆れられて帰ってしまうんじゃないかと、少しだけ思っていた。しかしそんなことはないことぐらい、多少なりとも察していた。それもまた事実で、アキラは自然とNightの頭を撫でていた。
「撫でるな」
「ごめんごめん。でもちゃんと来てくれたんだね」
「当たり前だ」
まさかここまではっきりと言われるなんて驚きだ。
撫でていた手を引っ込めると、アキラは真顔になる。それからNightは、
「私は気に入ったやつの約束は守る。ただそれだけでいい」
「・・・」
「なんだ。何故黙る」
「ううん。なんかちょっと、意外って言うか、想像の斜め上って言うか、優しいなーって」
「なんだ、その感想は。私を舐めているのか」
「違うよ、ただちょっと意外だったってだけで。ごめんね」
「まあいい。とにかく、城の中に入るぞ。構造は全てここにある」
Nightは頭をコンコンと指で叩いた。
こんな示し方をする人がいたなんてと、アキラは驚いたものの、Nightとアキラは揃って城の中に向かって歩き出していた。その間襲ってきたモンスターはおらず、アキラが聖水を撒いていたからだった。
ソウラのお店でお話をして時間を潰していた、アキラはいつの間にか空が暗くなっていることに気が付いた。窓の向こうの空は黄昏色を抜け、緩やかな暗がりが迫っていた。
暗闇が溶け出す。水の入ったコップの中に、醤油を零したみたいな深い深い色味がのめり込む。怖い。夜をそんな風に捉えることもあるだろうが、アキラにとっては、そんなものは既に脳裏から掻き消えていた。
「そろそろ行きますね」
「あれ? もう行くの?」
「はい。シャンベリーに行かないといけないんです。ソウラさん、今度はソウラさんの友達と会ってみたいです」
「そうね。多分、明日はいると思うけど?」
「うーん、明日はログインするかはわからないですけど、じゃあ是非」
アキラは笑顔で答えた。
ソウラさんの友達には興味がある。こんな変わったものを作る人たちだ。きっと変わった人で、面白いんだろうと、アキラは思った。アキラの友達も大概変わっていて面白いけど、NightもNightなので、何とも言えない。
「じゃあまた今度。ソウラさんから貰った聖水しっかり使ってみますね」
「ホント! あれ、かなり売れ残ってたから」
「あはは。まあ……ですね」
アキラは一瞬言葉に詰まるが、すぐに笑って誤魔化す。
ソウラは、アキラと同じようにこめかみや額から汗を流しながら、笑って誤魔化す。誤魔化しが誤魔化しに隠されてしまっていて、どっちつかずだったが、聖水が余っていたことは事実だ。
売れ残っている。それを押し付けられたのも、また事実だ。
そこで聖水をインベントリから大量に取り出してしまっていた。だってこれから、使うから。腰に巻いたベルトのポーチに一本入れて、アキラは急いで向かった。いよいよ、探索で楽しみだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
アキラはあの時通った暗い森の中を通った。
しかし今日はおかしい。
この間は、青白い火の玉が動いていたのに、今回は揺ら揺らしていない。なんだか、残念だ。
シャンベリーに辿り着くには、ここを通るしかない。
きっと奥でNightが待っているはずだ。そこでアキラは森の中を軽快な足取りで走り抜け、抜けた先にはこの間の大衆墓地が広がていた。今思ってもかなり広い。
「本当、ここの墓地って広いよね」
「そうだな。この大衆墓場は、あの城を中心に四方八方に広がっている。ここはちょうど東側だな」
「Night!」
気配がなかった。完全に消していた。
木の根元に腰を据え、マントの裾に、泥が付着していた。もしかしてずっと待っていたのかな?
「もしかしてずっと待ってたの?」
「そんなわけがないだろ。一度ログアウトして、さっき来たんだ」
「そっかー」
「なんだその顔」
Nightは顔色を変えた。不満そうにムッとしているが、アキラが顔を朗らかにしていたのは、別の理由だ。ちゃんと来てくれたことが嬉しい。
Nightはクールな子だ。もしかして、呆れられて帰ってしまうんじゃないかと、少しだけ思っていた。しかしそんなことはないことぐらい、多少なりとも察していた。それもまた事実で、アキラは自然とNightの頭を撫でていた。
「撫でるな」
「ごめんごめん。でもちゃんと来てくれたんだね」
「当たり前だ」
まさかここまではっきりと言われるなんて驚きだ。
撫でていた手を引っ込めると、アキラは真顔になる。それからNightは、
「私は気に入ったやつの約束は守る。ただそれだけでいい」
「・・・」
「なんだ。何故黙る」
「ううん。なんかちょっと、意外って言うか、想像の斜め上って言うか、優しいなーって」
「なんだ、その感想は。私を舐めているのか」
「違うよ、ただちょっと意外だったってだけで。ごめんね」
「まあいい。とにかく、城の中に入るぞ。構造は全てここにある」
Nightは頭をコンコンと指で叩いた。
こんな示し方をする人がいたなんてと、アキラは驚いたものの、Nightとアキラは揃って城の中に向かって歩き出していた。その間襲ってきたモンスターはおらず、アキラが聖水を撒いていたからだった。
21
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる