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◇27 ソウラの仲間たち1
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ゴールデンウィーク。
学生にとっても、それ以外の人にとっても、大抵は休みになる。こんな期間は、かなり珍しく、日本独自のものだった。
貴重な休暇の期間は、かなり有意義に過ごすのが常。体を休めるのもいいし、どこかに出かけるのも乙。しかし学生の彼女たちにとって、休暇の使い方は、
「ふう。掃除もおしまい。ご飯も作った。町内会の掃除もオッケー。じゃあ早速、行きますか」
明輝はログインした。
すると、ログイン先を予測していたのか、目を開けた先にいたのは、Nightだった。
手には文庫ぐらいの大きさの本。ベンチに座って、のんびりとくつろいでいる姿だった。
「おはよ、Night」
「来たか。今日は如何する?」
「如何するって言われても。そうだなー。じゃあさ、この間の墓城みたいなところに行こうよ?」
「墓城? ああ、シャンベリーか。あそこは夜の間しか開かないぞ」
「そうなの?」
Nightはずっとシャンベリーがある墓地でレベル上げをしてきた。
そのおかげか、あの場所は完全に知り尽くしていた。そこで一旦夜になるまで待つことになった。
「ってことがあったんですよ」
「そうなの。それで、Nightは?」
「さあ。夜になる目で何処かにふらふら行っちゃって」
アキラはソウラと話しながら、時間を潰すことにした。
大学生のソウラは、今日は一日中店番をすることになっていた。アキラは暇な時間を持て余してしまい、退屈な時間を過ごすことになったんだ。
しかしそんなアキラを退屈させないのが、このお店のポイント。『Deep Sky』には変なものがたくさんある。それを体現するかのように、棚鵺には見たこともない緑色の液体の入った瓶が鎮座していた。
日光に当たると駄目なのか、瓶には白いラベルがしてある。
黒だと窓ガラスから差し込む日差しが集まって、焦げる可能性がある。だからこそ、あえて白いラベルなのだろうが、アキラには中身の方が気になっていた。
「ソウラさん、あの瓶の中身って?」
「むむむ? もしかして気になっちゃった?」
「は、はい。あれって、ソウラさんが作ったんですか?」
「ううん。違うわよ。ただ私の友達で、ケミーって子がいるんだけど、その子が作ったの」
作ったと聞いて、中身を想像する。
あのドロッとした感じ、何かの薬かな? それとも調味料? そう思ったアキラだったけど、現実はかけ離れていた。
「あれはお酒なの。調合用のね」
「お酒ですか?」
「うん。試しに試飲してみる?」
「いや、いいですよ。私まだ未成年ですから」
アキラはまだ十五歳。
今年の八月が来れば晴れて十六歳。だけどお酒を飲めるのはまだ先。少なくとも学生の間は飲めないし、法改正で十八歳から飲めるようになったけど、学生の間は飲むことはできないように法律で縛られていた。それに加えて、酒税は引き上げられ、ビールの値段は数年前の1.5倍だ。
そんな話になってまで、お酒を趣向のために飲むのは流石のアキラでもない。
彼女の父親も母親も、それこそお酒を好んで飲む人間ではないので、それも仕方ないといえようが、料理酒だけは依然として変わらない。
「そ? 残念ね。このお酒すっごく不味いのに」
「不味いものを進めないでくださいよ、ソウラさん」
「ごめんね。でも本当にびっくりするぐらい美味しくないのよ。本当に、何度吐き出したことか……うえっ」
ソウラの動きは過去の投影。
自身が体験したことが強く擦り込まれているのだろう。VRGAMEと言うのは、昔から脳に及ぼす影響の指数がかなり大きい。それをきっかけにして、記憶を司る海馬や舌や鼻から入る刺激を訴えて、現実世界の自分の中枢神経を刺激しているからだろう。それを理解して実感してしまったからこそ、ソウラは嗚咽を訴えかける。
「匂いぐらいは嗅いで行く?」
「えーっと、は、はい」
「じゃあ行ってみよう」
ソウラのテンションが復活した。
それからお酒の入った一升瓶を取り出すと、コルクの蓋を開け、中身を見せる。すると強烈な刺激臭が部屋の中に漏れ出した。
ソウラは顔を顰めて、嗚咽交じりに訴え、アキラもその表情を見ながら中身を覗くと、不思議と嫌いではなかった。と言うか、これ……
「なんだ、ただのニンニクじゃないですか」
「そうなのよ。これが、うわぁ!」
「それとこの刺激はタマネギのすり潰しですね。でも奥から仄かな甘みとこの粘り具合、お酒をベースに蜂蜜を焦がしたカラメルとリンゴのエキスが入ってるんですね。果汁の割合が少ないのかな?」
これは既にお酒ではない。酎ハイでもカクテルでもない、単なる配合酒だった。
アキラは普段から料理をしていて、母親が持って帰ってくる、これ誰が食べるんだよってものをたくさん見てきた。食べて、飲んで、嗅いできた。だからわかるんだ。つまり、
「これ、全然いけますよ」
「ほ、ほんと?」
「はい。断言します。って言うか、これを調合に使うんですね。なんだか虫よけの方がポイ気がします」
「それよ!」
ソウラは何か閃いた。
それから持ち出した霧吹きの中にお酒を入れて、吹きかける。すると蜘蛛が一発で倒れた。うん、凄い効き目。これなら最初っからこの方法で売り出した方が早いのでは? と、アキラは思いついたが、口には出さなかった。
