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5章

第48話 武器職人にされてしまった

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 俺はげんなりしてしまった。
 こっちは300本剣を卸すことを確約したにもかかわらず、エクレアはまだ俺に要求してきた。
 流石にそれはできない。そもそも材料もない上に、次巻も限られている。
 ブラックな職場での労働なんてごめんだ。全部潰れちまえばいい。

「あのな、俺は冒険者だ。武器職人じゃない」
「でも卸してくれるんだよね!」
「それは剣だけだ。そもそもパンとポーションを売るんだ。武器なんて売る必要はないだろ」

 俺はきっぱりと言い切ってやった。
 するとエクレアは動じることなく、否定する。

「そんなことないよ。武器を売ることだって重要な収入源なんだもん」
「お前な、俺は魔法を使わないと武器は作れないんだぞ」
「だから魔法で武器を作ってよ。たくさん作れるでしょ?」
「1つ1つしか作れない。それに作るためには俺の魔力や集中力を削がれるんだぞ」

 俺は無限に魔法で武器を作れるわけじゃない。
 基本的に俺が使うものだから多少粗悪品でも許されている。
 しかし売り物となると違う。俺の作った武器で勝てないとか広まったらたまったもんじゃない。

「俺は責任を転嫁されるのが嫌なんだよ」
「そんなの使っている人が未熟だから仕方ないよ!」
「……お前も言うな」

 俺はエクレアの肝の据わり方に恐怖を感じた。
 他人を思いやる気持ちがあるのに、未熟者には厳しい。
 それが冒険者と言う職業で、助け合いの精神の中には突っぱねることも必要だった。
 まるでエクレアを否定するような措置だが、本人も同意見らしい。

「エクレアはもっと優しいと思っていた」
「自分の未熟さを武器のせいにする人は好きじゃないよ」
「それは一理あるな。自分の身を剣であり盾を信頼できないような奴に文句を言われる筋合いはない」

 俺の考えは間違っていないと思った。
 自分でそう信じることに悪意はなく、エクレアも賛同してくれていた。
 これは完全に恩を着せに来ている。ここで逃げたら後で何を言われるかわからない。
 そこで仕方なく溜息一つはいて、エクレアの言葉に乗ってやった。
 本当はやりたくもない。

「はぁー、仕方ないな。わかった、武器はある程度卸してやる」
「本当! よかったぁ。じゃあ明後日までにお願いね」
「ああ……はっ、明後日だと!」

 俺はエクレアの服の襟を掴まえた。
 顔を詰め寄ると笑顔で俺のことを見ている。なんか腹立たしくなってきた。

「おい、今何って言った」
「明後日だよ。開店日は明後日って、チラシも配ったんだもん」
「チラシだと……俺はそんなもの知らないぞ」
「だって言ったら手伝ってくれないでしょ?」

 コイツは俺のことを熟知していた。
 裏工作までばっちりとなると、もはや冒険者や経営者の域を超えている。
 完全に俺を巻き込む気でいた気満々だ。

「それに約束でしょ」
「約束? お前、ここでか!」
「そうここで鉄鋼刃の時の約束は果たしてもらうよ」
「おいおい……まさかこんな時かよ」

 約束なんてするもんじゃない。
 この間のクルミナがくれた骨だって、結果俺のところには一銭たりとも転がってこなかった。謎の化石が入った石を貰っただけで、俺の損失の方がデカいのは言うまでもない。
 しかもこの雰囲気、武器の材料はあるのだろうか? 何か嫌な予感がする。

「それで、武器の材料は何処にあるんだ?」
「材料って?」
「馬鹿か。俺の魔法は0から生み出すことはできない。1を膨らまして2を作る魔法だ」
「ええっ!? ど、どうしよう。私、カイ君の魔法をあてにしてた。そうだよね、あの時も気絶してたしカイ君の説明だけじゃわからなかったよ」
「俺のせいみたいに言うな。とにかく、材料もないのに武器を作るのは無理だ」
「う、ううん。私は諦めないよ、今すぐ素材を集めて来るねっ!」
「お前、ちょっと気が早すぎるって……行ったのか」

 エクレアは急いで素材を集めに行ってしまった。
 俺はあまりの突飛さに目を回して店の中に取り残される。
 これからどうしたらいいのか。とりあえず、エクレアが戻ってくるまで待たせてもらう。

「やれやれ、エクレアももう少し落ち着きがあればいいんだけどな」

 俺はカウンターの椅子に座って鞄の中からアイテムを取り出した。
 小さな小瓶の中には液体が入っている。ピンク色をしたとろみのある液が怪しいものを連想させるが、決して怪しくはない。
 これは王都で昔買った香水だ。

「あの時は香水なんか興味はなかったが、これを見ると懐かしいな」

 俺は王都でフレアに押し付けられた香水を成り行きで買ってしまった。
 その後アイツも同じものを買っていたし、リオンも揃いも揃って勝っていた。
 バレットは恥ずかしそうにしていたが、あの女だけは香水を買っていなかった。
 今思えば、あの時からアイツは俺のことを嫌っていたらしい。それだけ禍々しいものを持っていたのは言うまでもないが、今頃リオンたちは大丈夫だろうか。
 俺はかつてにパーティーメンバーを憐れんでしまうのだった。
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