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全部逆なんだよ

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「い、一体、一体なにをした? なにをしたつもりだ」
「そう焦るなよ、スーレット。お前のことをこんなにも讃えてくれてるじゃないか」

 スーレットはなんとも言い難い感情に襲われていた。
 あまりにも不愉快で仕方が無い。ただそれだけは言える。
 けれど如何してこんなことになったのか。スーレットの予想を遥かに超える。

「か、カガヤキさん!?」

 ミュシェルも想定外の事態に困惑している。
 最初から何が如何なっているのか、まるで分かっていなかった。
 それが更にややこしくなると、俺のことを見つめて仕方が無い。

「スーレット、よかったな。お前のことをここまで讃えてくれる大切な人達がいて」
「くっ、納得ができない。だが、墓穴を掘ったな!」
「墓穴? またそれ」
「ああそうだ。さっきは上手く行かなかったが、この町の人間達が憐れにもこの私を讃えるのなら、私の力としてこのまま贄となって貰うだけだ! 今度こそ、必ず……」
「さーて、そう上手く行くかな?」

 スーレットは魔力を高める。
 火柱に飛び込んだ人達の魔力を奪っているのだろう。
 全身を脈動させ、魔力を沸々と立ち込ませるも、スーレットは異変に気が付く。

「な、なにっ……なんだこれ」
「どうしたんでしょうか、スーレットさんの様子がおかしいですよ?」
「そうだな」
「そうだなって、カガヤキさん、それは……」
「何故だ! 何故、何故魔力が増えない。渇望する私に魔力が供給されないんだ!」

 スーレットは込み上げる違和感を異変と捉え、俺に向かって叫び散らかす。
 血走った眼で射殺そうとする。
 如何やら本気で俺の策に嵌ったらしく、スーレットは罵声を浴びせた。

「この私になにをした。答えろ!」
「分からない? スーレットとあろう者が?」
「黙れ。この私から魔力を奪ったのはお前だな。どんな魔法を使った」
「魔力を奪うなんて真似しない。お前は、消費した魔力を火柱に飛び込んだ人達の命を糧にすることで補っていたな。それが滞っただけだ」
「な、なんだと?」

 スーレットは目を丸くする。あり得ないと思ったらしい。
 けれどそれが実際にあり得ている。
 スピーカーからは永遠に「スーレット様~」と呼び掛けられ、今にも発狂してしまいそうだった。

「お前の信者達が叫んでいるぞ」
「信者などではない。この私の贄だ。贄ならば、贄らしく私の力になれ」
「ならないよ。だって、スーレット自身が言ったじゃないか。そうだ、この街の人達は死に行くためにはいない。全てこの私に任せれば、必ずよりよく導こうではないか、ってね」

 全てはスーレットが墓穴を掘ったのだ。
 そもそもの話、スーレットに失望すれば全て解決されるとは思えない。
 疑わしきは罰せよ。だから俺はスーレットを罰した。

 どのみち本人が死んだ場合、魔法は解ける。
 洗脳も解け、元通りになるのが相場だと思う。

 だからスーレットを倒せば全て終わる。それなら倒してしまえばいい。
 そのためには人質は大きな足枷だ。
そんなものに飲み込まれる訳にはいかず、俺はスーレット自身の手で状況を一変させた。

「どういうことですか、カガヤキさん?」
「スーレットの言葉に従うのなら簡単だ。スーレット自身で命令を下せばいい」
「命令ですか?」
「うん。スーレットはこの街の人達を人質に取って殺そうとした。それなら、殺せないようにすればいい。この街の人達をスーレットに妄信させればいい。そうすれば、下手に自死を選ぶことはしない。その可能性に懸けたんだ」

 あまりにも細い、確証もない賭けだった。
 けれど俺はその賭けに打ち勝った。
 こうしてスーレットを精神的にも追い詰めると、俺はスーレットに剣を見せつける。

「そんなバカな話があってたまる」
「〈地球の鎖鋸剣アースセイバー〉」
「私は、私はベルファー様の、ベルファー様の側近であって」
「それなら、ベルファーを殺した武器でお前を殺す。それがお前へのせめてもの手向けだ」

 俺の手にはチェーンソーのような形状の剣が握られている。
 ギュィンギュィンと甲高い伐採音を掻き鳴らす。
 スーレットにはベルファーと同じやり方で倒す。できる最善を尽くそうと、俺はミュシェルの手を握る。

「それじゃあミュシェル、やろうか」
「や、やるってなんですか!?」
「スーレットを倒す。行くぞ」
「は、はい!」

 ミュシェルは緊張している。
 それでも俺の意見に従ってくれた。
 もう負ける気がしない。魔力の枯れたスーレットは敵ではなく、俺は拳を突き付けた。
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