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第19.5話 私の大切な人
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時計塔の一室が光に覆われてしまいました。
眩い世界は私の視界さえ奪います。
唱えた本人がこれを言うのは何ですが、ホワイトアウト世界では、身動きを取ることができません。
「倒せていればいいのですが……」
カガヤキさんが開いてくれた道です。
私は絶対に無駄にできません。
その一瞬で唱えた魔法を繰り出し、内心では不安を抱えていました。
「お願いします、お願いします」
もはや神様に願うことしかできません。
私は精一杯の結果に目を伏せると、ホワイトアウトした世界が、少しずつ開けてきました。
「これは……」
時計塔の一室は見るも無惨でした。
私の立つ場所の後ろは一切の被害が出ていません。では逆に目の前はと言うと、まず置いてある机や椅子、壁に掛けてあった絵などは全て消えています。
老朽化はしていますが、分厚い壁に大きな穴が開き、外の様子が丸分かりです。
若干赤焼けた黒い空がポッカリと浮かび、静寂が訪れます。
断末魔は聞こえて来ず、ましてや地獄絵図は広がっていません。
如何やら無事に倒せた。目の前にスーレットさんがいないことで安堵した私ですが、胸を撫で下ろすわけには行きませんでした。
「カガヤキさんは……いない」
そこにカガヤキさんの姿がありませんでした。
スーレットさんを一人で押さえ込み、私に声援をくれていたカガヤキさんは、目の前から忽然と姿を消していました。
「もしかして、私のせいで……」
心が一気に渇きます。スーレットさんを無事に倒したことに喜ぶべきでしょうが、全く喜べません。
むしろカガヤキさんを殺してしまった。
そんな無情な結末がドッと押し寄せると、私は自分の胸を押さえます。ドクンドクンと命を散らす心臓の鼓動が脈打つと、吐き気を催しました。
「あっあっあああああああああああああああ! 私は、私は、私は、私は」
「ミュシェル!」
崩れた砂の像になった私に、父が駆け寄ってくれました。
心配そうに崩れた私を抱き締めると、私は熱い涙を流します。
「お父さん!」
「よくやった、ミュシェルはよくやった。この街を救った英雄だ」
「そんな、それは私に贈られるものじゃないです。それに私は、カガヤキさんを……」
「それは……そうだね。あの少年、カガヤキ君がいなければ今頃私達は」
父もカガヤキさんのことを想ってくれました。
しかしカガヤキさんを殺したのは私です。
尊い犠牲なんて軽い言葉では済みません。大勢を救うために、一人を犠牲にするなんて真似、結局自己満足の正義です。綺麗事でも何でもいいです。私は、大切な人を自分自身の手で殺した。それだけが、私の気持ちを支配します。
「お父さん、私は、私……」
「ミュシェル、この私を許して欲しいとは言わない。全ては私がバカだった。スーレット君に加担しすぎた、私の責任だ」
「お父さんのせいではないです。でも、カガヤキさんは……」
如何足掻いても帰っては来ません。
私の唱えた魔法、大魔法救世の神槍撃は、触れた全てを神なる光で貫き浄化する。いくら魔族でなくとも、その威力は絶大。肉体を取り留めることなど不可能で、この世の全てを浄化してしまう。そんな大技でした。
「私があんな魔法を使わなければ」
「それは違う。ミュシェルは……私の娘だ。誇っていい。全ての責任は、私自身が償う」
父はとても優しいです。
この事態の責任を全て自分自身が引き受けようとします。
けれどいくら責任を取ろうが、失った命は一つも帰ってはこないのです。罪の無い街の人達も、この街を救って本当の英雄も……
「なぁ、さっきから聞いてるけど、勝手に人を殺すなよ」
そんな中、聞き慣れた声がしました。
私と父のことを罰する声。
すぐさま耳が傾き、視線を飛ばす。するとそこにいたのは少年でした。
「か、か、か、か、か」
「なんだよミュシェル。幽霊でも見たような顔するな」
「か、か、か、か、か」
「くどい!」
そうですね、確かにくどいですよね。
そう言われても不思議ではないのですが、やはり私は固まります。
そこに立っていたのは少年。
黒い服に身を包み、頭からは赤い角を生やす。
