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信頼に失望を
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俺はとにかく作戦を遂行し続ける。
スーレットから引き出される真実には常に根拠がある。
けれど俺は決して油断しない。スーレットから“これ”という一言を出させる。
「スーレット、お前にとってこの街の人達はただの贄とか言ったな」
「ふん、今更なんだ」
「お前は言った筈だ。自分自身への失望こそが、街の人達を救い出す唯一の方法だってな」
「ん? なるほど、やはりそう言うことだったか」
スーレットは俺の言葉に過剰反応した。
何をしようとしているのか、何をしているのか、全てを理解した顔になる。
如何やら俺の考えを読み切ったらしい。
「お前の考えていることは分かったぞ。そうだな、確かにこの街に住む人間達は私にとって、目的を果たすための贄だ」
「そうか……」
「だが、それは私だけではない。この街の人達を幸福に導くためのもの。贄など本当は必要ない。生きていることにこそ、本当の意味を持つべきだ」
スーレットの言動が変わった。まるで怪しい教祖だ。
俺はドクンと胸を打つと、ミュシェルの手がソッと触れた。
不安そうな顔を今度はミュシェルが浮かべ、俺をチラチラ見ている。
「そうだ、この街の人達は死に行くためにはいない。全てこの私に任せれば、必ずよりよく導こうではないか」
スーレットは勝手な宣言を下した。
あまりにも馬鹿馬鹿しい。中身があるように見えて全くない。
愕然としてしまうのは冷静な思考を持っているからで、むしろ求めていたもの。
ここでカメラ映像を切り替えると、俺はスーレットに指を指す。
「まんまと嵌ってくれたな、ありがとな」
「なんだ? 私は気が付いているぞ!」
「な、なにが起こっているんですか?」
未だにミュシェルはこの作戦の意味が分かっていない。
何をしていたのか、何をしているのか、遂行中の目的が見えない。
挙動不審な態度を取ると、俺ではなくスーレットが口走る。
「お前は私の存在を失望させようとした。そうすれば、この街の人間達を解放できると信じていたのだろう」
「ええっ!?」
ミュシェルは今更気が付いた。
もちろんスーレットの言っていることは半分以上合っている。
俺はスーレットに対する信頼を失望に変えようとした。そうすれば、人質が居なくなるからだ。
「お前の持つその怪しい魔道具には、過去の映像を映し出す魔法が付与されているらしいな」
「そうだな。お前は、コレのプロジェクター機能を見ている」
「プロ? それはなにか知らないが、全て無駄だ。私を失望させなければ、人間達は私の伝えた言葉通りに動く。つまり、私の存在に失望させなければいい。墓穴を掘ったな、私に気が付かせるような真似をして。だからお前はバカなんだ」
スーレットは高笑いを浮かべた。
完全に勝ち誇っていて、心底煩わしかった。
俺も黙って聞いていたのだが、一番震えるのはミュシェルだ。
「カガヤキさん。それは本当なんですか!?」
「まあな」
「そんな……それじゃあ、私達がしたことは意味が無く」
「失敗……そう思うのは早いんじゃないのか?」
俺はミュシェルの手を握り返した。
冷たく震えていたミュシェルの体温が伝わる。
少しでも俺のことを信じて欲しい。ここでそんなへまをする程、俺はバカじゃないのだ。
「スーレット、お前は俺が失望させようと思って、言葉を引き出させたと思ったのか?」
「ん? それが普通だろ」
「普通ね……魔王が普通のことをするのか?」
「なに? 私の主人のことを愚弄する気か。こちらには人質がいるんだぞ」
「だからなんだよ? そんなの関係無い。俺はお前の“普通”なんて、最初から見ていないんだよ」
スーレットのことをとにかく煽り散らかす。
この程度の挑発に乗ってくる訳ではない。
苛立った様子も見せず、表情を変えないが、一つだけスーレットを煽る秘策がある。
「お前を部下に据えるなんて、ベルファーはとんだバカだな」
「なんだと……」
「俺相手に負けるような奴だ。所詮は負鬱しか見えていないんだろうな」
「……ベルファー様のことを悪く言うな。ベルファー様は、私の主人は……普通では無いのだ!」
スーレットの怒りの導火線に火を付ける。
瞳が真っ赤に燃え上がり、全身が炎に包まれる。
存在そのものが高温の火柱に変わるも、俺は一切動じない。
ミュシェルを傍に寄せると、スーレットを睨み続けた。
「身の程を思い知れ。人質を殺し、私の力に!」
「そんな真似できるかよ」
「ふん、どうとでも言え……えっ?」
スーレットは洗脳中の人達を使おうとした。
如何やらベルファーを侮辱した俺に目にものを見せようとする。
だがしかし、そんな真似が通用しない。スーレットはポカンと呆れる。
「何故だ。何故魔力が……魔力が供給されない」
「全てはお前のせいだ。お前自身が墓穴を掘ったんだよ」
「なん・だと?」
スーレットの間抜け面が俺に答えを求める。
それなら見せてやろうか。スーレットの知りたくなかった事実。
指パッチンをしてみせると、ヘッドホン越しから声が聞こえた。街中の人達のどよめきが、スーレットを射抜く。
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、スーレット様~!!!」」」
