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偽者の魔王になった日
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「まあ、身の回りのことをしてくれるのなら助かるな」
俺はミュシェルの提案を渋々受け入れた。
ここで突き返せば、悪いのは完全に俺。
エスメール家との繋がりは、付かず離れずで持っておいた方が、何かと便利そうだ。
「ありがとうございます、カガヤキさん。えへっ」
「なんで笑うんだよ」
「それはその……あっ、そうですカガヤキさん。これからどうされますか?」
「どうって言われても」
正直、この先のことは未定だ。
この三日間があまりにも濃い内容で、異世界転移生活三日目にして地獄を見た。
しばらくは休息を取りたい。
そう思う気持ちが強まると、咄嗟に口が動く。
「しばらくはなにもしない」
「な、なにもされないんですか?」
「ああ。一応、貯蓄はあるからね」
ベルファーの遺産、エスメール家からの報酬。
それに加えてPの存在。
色々なものが俺を手助けしてくれる。
しばらくは生活に困らない。
となれば何をしようか。
暇とは怠慢だ。人間暇を持て余せば腐る。だから俺は配信をしようと思った。
「そう言えば、俺のキャラ設定は魔王でいいんだよな」
「はい?」
「これからどう振る舞えばいいんだ。ミュシェル、教えてくれ」
俺は自分のキャラに迷っていた。
一応設定では魔王だ。最強無敵の魔王、それがカガヤキ・トライスティル。
正義も悪もない。全てを超越した存在。だからこその絶対なのだが、今の俺には荷が重い。
「カガヤキさんは、カガヤキさんのままで大丈夫ですよ」
「まあ、それがベタだよな」
反応があまりにもベタベタのベタだった。
大抵それを言っておけば丸く収まる。
俺は知っている。そういう奴に限って、何にも考えていないのだ。
「私はカガヤキさんらしくていいと思いますよ」
「俺らしいって?」
「それはその、魔王になりきれない姿が、カガヤキさんの優しさだと思うんです」
振る舞えていない、演じきれていない俺のことを“らしい”と言った。
確かに言われてみれば、いや、言われてみなくてもそうだ。
俺は魔王にはなれない。魔王っぽく振る舞うのが関の山。
何せ、魔王の皮を被ったただの配信者が俺なのだから。
「なので、そうですね……魔王にならなければいいんですよ!」
「魔王にならない? 結論だな」
「はい、結論です。カガヤキさんは、偽物の魔王でいいんです」
「偽物の魔王? 偽魔王ってことか」
あまりにも突飛な提案だった。
もちろん理解はできる。それが一番丸い。
しかしそんな真似を許されるのだろか? 誰がどう見ても、俺の格好は初見だと魔王だ。それを偽物で成り立たせるとなると、厳しい物になる。
「偽物か、それでいいのか?」
「いいんですよ。でも私にとっては勇者様に見えますよ」
「勇者? なに言ってんだよ」
「怒らないでください。私にはそう見えたんですから……」
何故か小声で不服そうに呟く。
マジで目が腐ってるのかな。俺はミュシェルの価値観を心配する。
頭を掻きむしり、ふと空を見上げた。確かに悪く無いと、自分の中で言い聞かせる。
「偽物の魔王か。なってみるか」
「カガヤキさん?」
正直俺にはそれしかできない。
如何して異世界に連れてこられたのか。
その真相は未だに分からないが、おそらくはミュシェル達を救うため。それが俺がこの世界に呼ばれて理由だと想像する。
(まあ、楽しければいいか。今後はもっと緩い、スローライフがしたいな)
そんな俺の願いが聞き入れられるかは知らない。
しかし紅茶を一口飲むと、心が満たされる。
異世界も悪く無いと思えた一瞬に全てを込めると、俺の偽物魔王生活はまだ始まったばかりだと感じてしまったが、今の間だけはこのひと時に委ねた。
~完~
俺はミュシェルの提案を渋々受け入れた。
ここで突き返せば、悪いのは完全に俺。
エスメール家との繋がりは、付かず離れずで持っておいた方が、何かと便利そうだ。
「ありがとうございます、カガヤキさん。えへっ」
「なんで笑うんだよ」
「それはその……あっ、そうですカガヤキさん。これからどうされますか?」
「どうって言われても」
正直、この先のことは未定だ。
この三日間があまりにも濃い内容で、異世界転移生活三日目にして地獄を見た。
しばらくは休息を取りたい。
そう思う気持ちが強まると、咄嗟に口が動く。
「しばらくはなにもしない」
「な、なにもされないんですか?」
「ああ。一応、貯蓄はあるからね」
ベルファーの遺産、エスメール家からの報酬。
それに加えてPの存在。
色々なものが俺を手助けしてくれる。
しばらくは生活に困らない。
となれば何をしようか。
暇とは怠慢だ。人間暇を持て余せば腐る。だから俺は配信をしようと思った。
「そう言えば、俺のキャラ設定は魔王でいいんだよな」
「はい?」
「これからどう振る舞えばいいんだ。ミュシェル、教えてくれ」
俺は自分のキャラに迷っていた。
一応設定では魔王だ。最強無敵の魔王、それがカガヤキ・トライスティル。
正義も悪もない。全てを超越した存在。だからこその絶対なのだが、今の俺には荷が重い。
「カガヤキさんは、カガヤキさんのままで大丈夫ですよ」
「まあ、それがベタだよな」
反応があまりにもベタベタのベタだった。
大抵それを言っておけば丸く収まる。
俺は知っている。そういう奴に限って、何にも考えていないのだ。
「私はカガヤキさんらしくていいと思いますよ」
「俺らしいって?」
「それはその、魔王になりきれない姿が、カガヤキさんの優しさだと思うんです」
振る舞えていない、演じきれていない俺のことを“らしい”と言った。
確かに言われてみれば、いや、言われてみなくてもそうだ。
俺は魔王にはなれない。魔王っぽく振る舞うのが関の山。
何せ、魔王の皮を被ったただの配信者が俺なのだから。
「なので、そうですね……魔王にならなければいいんですよ!」
「魔王にならない? 結論だな」
「はい、結論です。カガヤキさんは、偽物の魔王でいいんです」
「偽物の魔王? 偽魔王ってことか」
あまりにも突飛な提案だった。
もちろん理解はできる。それが一番丸い。
しかしそんな真似を許されるのだろか? 誰がどう見ても、俺の格好は初見だと魔王だ。それを偽物で成り立たせるとなると、厳しい物になる。
「偽物か、それでいいのか?」
「いいんですよ。でも私にとっては勇者様に見えますよ」
「勇者? なに言ってんだよ」
「怒らないでください。私にはそう見えたんですから……」
何故か小声で不服そうに呟く。
マジで目が腐ってるのかな。俺はミュシェルの価値観を心配する。
頭を掻きむしり、ふと空を見上げた。確かに悪く無いと、自分の中で言い聞かせる。
「偽物の魔王か。なってみるか」
「カガヤキさん?」
正直俺にはそれしかできない。
如何して異世界に連れてこられたのか。
その真相は未だに分からないが、おそらくはミュシェル達を救うため。それが俺がこの世界に呼ばれて理由だと想像する。
(まあ、楽しければいいか。今後はもっと緩い、スローライフがしたいな)
そんな俺の願いが聞き入れられるかは知らない。
しかし紅茶を一口飲むと、心が満たされる。
異世界も悪く無いと思えた一瞬に全てを込めると、俺の偽物魔王生活はまだ始まったばかりだと感じてしまったが、今の間だけはこのひと時に委ねた。
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