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カガヤキなりの理由
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「と言うことがあったんです」
「なるほど。そのカガヤキって男はクソだね」
私はラパンさんにこれまでの経緯を話しました。
もちろん、その過程でカガヤキさんが転移者であることも伝えました。
しかし肝心のラパンさんの口から出たことは歯、カガヤキさんを罵倒するものです。
一体何故? そう思うと同時に、少しだけ怒りが込み上がりました。
「ラパンさん、どういうことですか?」
「どうもこうもないでしょ? こんな可愛いミュシェルを一方的に突き話すなんて、最低のクズ以外ありえないよ」
「そ、そんなこと……」
私は自分が褒められていることよりも先に、カガヤキさんの擁護に入ります。
なにせ、自分のことよりも、知り合いが貶される方が嫌だからです。
「きっとカガヤキさんにも、なにか事情があったんだと思います」
「事情? ここまで尽くしてくれたミュシェルを突き話すだけの事情があるの?」
「尽くしたって……私が勝手にしただけですから」
「ふーん、じゃあ逆に聞くけど、ミュシェルはその男に尽くして、なにか嫌なことは無かったの?」
ラパンさんは人差し指を突き付け、私に訊ねました。
“嫌なこと”。そう言われても、特に思いつきません。
私は別にいつも通りのことをしたまでで、むしろお節介に思われたのかと考えます。
「そう言われてましても……うーん」
「ふーん、ミュシェルはそのカガヤキって男のことが好きな訳ね」
「えっ、好き?」
「あれ、違うのね。てっきりミュシェルにも、ようやく好きな人ができたのかなって、私思ったけど?」
“好き”。私がカガヤキさんを想う理由は、なにか違う気がします。
確かに珍しく赤面したり、尽くしていて嫌な想いはしませんでした。
しかしそれは、カガヤキさんが炎の魔王を倒し、私達の非道な行いを許してくれたから。
その恩を仇で返すわけにはいかないと思ったまでのこと……の筈ですが、何か引っかかります。
「私は一体何故……」
「もしかして、分からないの?」
「は、はい。どうして私はここまでカガヤキさんのことを……」
魅力的なものは何もありません。
ただ可哀そうな人な気がして、放っておけない。
それが今の私の見解ですが、それを口にすると、本当になってしまいそうで、胸の奥に押し付けました。
「それじゃあ少し、考える視点を変えてみるわね。どうしてその男は、ミュシェルを突き話したのか分かる?」
「それが一番分からないんです。ただ、カガヤキさんはなにか理由があって、私から離れたんだと思います」
「理由ね……ミュシェル、貴女はなにを持ってるの?」
「急にどうしたんですか、ラパンさん。私が持っているのは、エールの入ったジョッキですよ」
私が手にしているのは木星のジョッキ。
中にはエールがまだ入っていて、白い泡も残っています。
「真面目に聞いた私がバカだったわ」
「ラパンさん、私を見放さないでください!」
私が真面目に言い返してしまうと、ラパンさんは顔に手を当てた。
なので私はラパンさんを引き止めると、テーブルをトントンしながら、逆に訊ねられました。
「ミュシェル、貴女は何者? 肩書は?」
「わ、私はミュシェル・エスメールです。一応ユキムラさん率いる、元水の勇者のパーティーメンバーです」
「そうよね。そのユキムラ達は、この街には一切立ち寄らずに、何処かに行ってしまったけどね」
ラパンさんの情報の信憑性は高いです。
つまり私は、本当の意味で水のパーティーから外されたことになります。
何だか寂しいような、けれどそれ以上に生成した気分になると、笑みが浮かびました。
「珍しい。ミュシェルがそんな顔をするなんて」
「えっ、どんな顔だったんですか!?」
「教えないわよ。でも、ちゃんと分っているじゃない。貴女が何処の誰で何者なのか。きっとカガヤキって男は、それを理解した上で、貴女から離れたのよ。これ以上、貴女の肩書に傷を付けないためにね」
「そ、それじゃあカガヤキさんは私のことを想って……って、待ってください。カガヤキさんには、私の素性は……」
そこで私の口は開いたまま閉じなくなりました。
それも当たり前だ。カガヤキさんは察しが良いです。
大抵のことは予測してしまい、私がいくら隠していても、きっと名前から全てを悟ってしまいます。
「それじゃあ私は、私のせいで……」
「そう、落ち込まなくてもいいわよ。ミュシェルも、その男も悪くないわ。そう、誰も悪くは無いのよ」
ラパンさんは私のことを励ましてくれました。
しかし私は落ち込んでしまい、肩を落とします。
首が垂れてしまい、グッと唇を噛むと、私がなにをするべきか、頭が冷静に思考を掻き立てます。
「私、カガヤキさんに会ってきます!」
「えっ、今から?」
「今からは……流石に迷惑ですよね。それなら明日行ってきます!」
「ふっ、それがミュシェルらしいわね。好きなようにすればいいわよ」
「はい、そうします。ラパンさん、ありがとうございました」
ラパンさんに私は感謝をしました。
一人では見えなかった答えも、一緒に考えてくれたからこそ、ようやく見つけることができました。
「ふふっ、それじゃあしばらく結界を張っておいてあげるから、ゆっくりして行ってね。私は、そろそろ店に戻るわ」
「ありがとうございます」
私はラパンさんに何度も感謝しました。
本当にバカだったのは私だったらしく、忙しい店内にラパンさんは戻ります。