どよめきは歓喜に変わった。
鼓膜が突き破られそうになる勢いで、耳が痛くなる。
思った以上の効果が発揮されると、満面の笑みを浮かべた。
スーレットから引き出される真実には常に根拠がある。
けれど俺は決して油断しない。スーレットから“これ”という一言を出させる。
「スーレット、お前にとってこの街の人達はただの贄とか言ったな」
「ふん、今更なんだ」
「お前は言った筈だ。自分自身への失望こそが、街の人達を救い出す唯一の方法だってな」
「ん? なるほど、やはりそう言うことだったか」
スーレットは俺の言葉に過剰反応した。
何をしようとしているのか、何をしているのか、全てを理解した顔になる。
如何やら俺の考えを読み切ったらしい。
「お前の考えていることは分かったぞ。そうだな、確かにこの街に住む人間達は私にとって、目的を果たすための贄だ」
「そうか……」
「だが、それは私だけではない。この街の人達を幸福に導くためのもの。贄など本当は必要ない。生きていることにこそ、本当の意味を持つべきだ」
スーレットの言動が変わった。まるで怪しい教祖だ。
俺はドクンと胸を打つと、ミュシェルの手がソッと触れた。
不安そうな顔を今度はミュシェルが浮かべ、俺をチラチラ見ている。
「そうだ、この街の人達は死に行くためにはいない。全てこの私に任せれば、必ずよりよく導こうではないか」
スーレットは勝手な宣言を下した。
あまりにも馬鹿馬鹿しい。中身があるように見えて全くない。
愕然としてしまうのは冷静な思考を持っているからで、むしろ求めていたもの。
ここでカメラ映像を切り替えると、俺はスーレットに指を指す。
「まんまと嵌ってくれたな、ありがとな」
「なんだ? 私は気が付いているぞ!」
「な、なにが起こっているんですか?」
未だにミュシェルはこの作戦の意味が分かっていない。
何をしていたのか、何をしているのか、遂行中の目的が見えない。
挙動不審な態度を取ると、俺ではなくスーレットが口走る。
「お前は私の存在を失望させようとした。そうすれば、この街の人間達を解放できると信じていたのだろう」
「ええっ!?」
ミュシェルは今更気が付いた。
もちろんスーレットの言っていることは半分以上合っている。
俺はスーレットに対する信頼を失望に変えようとした。そうすれば、人質が居なくなるからだ。
「お前の持つその怪しい魔道具には、過去の映像を映し出す魔法が付与されているらしいな」
「そうだな。お前は、コレのプロジェクター機能を見ている」
「プロ? それはなにか知らないが、全て無駄だ。私を失望させなければ、人間達は私の伝えた言葉通りに動く。つまり、私の存在に失望させなければいい。墓穴を掘ったな、私に気が付かせるような真似をして。だからお前はバカなんだ」
スーレットは高笑いを浮かべた。
完全に勝ち誇っていて、心底煩わしかった。
俺も黙って聞いていたのだが、一番震えるのはミュシェルだ。
「カガヤキさん。それは本当なんですか!?」
「まあな」
「そんな……それじゃあ、私達がしたことは意味が無く」
「失敗……そう思うのは早いんじゃないのか?」
俺はミュシェルの手を握り返した。
冷たく震えていたミュシェルの体温が伝わる。
少しでも俺のことを信じて欲しい。ここでそんなへまをする程、俺はバカじゃないのだ。
「スーレット、お前は俺が失望させようと思って、言葉を引き出させたと思ったのか?」
「ん? それが普通だろ」
「普通ね……魔王が普通のことをするのか?」
「なに? 私の主人のことを愚弄する気か。こちらには人質がいるんだぞ」
「だからなんだよ? そんなの関係無い。俺はお前の“普通”なんて、最初から見ていないんだよ」
スーレットのことをとにかく煽り散らかす。
この程度の挑発に乗ってくる訳ではない。
苛立った様子も見せず、表情を変えないが、一つだけスーレットを煽る秘策がある。
「お前を部下に据えるなんて、ベルファーはとんだバカだな」
「なんだと……」
「俺相手に負けるような奴だ。所詮は負鬱しか見えていないんだろうな」
「……ベルファー様のことを悪く言うな。ベルファー様は、私の主人は……普通では無いのだ!」
スーレットの怒りの導火線に火を付ける。
瞳が真っ赤に燃え上がり、全身が炎に包まれる。
存在そのものが高温の火柱に変わるも、俺は一切動じない。
ミュシェルを傍に寄せると、スーレットを睨み続けた。
「身の程を思い知れ。人質を殺し、私の力に!」
「そんな真似できるかよ」
「ふん、どうとでも言え……えっ?」
スーレットは洗脳中の人達を使おうとした。
如何やらベルファーを侮辱した俺に目にものを見せようとする。
だがしかし、そんな真似が通用しない。スーレットはポカンと呆れる。
「何故だ。何故魔力が……魔力が供給されない」
「全てはお前のせいだ。お前自身が墓穴を掘ったんだよ」
「なん・だと?」
スーレットの間抜け面が俺に答えを求める。
それなら見せてやろうか。スーレットの知りたくなかった事実。
指パッチンをしてみせると、ヘッドホン越しから声が聞こえた。街中の人達のどよめきが、スーレットを射抜く。
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、スーレット様~!!!」」」
どよめきは歓喜に変わった。
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