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第20話 勝手に殺すな!
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危なかった。マジで危なかった。咄嗟に唱えなかったら死んでいた。
俺は圧倒的な死のニオイを感じ取ると、別の空間に逃げ込んだ。
(初めて使った魔法だけど、上手く行ってよかった)
俺は堂々としているが、ホッと胸を撫で下ろした。
マントを翻しミュシェル達の前に現れたのだが、何故か死人を見る顔をされる。
あまりにも俺が不憫じゃないか。そう思ったのだが、ミュシェルはスッと立ち上がる。
「すみません、カガヤキさん」
「おっと」
ミュシェルは何故か距離を詰めて来たので、俺は後ろに半歩下がる。
何故か腕を伸ばされたので、全力で躱す。
ミュシェルの手が霞みを掴むと、目を見開いて「えっ」と呟いた。
「な、なんで避けるんですか?」
「いや、なんか、面倒だからな」
「そんなこと言わないでくださいよ。カガヤキさん、本当に生きているんですよね?」
「なんだその質問。当たり前だろ、死に掛けたけど」
実際死に掛けたのは間違いないが、俺は生きている。
まさに緊急回避で、俺はこうして死んでいない。
魔力はかなり消費したものの、スーレットと同じ末路を辿らずに済んだ。
「死に掛けたんですか!? やっぱり、私のせいで……」
「でもそのおかげで、スーレットは倒せた」
「それは結果論です」
「なに言ってるんだ。結果を見ないと、俺達は死んでいたんだぞ」
今回は過程よりも結果が大事だ。
過程だけ命を落とすようならただのバカ者。
そうならなかっただけマシだと思うのが、せめてもの心の余裕だ。
「それでミュシェルは怪我してないのか?」
「は、はい! 私はカガヤキさんのおかげで」
「俺のおかげって……」
ミュシェルに怪我が無いのは、考えてみれば当たり前だ。
後方からずっと支援してくれていた。
俺が勝手に前衛を張り、先走ったのが全ての始まり。そうだとすれば、悪いのは俺のせいだ。
「ミュシェルは充分やった。それでいいだろ?」
「それでいい……でも、無くなった人達はもう」
「帰って来ないだろうな」
スーレットによって操られ、贄=殺された人達は帰ってこない。
火柱の中に飛び込んだら最後で、骨まで残らないだろう。
ましてや外に火柱が立っていない。緋色の空も暗がりに染まり、証拠になるものは何も残っていなかった。
「でも、これ以上の被害は出ないのも事実だ」
「それはそうですけど……私がもっと早くスーレットさんを止めていれば」
「スーレットを止めるなんて真似、どう足搔いてもできなかった筈だ。そうだろ、ミュシェルのお父さん?」
「ああ、その通りだよ。全て私のせいだ。私がもっと早くスーレット君の本性を見破っていれば」
「それを言った所で変わらない。既に変わってしまったものを変えることはできないなら、これからを変えるしかない。そのためには、現実を受け入れて現実を変えるしかない……って、俺が言っても仕方がないよな」
自分で言っておいてなんだが、まるで響かなかった。
俺はミュシェルやミュシェルの父親なら、もっとマシな言葉が出ると思った。
けれど何も言い返されず、俺は瞬きをしてしまった。
「あれ、なんで止まるんだよ」
「カガヤキさんって、凄いですよね。そんな言葉を堂々と言えるなんて」
「やめろ、恥ずかしい!」
「恥ずかしくなんてありません。そうですよね、お父さん」
「うん。君の様な人が、本当に必要とされる存在なんだろうね」
「ああ、マジでハズい。死にたくなるんだけど……」
俺は顔面が真っ赤に染まって赤面してしまった。
全身から熱が出ると、ミュシェルとミュシェルの父親から放たれた言葉が弾丸のように胸が痛くなる。