その間、結界の中で一人私はエールを飲み、ようやく解けた心の淀みを晴らした。
「なるほど。そのカガヤキって男はクソだね」
私はラパンさんにこれまでの経緯を話しました。
もちろん、その過程でカガヤキさんが転移者であることも伝えました。
しかし肝心のラパンさんの口から出たことは歯、カガヤキさんを罵倒するものです。
一体何故? そう思うと同時に、少しだけ怒りが込み上がりました。
「ラパンさん、どういうことですか?」
「どうもこうもないでしょ? こんな可愛いミュシェルを一方的に突き話すなんて、最低のクズ以外ありえないよ」
「そ、そんなこと……」
私は自分が褒められていることよりも先に、カガヤキさんの擁護に入ります。
なにせ、自分のことよりも、知り合いが貶される方が嫌だからです。
「きっとカガヤキさんにも、なにか事情があったんだと思います」
「事情? ここまで尽くしてくれたミュシェルを突き話すだけの事情があるの?」
「尽くしたって……私が勝手にしただけですから」
「ふーん、じゃあ逆に聞くけど、ミュシェルはその男に尽くして、なにか嫌なことは無かったの?」
ラパンさんは人差し指を突き付け、私に訊ねました。
“嫌なこと”。そう言われても、特に思いつきません。
私は別にいつも通りのことをしたまでで、むしろお節介に思われたのかと考えます。
「そう言われてましても……うーん」
「ふーん、ミュシェルはそのカガヤキって男のことが好きな訳ね」
「えっ、好き?」
「あれ、違うのね。てっきりミュシェルにも、ようやく好きな人ができたのかなって、私思ったけど?」
“好き”。私がカガヤキさんを想う理由は、なにか違う気がします。
確かに珍しく赤面したり、尽くしていて嫌な想いはしませんでした。
しかしそれは、カガヤキさんが炎の魔王を倒し、私達の非道な行いを許してくれたから。
その恩を仇で返すわけにはいかないと思ったまでのこと……の筈ですが、何か引っかかります。
「私は一体何故……」
「もしかして、分からないの?」
「は、はい。どうして私はここまでカガヤキさんのことを……」
魅力的なものは何もありません。
ただ可哀そうな人な気がして、放っておけない。
それが今の私の見解ですが、それを口にすると、本当になってしまいそうで、胸の奥に押し付けました。
「それじゃあ少し、考える視点を変えてみるわね。どうしてその男は、ミュシェルを突き話したのか分かる?」
「それが一番分からないんです。ただ、カガヤキさんはなにか理由があって、私から離れたんだと思います」
「理由ね……ミュシェル、貴女はなにを持ってるの?」
「急にどうしたんですか、ラパンさん。私が持っているのは、エールの入ったジョッキですよ」
私が手にしているのは木星のジョッキ。
中にはエールがまだ入っていて、白い泡も残っています。
「真面目に聞いた私がバカだったわ」
「ラパンさん、私を見放さないでください!」
私が真面目に言い返してしまうと、ラパンさんは顔に手を当てた。
なので私はラパンさんを引き止めると、テーブルをトントンしながら、逆に訊ねられました。
「ミュシェル、貴女は何者? 肩書は?」
「わ、私はミュシェル・エスメールです。一応ユキムラさん率いる、元水の勇者のパーティーメンバーです」
「そうよね。そのユキムラ達は、この街には一切立ち寄らずに、何処かに行ってしまったけどね」
ラパンさんの情報の信憑性は高いです。
つまり私は、本当の意味で水のパーティーから外されたことになります。
何だか寂しいような、けれどそれ以上に生成した気分になると、笑みが浮かびました。
「珍しい。ミュシェルがそんな顔をするなんて」
「えっ、どんな顔だったんですか!?」
「教えないわよ。でも、ちゃんと分っているじゃない。貴女が何処の誰で何者なのか。きっとカガヤキって男は、それを理解した上で、貴女から離れたのよ。これ以上、貴女の肩書に傷を付けないためにね」
「そ、それじゃあカガヤキさんは私のことを想って……って、待ってください。カガヤキさんには、私の素性は……」
そこで私の口は開いたまま閉じなくなりました。
それも当たり前だ。カガヤキさんは察しが良いです。
大抵のことは予測してしまい、私がいくら隠していても、きっと名前から全てを悟ってしまいます。
「それじゃあ私は、私のせいで……」
「そう、落ち込まなくてもいいわよ。ミュシェルも、その男も悪くないわ。そう、誰も悪くは無いのよ」
ラパンさんは私のことを励ましてくれました。
しかし私は落ち込んでしまい、肩を落とします。
首が垂れてしまい、グッと唇を噛むと、私がなにをするべきか、頭が冷静に思考を掻き立てます。
「私、カガヤキさんに会ってきます!」
「えっ、今から?」
「今からは……流石に迷惑ですよね。それなら明日行ってきます!」
「ふっ、それがミュシェルらしいわね。好きなようにすればいいわよ」
「はい、そうします。ラパンさん、ありがとうございました」
ラパンさんに私は感謝をしました。
一人では見えなかった答えも、一緒に考えてくれたからこそ、ようやく見つけることができました。
「ふふっ、それじゃあしばらく結界を張っておいてあげるから、ゆっくりして行ってね。私は、そろそろ店に戻るわ」
「ありがとうございます」
私はラパンさんに何度も感謝しました。
本当にバカだったのは私だったらしく、忙しい店内にラパンさんは戻ります。
その間、結界の中で一人私はエールを飲み、ようやく解けた心の淀みを晴らした。
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