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第14話 燃えるエスメール

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 俺は急いで窓に駆け寄った。
 あまりの勢いに、そのまま外に飛び出してしまいそうになる。
 つい頭をガラスがバラバラに割れた窓から突き出すと、遠くの空が真っ赤に染まっている。

「なんだあれは……」

 流石に言葉を失うしかない。
 烏の羽のような黒い空が、突然緋色に染まったのだ。
 もちろん、自然界でそんなことが起こるのは滅多になく、原因ははっきりしている。

「なんでエスメールが燃えてるんだ?」

 魔王城から見える位置に存在する街、エスメール。
 丁度そこが発端となって空が緋色に染まっている。
 証拠として、エスメール自体が真っ赤になり、轟々と煙のような火柱を上げていた。

「もしかして、燃えたのか?」

 火柱が立つ何てこと、何もしなければあり得ない。
 自然界では存在しないような人為的な火柱に、俺はある懸念が浮かぶ。
 もちろん、ここまでの流れで読んだのだが、明らかにタイミングが計られ過ぎていた。

「まさか、スーレットが……いや、いやいや、そんなバカな真似する訳が無いか」

 多分考えすぎだ。きっとそうに決まっている。
 俺は首をブンブン横に振ると、お粗末な考えを払拭しようとする。
 しかしそう上手くはいかず、いくら考えてもスーレットが頭に浮かぶ。

「この期に及んで、奇をてらうなんて真似、しないに決まっている……けど」

 やけに気になって仕方が無い。
 魔王城から見ているだけじゃ、街の中までは様子が分からない。
 モヤモヤとした気持ちにさせられると、段々火柱の形が変わって見える。

 ジーッと視線を動かさずに睨み付けた。
 空を緋色に染まる薄っすらとした陰影の中、巨大な翼のようなものが浮かび上がる。

 まるでコウモリの羽。
 膜を張った薄い羽根模様が俺を嘲笑うかのようにはばたく。

「釈然としないな」

 唇を噛むと、俺は不服な気持ちが込み上げる。
 ムッとした顔つきになり、次第に額に皺が滲む。
 眉根が寄りかかり、こうしてはいられないと、無性に気持ちを掻き立たせる。

「仕方ない。少し調べてみるか」

 異世界に来たんだ。少しはハッチャケてもいい。
 しかも今の俺は天河晃陽あまかわこうようじゃない、カガヤキ・トライスティルだ。
 自信過剰になると、肩を滑らせ窓から飛び出す。

「せーのっ!」

 俺は眼下に広がる広大な森に飛び出す。
 推定でも十メートルはあるので、落ちればただでは済まない。
 もちろん、落ちて大怪我を負う気は更々無い。

鷲座の翼アクィラ・ウィング!」

 俺は落ちながら魔法を唱える。
 魔王の衣装がヒラヒラ舞い踊ると、背中に魔法陣が浮かび上がる。

 真っ赤な魔法陣だった。もちろん色に意味は無い。
 けれど魔法陣から巨大な翼が出現すると、落ちていく俺の体を浮かす。

「うぉっ! 意外に空を飛ぶのって難しいな」

 俺は空を飛んでいた。巨大な翼を広げ、雄大に空を舞う。
 ……予定だったが、そんなに上手く飛べない。
 ギコちない動きでヨロヨロとし、とてもカッコ悪かったが、それでも何とか夜空に飛び立つ。

「ううっ、体幹が抉られる……でもこれなら……」

 俺はエスメールを上から眺めたかった。
 まずは何が起きているのか、傍目から客観的に知りたい。
 けれど今にも落っこちてしまいそうな不安な飛行体験に苦しまれながら、俺は全力でエスメールを目指した。もちろん、安全運転かつ超ノロノロ飛行で。
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