学生にとっても、それ以外の人にとっても、大抵は休みになる。こんな期間は、かなり珍しく、日本独自のものだった。
貴重な休暇の期間は、かなり有意義に過ごすのが常。体を休めるのもいいし、どこかに出かけるのも乙。しかし学生の彼女たちにとって、休暇の使い方は、
「ふう。掃除もおしまい。ご飯も作った。町内会の掃除もオッケー。じゃあ早速、行きますか」
明輝はログインした。
すると、ログイン先を予測していたのか、目を開けた先にいたのは、Nightだった。
手には文庫ぐらいの大きさの本。ベンチに座って、のんびりとくつろいでいる姿だった。
「おはよ、Night」
「来たか。今日は如何する?」
「如何するって言われても。そうだなー。じゃあさ、この間の墓城みたいなところに行こうよ?」
「墓城? ああ、シャンベリーか。あそこは夜の間しか開かないぞ」
「そうなの?」
Nightはずっとシャンベリーがある墓地でレベル上げをしてきた。
そのおかげか、あの場所は完全に知り尽くしていた。そこで一旦夜になるまで待つことになった。
「ってことがあったんですよ」
「そうなの。それで、Nightは?」
「さあ。夜になる目で何処かにふらふら行っちゃって」
アキラはソウラと話しながら、時間を潰すことにした。
大学生のソウラは、今日は一日中店番をすることになっていた。アキラは暇な時間を持て余してしまい、退屈な時間を過ごすことになったんだ。
しかしそんなアキラを退屈させないのが、このお店のポイント。『Deep Sky』には変なものがたくさんある。それを体現するかのように、棚鵺には見たこともない緑色の液体の入った瓶が鎮座していた。
日光に当たると駄目なのか、瓶には白いラベルがしてある。
黒だと窓ガラスから差し込む日差しが集まって、焦げる可能性がある。だからこそ、あえて白いラベルなのだろうが、アキラには中身の方が気になっていた。
「ソウラさん、あの瓶の中身って?」
「むむむ? もしかして気になっちゃった?」
「は、はい。あれって、ソウラさんが作ったんですか?」
「ううん。違うわよ。ただ私の友達で、ケミーって子がいるんだけど、その子が作ったの」
作ったと聞いて、中身を想像する。
あのドロッとした感じ、何かの薬かな? それとも調味料? そう思ったアキラだったけど、現実はかけ離れていた。
「あれはお酒なの。調合用のね」
「お酒ですか?」
「うん。試しに試飲してみる?」
「いや、いいですよ。私まだ未成年ですから」
アキラはまだ十五歳。
今年の八月が来れば晴れて十六歳。だけどお酒を飲めるのはまだ先。少なくとも学生の間は飲めないし、法改正で十八歳から飲めるようになったけど、学生の間は飲むことはできないように法律で縛られていた。それに加えて、酒税は引き上げられ、ビールの値段は数年前の1.5倍だ。
そんな話になってまで、お酒を趣向のために飲むのは流石のアキラでもない。
彼女の父親も母親も、それこそお酒を好んで飲む人間ではないので、それも仕方ないといえようが、料理酒だけは依然として変わらない。
「そ? 残念ね。このお酒すっごく不味いのに」
「不味いものを進めないでくださいよ、ソウラさん」
「ごめんね。でも本当にびっくりするぐらい美味しくないのよ。本当に、何度吐き出したことか……うえっ」
ソウラの動きは過去の投影。
自身が体験したことが強く擦り込まれているのだろう。VRGAMEと言うのは、昔から脳に及ぼす影響の指数がかなり大きい。それをきっかけにして、記憶を司る海馬や舌や鼻から入る刺激を訴えて、現実世界の自分の中枢神経を刺激しているからだろう。それを理解して実感してしまったからこそ、ソウラは嗚咽を訴えかける。
「匂いぐらいは嗅いで行く?」
「えーっと、は、はい」
「じゃあ行ってみよう」
ソウラのテンションが復活した。
それからお酒の入った一升瓶を取り出すと、コルクの蓋を開け、中身を見せる。すると強烈な刺激臭が部屋の中に漏れ出した。
ソウラは顔を顰めて、嗚咽交じりに訴え、アキラもその表情を見ながら中身を覗くと、不思議と嫌いではなかった。と言うか、これ……
「なんだ、ただのニンニクじゃないですか」
「そうなのよ。これが、うわぁ!」
「それとこの刺激はタマネギのすり潰しですね。でも奥から仄かな甘みとこの粘り具合、お酒をベースに蜂蜜を焦がしたカラメルとリンゴのエキスが入ってるんですね。果汁の割合が少ないのかな?」
これは既にお酒ではない。酎ハイでもカクテルでもない、単なる配合酒だった。
アキラは普段から料理をしていて、母親が持って帰ってくる、これ誰が食べるんだよってものをたくさん見てきた。食べて、飲んで、嗅いできた。だからわかるんだ。つまり、
「これ、全然いけますよ」
「ほ、ほんと?」
「はい。断言します。って言うか、これを調合に使うんですね。なんだか虫よけの方がポイ気がします」
「それよ!」
ソウラは何か閃いた。
それから持ち出した霧吹きの中にお酒を入れて、吹きかける。すると蜘蛛が一発で倒れた。うん、凄い効き目。これなら最初っからこの方法で売り出した方が早いのでは? と、アキラは思いついたが、口には出さなかった。
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