しかもいくら止めて欲しくても眩しい瞳が俺を打つ。完全に逃げ道を失うと、自分で墓穴を掘ったことで死にたくなった。比喩的に。
俺は圧倒的な死のニオイを感じ取ると、別の空間に逃げ込んだ。
(初めて使った魔法だけど、上手く行ってよかった)
俺は堂々としているが、ホッと胸を撫で下ろした。
マントを翻しミュシェル達の前に現れたのだが、何故か死人を見る顔をされる。
あまりにも俺が不憫じゃないか。そう思ったのだが、ミュシェルはスッと立ち上がる。
「すみません、カガヤキさん」
「おっと」
ミュシェルは何故か距離を詰めて来たので、俺は後ろに半歩下がる。
何故か腕を伸ばされたので、全力で躱す。
ミュシェルの手が霞みを掴むと、目を見開いて「えっ」と呟いた。
「な、なんで避けるんですか?」
「いや、なんか、面倒だからな」
「そんなこと言わないでくださいよ。カガヤキさん、本当に生きているんですよね?」
「なんだその質問。当たり前だろ、死に掛けたけど」
実際死に掛けたのは間違いないが、俺は生きている。
まさに緊急回避で、俺はこうして死んでいない。
魔力はかなり消費したものの、スーレットと同じ末路を辿らずに済んだ。
「死に掛けたんですか!? やっぱり、私のせいで……」
「でもそのおかげで、スーレットは倒せた」
「それは結果論です」
「なに言ってるんだ。結果を見ないと、俺達は死んでいたんだぞ」
今回は過程よりも結果が大事だ。
過程だけ命を落とすようならただのバカ者。
そうならなかっただけマシだと思うのが、せめてもの心の余裕だ。
「それでミュシェルは怪我してないのか?」
「は、はい! 私はカガヤキさんのおかげで」
「俺のおかげって……」
ミュシェルに怪我が無いのは、考えてみれば当たり前だ。
後方からずっと支援してくれていた。
俺が勝手に前衛を張り、先走ったのが全ての始まり。そうだとすれば、悪いのは俺のせいだ。
「ミュシェルは充分やった。それでいいだろ?」
「それでいい……でも、無くなった人達はもう」
「帰って来ないだろうな」
スーレットによって操られ、贄=殺された人達は帰ってこない。
火柱の中に飛び込んだら最後で、骨まで残らないだろう。
ましてや外に火柱が立っていない。緋色の空も暗がりに染まり、証拠になるものは何も残っていなかった。
「でも、これ以上の被害は出ないのも事実だ」
「それはそうですけど……私がもっと早くスーレットさんを止めていれば」
「スーレットを止めるなんて真似、どう足搔いてもできなかった筈だ。そうだろ、ミュシェルのお父さん?」
「ああ、その通りだよ。全て私のせいだ。私がもっと早くスーレット君の本性を見破っていれば」
「それを言った所で変わらない。既に変わってしまったものを変えることはできないなら、これからを変えるしかない。そのためには、現実を受け入れて現実を変えるしかない……って、俺が言っても仕方がないよな」
自分で言っておいてなんだが、まるで響かなかった。
俺はミュシェルやミュシェルの父親なら、もっとマシな言葉が出ると思った。
けれど何も言い返されず、俺は瞬きをしてしまった。
「あれ、なんで止まるんだよ」
「カガヤキさんって、凄いですよね。そんな言葉を堂々と言えるなんて」
「やめろ、恥ずかしい!」
「恥ずかしくなんてありません。そうですよね、お父さん」
「うん。君の様な人が、本当に必要とされる存在なんだろうね」
「ああ、マジでハズい。死にたくなるんだけど……」
俺は顔面が真っ赤に染まって赤面してしまった。
全身から熱が出ると、ミュシェルとミュシェルの父親から放たれた言葉が弾丸のように胸が痛くなる。
しかもいくら止めて欲しくても眩しい瞳が俺を打つ。完全に逃げ道を失うと、自分で墓穴を掘ったことで死にたくなった。比喩的に。
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