異世界で最強になった俺が偽魔王になってみた。~魔王キャラVTuberの俺が配信していたら、異世界転移してしまい、マジの魔王扱いされたんだが?

水定ユウ

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エスメールの丘

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「美味しかったですね」
「うん、意外に行けた」

 俺達はレストランで食事を済ませると、街の中に再び出た。
 とりあえずこれから如何しようか。
 俺は周りを見回すと、隣のミュシェルが何より映える。

「カガヤキさん、次は何処に行きたいですか?」
「何処にって言われても」
「任せてください。私はこの街の出身です。何処へだって案内できますよ!」
「それはありがたいな……ん」

 俺はミュシェルと歩きながら話していると、周りの目が気になる。
 何故か、ミュシェルの方を見ている。いや、俺のことを見ている?
 何処となくコソコソと話し込んでいて、俺は冷たい視線に感じた。

「な、なんだ、これ……」
「どうかされましたか、カガヤキさん?」
 
 まるで俺のことを嫌悪しているみたいだ。
 それもそうか、ミュシェルの立場を考えると、俺は風違いだ。

 ミュシェルはこの街では認知度も高い。
 あまり知られてはいないが、水の勇者パーティーの元メンバー。
 あくまでも本人は“元”だというが、それでもこの街では別格だ。

 隣によく分からない、魔王風のコスプレをした男性が歩いていたら変に怪しい。
 このままだとミュシェルまで冷たい視線を浴びるかもしれない。
 いや、陰湿な嫌がらせがあるかもしれない。

 先程までの俺を取り囲んだ赤い瞳の人達。
 あれがもしも、スーレットの仕業でないとすれば、その可能性は残る。

「どうするか……あれは」
「カガヤキさん? ああ、あれですか。あれはこの街のシンボルの時計塔です」
「時計塔……珍しいね」

 時計塔が街のど真ん中にあるなんて、普通に考えて珍しい。
 日本だと国土も狭いし、交通の中心になるような場所に、時計塔なんて邪魔なものは到底置けない。
 それがこうして街中に置いてあるのは、エスメールが大きな街であること、つまり有している面積が広いことを表していた。

「もしかしなくてもミュシェル、エスメールって大きな街?」
「はい。この国では三番目に大きな街ですよ」
「ま、マジで?」
「本当ですよ。とは言え、すぐ近くに炎の悪魔の魔王城があるので、人の出入りは多い分、定住している人は少ないのですけど」

 世知辛い、悲しい事実を口走る。
 俺は胸に突き刺さると、ミュシェルの顰めた陰に視線が奪われた。

「あの時計塔って、入れるの?」
「あっ、ダメです。あの時計塔は、一般の方の立ち入りは禁止されていますから」
「そうなんだ? まあ、危ないもんね」
「それもそうですが、この街の領主様の職場になっているんです」

 あー、それは確かに入れない訳だ。
 時計塔は雨曝し、風曝し、劣化が進んでいるのは当たり前。
 おまけに転落事故の危険も出るは、この街の領主の職場、つまり役所と同じ役割を果たしている。
 そんな場所に一般人が観光のために立ち入ったら溜まったものじゃない。俺も理解すると、どの世界でもある当たり前のマナーに感じた。

「ですがこの街には、良い眺めの観光地があるんですよ」
「へぇー。じゃあそこ行きたいな」
「分かりました。私について来てください。あっ、くれぐれも問題を起こさないでくださいね」
「起こさないって」

 流石にもう懲り懲りだ。
 俺も反省の色を見せると、先を先導するミュシェルに続く。
 一体何処に連れて行ってくれるのか。いや、多分あそこだと俺には見えていた。


「おお」
「どうですか、カガヤキさん。良い眺めですよね」
「確かに。これは凄いな」

 俺とミュシェルがやって来たのは、目の前に見えていた山。
 かと思ったら如何やら丘らしい。
 ちゃんと木の柵も張ってあり、観光地として完成していた。

「エスメールっていい場所」
「こんな綺麗な所があったら、また来たくなるね」

「お母さん見て見て、綺麗なお花!」
「うわぁ、本当に綺麗ね」

「時計塔、行ってみたいなー」
「あー無理無理。時計塔は役所だから、入れないんだよ」
「マジかー。残念」
「代わりにこの丘を整備したんだと。まっ、時計塔より高いけどさ」

 周りにはチラホラと観光客の姿がある。
 話し声に聞き耳を立てると、確かに目の前の時計塔よりも、今居る丘の方が高い。

 そのおかげか、時計塔を見下ろす形になっている。
 中々考えたものだ。もし同じ高さだったら、せっかくの観光地なのに、視界を奪う邪魔な物が立っていることになる。

 それを踏まえると、エスメールの領主は頭が良い。
 街全体を観光にも使えるように改革を進めている様子が、頭の中に浮かんだ。

「雰囲気いいね」
「はい。この丘は、エスメールの丘と呼ばれていて、観光地だけではなく、その……カップルのデートコースにもなっているんです」
「デートコース? こんな徒歩三十分の道のりが?」
「そ、それは言わないでください」

 エスメールの丘は遠い。
 この世界、自動車も無く、ましてや整備されている道も、小さい馬車が通れるくらい。
 道幅も狭い上に、距離も長いので、デートコースっぽくない。

「あっ、それじゃあミュシェル。今更だけど伝えたいことがあるんだけど」
「えっ、な、なんですか!?」

 ミュシェルは少し顔を赤らめる。
 エスメールの丘に漂う雰囲気に焼かれたのか、それとも焦がれたのか、期待しているようだ。

 だけど残念。俺にそんな気は一切無い。
 見ている人の期待を裏切りつつ、俺はミュシェルに伝えた。

「ミュシェル、俺のことは構わなくていいからな」
「えっ?」
「ミュシェルは仮にも勇者パーティーの元メンバーだ。俺みたいなヤバい奴と一緒にいると悪目立ちするだろ? だからもういいんだよ。ここまでありがとう、じゃあね」

 俺はあっさりしていた。
 そう、別れは深くて重いものにしたら行けない。
 後に引くような真似はしたくないのでサラッと流すも、何故かミュシェルには伝わっていないのか、それとも伝わり過ぎたか、動揺の色が顔に出た。
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