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スーレットの笑み
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時計塔内部。そこはエスメールを取りまとめる、役所になっていた。
もちろん、こんな夜遅くまで働くほど、福利厚生がなっていない訳が無い。
今の時間、残っている職員は少ないだろうが、男性が一人残り、何やら作業をしていた。
「少しですね」
スーレットはニヤけた顔を浮かべていた。
赤い瞳がチラつき、窓の外を見る。
轟々と音を立てる火柱。
空は赤く緋色に染まり、如何にもこの世の終わりを表現する。
ここまでの準備はとても大変だった。
少しずつ、本当に少しずつ用意してきたお膳立て。しかしその約束も果たせず、スーレットは窓を思いっきり叩く。
「クソッ! あの男が現れなければ、私の計画は」
スーレットは苦虫を噛み潰したような顔になる。
豹変し、真っ赤に燃える瞳は、今にも炎が吹き出そう。そんな勢いを残しつつ、スーレットは唇の震えを解いた。
「まあいいでしょう。これで私の計画は完遂する。そうなれば、この地は貴方様のもの。そう、私は功労者として貴方様の胸に刻まれるでしょう」
スーレットはニヤけが止まらない。
もう少しで果たされると思うと、愉悦が溢れ出る。
「そしてこの場所は、見晴らすのに丁度いい」
「スーレット君?」
「ん? これは、エスメール伯爵」
そんな中、時計塔にはまだ人が残っていました。
スーレットが振り返ると、背広姿の男性が立っています。
神妙な顔付きでスーレットを見つめ、口を動かしました。
「こんな夜遅くまで仕事かい? 偉いね」
「はい。丁度終わった所です」
「終わった所? ではどうして私の部屋に?」
「それは、明日の業務に備え、エスメール伯爵にお借りしたいものがありましたので」
「そうだったのか。それなら、どうして笑っているんだい? しかも、今も……」
スーレットはずっと笑っていた。
愉悦が止まらず、いつもなら凛としている筈のスーレットらしくない。
エスメール伯爵はスーレットの様子がおかしいことを見いだすと、追及するように口走る。
「それより大変なんだよ。街で住人達の一部が突然ゾンビの様な動きをし、他の住人達を襲っているんだ」
「えっ!? そのようなことが起きているんですね」
「うん。スーレット君はなにか知らないかい?」
「いいえ、なにも知りません。ですがことは一刻を争いますね。早急になにか対策を立てるべきでしょう」
「私もそう思い、急ぎ屋敷から戻って来たんだ。ゾンビと言うことはアンデット種。急いで教会に行き、聖職者と連携を取る必要があるんだ。スーレット君、君も来てくれるね」
エスメール伯爵は、街の人達のために尽力しようとする。
即ちより良い街作りのため、追従できる珍しい貴族だ。
そのおかげか、エスメールは魔王城に近いにもかかわらず、住民が多く、普段から活き活きしている。事態の収拾に急ぐ姿勢を鑑みてか、スーレットも力を貸そうと思った……が、そんなことはできない。
「すみません、エスメール伯爵。私も共に行きたいのですが」
「スーレット君に限ってかい?」
「はい、今だけはすみません。それでは……」
スーレットは時計塔の居心地が悪くなり、去ろうと思った。
けれどエスメール伯爵はスーレットを逃がしはしない。
優秀なスーレットだからこそ、エスメール伯爵からの信頼も厚い。
とは言え、エスメール伯爵の腕が伸びた瞬間、スーレットの体から炎が漏れた。
「熱っ!?」
「す、すみません、エスメール伯爵」
「……いや、それはいいんだが……スーレット君。今、街では謎の火災が発生しているんだよ。炎の魔法が操れる君なら、なにか知っているんじゃないかい?」
エスメール伯爵はスーレットを疑った。
何を言っているのだろうか、まるで根拠もない。
馬鹿馬鹿しいと思いながら、スーレットはエスメールをあしらう。
「いいえ、なにも知りませんよ」
「そうなのかい? それなら……」
「ん?」
「どうして同じ波長の魔力を持っているのかな?」
スーレットはその瞬間、ゾクリとした。
背筋が凍り付きそうな程ゾワリとなり、エスメール伯爵は確信を持った。
「エスメール伯爵、どうしてそう思われるのです?」
「私を侮って貰っては困るよ」
「そうですか、そうですよね……エスメール伯爵、今までご苦労様でした。これからはこの私がこの街を治めて差し上げます。ですので、ここで消えろ!」
スーレットは両手から炎を出した。
轟々と燃え盛り、時計塔の一室が急激に熱くなる。
一瞬にして百℃にまで達すると、エスメール伯爵は息ができなくなる。
「がっ、あっ! 一体、なにが……スーレット君」
「スーレット君だと? この私は炎の魔王:ベルファー様の忠実なる下僕、スーレットですよ」
「炎の魔王!? そ、それじゃあ、今まで……」
「ベルファー様のため、ここまで尽力した私の怒り、貴方自身が味わうといい。死ねっ!」
