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第16話 スーレットを止めるため

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 俺は時計塔までやって来た。
 火柱が立ち、入口からは時計塔に入れない。

「仕方ないな。飛ぶか」

 俺は再び魔法を発動した。
 背中から翼を生やし、一番最上階を目指した。

「せーのっ!」

 地面を蹴り上げ、背中から生えた翼をはためかせた。
 バサバサと音を立て、最上階で一番近い窓をブチ破る。
 ガラス片が飛び散るが、一応魔王キャラなので、ダメージを受けることは無かった。

「で、今に至るんだがな」
「「「今に至る?」」」

 全員にツッコまれてしまった。
 せっかく助けに来たはずが、俺が助けに来たことに安心しきってしまい、ミュシェルもその父親も俺の顔を見てポカンとしている。
 ましてやスーレットまでここまで張り詰めていた筈の空気を一度崩し、俺の説明に異を唱えた。

「ふん、お前が私の主人を殺したんだな」
「主人?」
「私の主人は戦いに飢えていた。最後まで雄姿はこの目に焼き付いている。お前など、私の主人の足元にも及ばない!」
「はぁ? 主人って言うのは、あれか?」
「炎の魔王:ベルファーのことです!」

 記憶の壺を引っ繰り返し、俺はスーレットの主人について考えた。
 けれど引っ繰り返す必要も無かった。
 案の定ベルファーのことで、如何やらスーレットは俺を恨んでいるらしい。

「ベルファー? ってことはお前は」
「私はお前を憎んでいる。ここで愚かな親子共々、消え失せろ!」

 スーレットは背中からコウモリの羽を生やしていた。
 俺に向かって突撃すると、拳を振り上げる。
 炎を灯し、顔目掛けて渾身の一撃を叩き込む。

盾座の黒鉄シールド・アイアン!」

 もちろん俺は拳に合わせて魔法を唱えた。
 スーレットの繰り出した拳を、黒鉄色の盾がしっかりと受け止める。
 ガーンと鈍い金属音を立てると、盾は軋み出し、衝撃を吸収した。

「チッ、それが私の主人を阻んだ盾か」
「だったらなんだ?」
「その程度の盾、この私には無意味だ」

 スーレットは盾の下に拳を入れた。
 かち上げるように俺の顎を狙って打ち込むと、流石に痛そうに思う。
 半歩後ろに下がると、スーレットの攻撃を躱し、逆に反撃を仕掛ける。

α星の衝撃アルファ・インパクト

 スーレットの懐目掛けて拳を叩き込む。
 単発攻撃ならα星の右に出るものは無い。
 俺のイージーパンチだったが、スーレットは容易く受け止める。

「ふん」
「嘘だろ? 羽で受け止めるとかありかよ」

 スーレットは羽を折り畳む形で俺の拳を受け止める。
 大抵の相手なら吹き飛ばせる筈なのだが、スーレットには通じない。
 しかもニヤついた笑みを浮かべ、完全に俺を舐めていた。

「その程度か、いや違うな!」
「ま、まあ?」
「もっと本気でかかって来い。私の主人を奪った恨み、晴らさせて貰う」
「恨みとか俺に言われても知らないんだが。そもそも、挑んできたのはベルファーであって……」
「黙れ。緋色の吸血爪スカーレット・ドレイク

 スーレットは両腕を広げた。
 まるで口の様な形に表現すると、魔法が発動した。
 緋色の魔力が鋭い牙のようになり、突き出された指先が鋭くなった。

「死ねっ!」
「いや、死にたくは無いから」

 こういう時、カッコよく決めるのが主人公だ。
 でも俺はそんなこと如何だっていい。
 別に魅せるプレイを心掛ける気も無く、スーレットの繰り出した魔法が俺に到達する直前……

「よっと」
「「避けた!?」」

 体をスライドさせ、攻撃の軌道から外れる。
 するとスーレットは魔力を消費しただけで攻撃が空ぶった。
 完全にスーレットをあしらってみせた俺は、蟀谷をソッと掻く。

「な、何故避けた」
「いや、避けるに決まってるだろ。だって……痛いの嫌だし」

 ここに来て超絶真面目に返答した。
 最終局面の死力を尽くす戦いの最中にもかかわらずだ。
 もはや俺は姿勢を崩すことは無く、スーレットをまじまじと馬鹿馬鹿しく見てしまった。
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