しかしその全ては偽物。そう、そこに立っていたのは、私の大切な人でした。
眩い世界は私の視界さえ奪います。
唱えた本人がこれを言うのは何ですが、ホワイトアウト世界では、身動きを取ることができません。
「倒せていればいいのですが……」
カガヤキさんが開いてくれた道です。
私は絶対に無駄にできません。
その一瞬で唱えた魔法を繰り出し、内心では不安を抱えていました。
「お願いします、お願いします」
もはや神様に願うことしかできません。
私は精一杯の結果に目を伏せると、ホワイトアウトした世界が、少しずつ開けてきました。
「これは……」
時計塔の一室は見るも無惨でした。
私の立つ場所の後ろは一切の被害が出ていません。では逆に目の前はと言うと、まず置いてある机や椅子、壁に掛けてあった絵などは全て消えています。
老朽化はしていますが、分厚い壁に大きな穴が開き、外の様子が丸分かりです。
若干赤焼けた黒い空がポッカリと浮かび、静寂が訪れます。
断末魔は聞こえて来ず、ましてや地獄絵図は広がっていません。
如何やら無事に倒せた。目の前にスーレットさんがいないことで安堵した私ですが、胸を撫で下ろすわけには行きませんでした。
「カガヤキさんは……いない」
そこにカガヤキさんの姿がありませんでした。
スーレットさんを一人で押さえ込み、私に声援をくれていたカガヤキさんは、目の前から忽然と姿を消していました。
「もしかして、私のせいで……」
心が一気に渇きます。スーレットさんを無事に倒したことに喜ぶべきでしょうが、全く喜べません。
むしろカガヤキさんを殺してしまった。
そんな無情な結末がドッと押し寄せると、私は自分の胸を押さえます。ドクンドクンと命を散らす心臓の鼓動が脈打つと、吐き気を催しました。
「あっあっあああああああああああああああ! 私は、私は、私は、私は」
「ミュシェル!」
崩れた砂の像になった私に、父が駆け寄ってくれました。
心配そうに崩れた私を抱き締めると、私は熱い涙を流します。
「お父さん!」
「よくやった、ミュシェルはよくやった。この街を救った英雄だ」
「そんな、それは私に贈られるものじゃないです。それに私は、カガヤキさんを……」
「それは……そうだね。あの少年、カガヤキ君がいなければ今頃私達は」
父もカガヤキさんのことを想ってくれました。
しかしカガヤキさんを殺したのは私です。
尊い犠牲なんて軽い言葉では済みません。大勢を救うために、一人を犠牲にするなんて真似、結局自己満足の正義です。綺麗事でも何でもいいです。私は、大切な人を自分自身の手で殺した。それだけが、私の気持ちを支配します。
「お父さん、私は、私……」
「ミュシェル、この私を許して欲しいとは言わない。全ては私がバカだった。スーレット君に加担しすぎた、私の責任だ」
「お父さんのせいではないです。でも、カガヤキさんは……」
如何足掻いても帰っては来ません。
私の唱えた魔法、大魔法救世の神槍撃は、触れた全てを神なる光で貫き浄化する。いくら魔族でなくとも、その威力は絶大。肉体を取り留めることなど不可能で、この世の全てを浄化してしまう。そんな大技でした。
「私があんな魔法を使わなければ」
「それは違う。ミュシェルは……私の娘だ。誇っていい。全ての責任は、私自身が償う」
父はとても優しいです。
この事態の責任を全て自分自身が引き受けようとします。
けれどいくら責任を取ろうが、失った命は一つも帰ってはこないのです。罪の無い街の人達も、この街を救って本当の英雄も……
「なぁ、さっきから聞いてるけど、勝手に人を殺すなよ」
そんな中、聞き慣れた声がしました。
私と父のことを罰する声。
すぐさま耳が傾き、視線を飛ばす。するとそこにいたのは少年でした。
「か、か、か、か、か」
「なんだよミュシェル。幽霊でも見たような顔するな」
「か、か、か、か、か」
「くどい!」
そうですね、確かにくどいですよね。
そう言われても不思議ではないのですが、やはり私は固まります。
そこに立っていたのは少年。
黒い服に身を包み、頭からは赤い角を生やす。
しかしその全ては偽物。そう、そこに立っていたのは、私の大切な人でした。
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