スーレットはエスメール伯爵相手に、まるで手加減をする気が無い。
ましてや本気で殺しに来ている。
エスメール伯爵は死を覚悟するも、瞳は決して避けなかった。
もちろん、こんな夜遅くまで働くほど、福利厚生がなっていない訳が無い。
今の時間、残っている職員は少ないだろうが、男性が一人残り、何やら作業をしていた。
「少しですね」
スーレットはニヤけた顔を浮かべていた。
赤い瞳がチラつき、窓の外を見る。
轟々と音を立てる火柱。
空は赤く緋色に染まり、如何にもこの世の終わりを表現する。
ここまでの準備はとても大変だった。
少しずつ、本当に少しずつ用意してきたお膳立て。しかしその約束も果たせず、スーレットは窓を思いっきり叩く。
「クソッ! あの男が現れなければ、私の計画は」
スーレットは苦虫を噛み潰したような顔になる。
豹変し、真っ赤に燃える瞳は、今にも炎が吹き出そう。そんな勢いを残しつつ、スーレットは唇の震えを解いた。
「まあいいでしょう。これで私の計画は完遂する。そうなれば、この地は貴方様のもの。そう、私は功労者として貴方様の胸に刻まれるでしょう」
スーレットはニヤけが止まらない。
もう少しで果たされると思うと、愉悦が溢れ出る。
「そしてこの場所は、見晴らすのに丁度いい」
「スーレット君?」
「ん? これは、エスメール伯爵」
そんな中、時計塔にはまだ人が残っていました。
スーレットが振り返ると、背広姿の男性が立っています。
神妙な顔付きでスーレットを見つめ、口を動かしました。
「こんな夜遅くまで仕事かい? 偉いね」
「はい。丁度終わった所です」
「終わった所? ではどうして私の部屋に?」
「それは、明日の業務に備え、エスメール伯爵にお借りしたいものがありましたので」
「そうだったのか。それなら、どうして笑っているんだい? しかも、今も……」
スーレットはずっと笑っていた。
愉悦が止まらず、いつもなら凛としている筈のスーレットらしくない。
エスメール伯爵はスーレットの様子がおかしいことを見いだすと、追及するように口走る。
「それより大変なんだよ。街で住人達の一部が突然ゾンビの様な動きをし、他の住人達を襲っているんだ」
「えっ!? そのようなことが起きているんですね」
「うん。スーレット君はなにか知らないかい?」
「いいえ、なにも知りません。ですがことは一刻を争いますね。早急になにか対策を立てるべきでしょう」
「私もそう思い、急ぎ屋敷から戻って来たんだ。ゾンビと言うことはアンデット種。急いで教会に行き、聖職者と連携を取る必要があるんだ。スーレット君、君も来てくれるね」
エスメール伯爵は、街の人達のために尽力しようとする。
即ちより良い街作りのため、追従できる珍しい貴族だ。
そのおかげか、エスメールは魔王城に近いにもかかわらず、住民が多く、普段から活き活きしている。事態の収拾に急ぐ姿勢を鑑みてか、スーレットも力を貸そうと思った……が、そんなことはできない。
「すみません、エスメール伯爵。私も共に行きたいのですが」
「スーレット君に限ってかい?」
「はい、今だけはすみません。それでは……」
スーレットは時計塔の居心地が悪くなり、去ろうと思った。
けれどエスメール伯爵はスーレットを逃がしはしない。
優秀なスーレットだからこそ、エスメール伯爵からの信頼も厚い。
とは言え、エスメール伯爵の腕が伸びた瞬間、スーレットの体から炎が漏れた。
「熱っ!?」
「す、すみません、エスメール伯爵」
「……いや、それはいいんだが……スーレット君。今、街では謎の火災が発生しているんだよ。炎の魔法が操れる君なら、なにか知っているんじゃないかい?」
エスメール伯爵はスーレットを疑った。
何を言っているのだろうか、まるで根拠もない。
馬鹿馬鹿しいと思いながら、スーレットはエスメールをあしらう。
「いいえ、なにも知りませんよ」
「そうなのかい? それなら……」
「ん?」
「どうして同じ波長の魔力を持っているのかな?」
スーレットはその瞬間、ゾクリとした。
背筋が凍り付きそうな程ゾワリとなり、エスメール伯爵は確信を持った。
「エスメール伯爵、どうしてそう思われるのです?」
「私を侮って貰っては困るよ」
「そうですか、そうですよね……エスメール伯爵、今までご苦労様でした。これからはこの私がこの街を治めて差し上げます。ですので、ここで消えろ!」
スーレットは両手から炎を出した。
轟々と燃え盛り、時計塔の一室が急激に熱くなる。
一瞬にして百℃にまで達すると、エスメール伯爵は息ができなくなる。
「がっ、あっ! 一体、なにが……スーレット君」
「スーレット君だと? この私は炎の魔王:ベルファー様の忠実なる下僕、スーレットですよ」
「炎の魔王!? そ、それじゃあ、今まで……」
「ベルファー様のため、ここまで尽力した私の怒り、貴方自身が味わうといい。死ねっ!」
スーレットはエスメール伯爵相手に、まるで手加減をする気が無い。
ましてや本気で殺しに来ている。
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