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1章

第3話 花の町フルード

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 俺がやって来た花の町フルードはその名の通り、美しい四季楽しめるのが特徴な長閑な町並みが広がっていた。
 城壁の中に入ると、王都の喧騒けんそうが嘘のように静かだった。
 初めてやって来たが、随分と過ごしやすそうでホッとした。

「ここがフルード。はぁ、良いところじゃないか」

 俺は警備などもなく時間の間隔を忘れそうになった。
王都との違いを目の当たりにしつつ最初に目に飛び込んできたのは、大きな風車だった。

「うわぁ! 凄い、大きな風車だ」

 フルードの出入り口から一番目を惹くのはやはり巨大な風車だった。
 風がなくても回ることができる不思議な構造らしく、高台に設置されている。
 あの風車のおかげで暖気と換気を定期的に町の中に取り込むことで、四季折々な花々を拝むことができる。
現に少し視線を落としただけで名前もわからない薄いピンク色の花が咲いていた。

「これは何の花だろう」

 俺はしゃがみ込んで見つめていると、後ろから声がした。
 初老の男性が杖を頼りに立ち尽くしている。

「それはストックと言う花じゃよ」
「ストック?」
「この辺りの名物じゃな。花言葉は“見つめる未来”というらしいの」
「見つめる未来……俺がこの町を選んだのも、未来を見るため?」

 何だかそう考えると面白くなってきた。
 早速初老の男性に感謝を伝えると、俺は予定もなくがむしゃらに走り出した。
 まずは行ってみたい場所がある。
 俺は風車の待つ高台に向かった。

「うわぁ! ここが風車台」

 一度来てみたかった場所だ。
 王都にいた頃はリオン達と共に行動し、自由な時間なんてほとんどなかった。
 大抵はマーリィのわがままに突き合わされた結果、報酬のほとんどを持ていかれてしまっていたのが現実だ。
 それを全て洗い流してくれるような偉大さと心地の良い暖かな風が吹いていた。
 これが暖気だろうか。肌で感じると胸の奥から湧き上がるものを感じる。

「やっぱり本物は良い。殺伐さつばつとしたものも全部忘れさせてくれるな」

 すっかり素に戻っていた。警戒心なんてものは何処にもない。
 気が付けば周りにはたくさんの人がいた。
 みんな観光名所であるこの風車を見に来たんだろう。
 しかしどうしても居た堪れないのは、集まって来ているのが観光目当てのカップルばかりだ。
 にもかかわらず、俺が風車の前を独占していたので少し気づかいを掛けることにした。
 自然と体を左に避けると、すぐに気配を感じ取る。人が集まって来たんだ。

(まあいいか。風車は誰のものでもない)

 少し距離を取って遠目から眺めてみた。美しい木製の風車は今も回っている。
 周りに風が吹いている様子はなく風車自体が風を供給していた。人為的でもましてや自然由来でもないのが面白い。中の構造が余計に気になる。
 
「カタログで見るよりずっといい」
「そうですね。私も好きです、この風車。それに景色も素晴らしいですね」
「そうだな……えっ!?」

 急に話しかけられた。気のせいだろうと思い、素早く右に体を向けると少女がいた。俺と都市はそこまで変わらなそうな見た目だ。
 綺麗で透き通るような金髪を腰まで伸ばし、真新しい白い服に身を包んでいる。
 スカーフのようなものをしており、腰には剣を帯刀している。かなり良いものだと推察できた。
 しかも彼女の表情はとても純粋で、目をキラキラとさせている。
 すると俺の視線に気が付いたのか、それとも自分の言葉に違和感を覚えたのだろう。俺にオーバーリアクションを見せてくれた。

「あっ、ごめんなさい! つい、返してしまって」
「それはいいよ。本当のことだから」
「どういう意味ですか!」

 普通に初対面の俺に話しかけるなんて随分とコミュ力が高い。
 しかし妙なのは、彼女からはとてつもない気品と魔力を感じた。
 そのことに気が付いた人がここにどれだけいるだろう。俺は自分の経験を疑いたくはなかったが、不思議でたまらなかった。
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