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◇8 VS甲冑兜

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 夕暮れ時が近い。
 これはリアルの話で、早く町に戻りたかった。

 アキラはクマに追われ、しぶしぶ遠回りをしていると、急に何かが飛んできた。
 アキラは武器を取り、じっとしていると、

「うわぁ!」

 まさかの虫だった。
 そう、虫が飛んできたんだ。
 でも少しおかしい。あの虫は、全身に緑色の甲冑を着こんでいる。
 カブトムシのようだけど、甲殻が武者みたいだった。

「よ、鎧を着ているみたい」

 勢いよく飛んできた虫を、叩き切ろうとした。
 だけど、小さな虫を叩き切る技量はアキラにはなく、簡単に躱されてしまっていた。

 シュン!

 叩き切る音だけが、虚空に消える。
 何て虚しい音だ。
 ハエ叩きに失敗した時のような、虚しい気分になった。

「うわぁ! 全然当たらない!」

 でもそんなの初めからわかっていた。
 だけどそれも仕方ない。
 ハエなんて、あのプラスチックでふにゃふにゃなフライ返しじゃ、倒せるわけないんだもん。それとおんなじことだ。

 でも、アキラは楽しんでいた。
 せっかく剣を使う機会が貰えたんだもん。
 ここで練習タイムと行きましょう。

「そりゃ! あ、ああ。このっ!」

 悲しい声だけが、虚しく。また、澄んだ空気の合間を抜けていた。
 辛いとは思わない。
 こんな単純作業、結構楽しい。

「こんどこそ、絶対当てるぞ!」

 でも、カブトムシは避けてばっかりで、全然攻撃してこない。
 ごくまれに旋回してくるけど、敵意メーターが低いのかな。
 アキラは首を傾げる。
 でも、時々危ないこともあった。

 カブトムシが軌道を変えて、自慢の角を突き出して、襲い来る。

「うわぁ!」

 ブーン!ブーン!——

 なにこれ!? どんだけふかしてるの。
 車の排気音にも似たうるさい音だった。
 見れば超高速で羽を動かしていた。
 羽音が木々を震わせて、耳が痛くて塞ぎたくなった。

「こんなの食らったら、絶対痛いよ! こうなったら」

 剣を放り投げはしなかった。
 しかし試したいこともある。アキラはスライムから、奪った【半液状化】を駆使して、プリンプルンのスライム体質になった。

「おりゃ!」

 アキラはカブトムシを包む。
 青い液体で包まれたカブトムシは、動けなくて苦しそう。
 だけど、そんなカブトムシに、全く容赦しない。

「捕まえた! せーのっ!」

 アキラはお腹だけ、半液状化して、そのまま剣で叩きつける。
 剣の刃は硬くて駄目。
 だからこそ、平の部分で叩きつけて、羽ごと粉砕した。
 可哀そうだけど、HPはゼロになりました。

「あー、なんか可哀そうなことしちゃった」

 めちゃ、罪悪感マックス。
 濃くて苦くて渋いお茶を飲んだ時みたいな、感じで顔が歪む。
 すると、嬉しいことにレベルアップの軽快な音が鳴った。

「やった。またレベルアップだ……あれれ?」

 さらにおまけにスキルを獲得していた。
 今度は何だろ。もしかして、カブトムシの角かな?

 頭から角が生えた女の子。
 流石に、ドラゴンじゃなくて、カブトムシはね。
 けど、いざ確認したら全然違った。

 固有スキル:【キメラハント】
『新しいスキルを略奪しました。甲冑兜:【甲蟲】』

 何だろ。急に悪寒がした。
 アキラは身震いしてから、スキルのポップアウトを切ると、次にでも使ってみることにした。
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