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文化の違う食事

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「お待たせいたしました」

 二十分程してから、俺達のテーブルに料理が運ばれる。
 正直、何を食べればいいのか分からなかった。

 幸い、異世界の言葉は分かった。
 もし分からなかったら、生活に支障が出ていただろうが、無事に安堵する。

 そうして俺はミュシェルに食事を選んで貰い、ようやく運ばれたのだ。
 とは言え、運ばれて来たものは、少しだけ意外だった。

「やっぱりこのお店のパスタは、いつもいい香りがしますね」
「そうだな。確かに美味しそうだけど……」
「それでは、食べましょうか」
「ああ、それはいいんだけどさ。ミュシェル……」

 俺は歯切れが悪かった。
 けれど勇気を出して口を開くと、ミュシェルは不思議そうに首を捻る。

「どうかしましたか、カガヤキさん?」
「まあ、どうかしたって言うか、なんって言うか、珍しい組み合わせのパスタだなって」

 俺は勇気を出して口走る。
 もちろん、悪気があった訳では無いし、食べられないとかじゃない。
 むしろとても食欲をそそり、普段見ないから物珍しいだけだった。

「このパスタ、ソースがなにも掛かってないけど、ペペロンチーノだっけ?」
「いえ、違いますよ」
「そうだよね。確かクリームパスタだったよね?」
「はい。正確には、ロールキャベツのクリームパスタですけど」
「ロールキャベツの……じゃあ、俺の目に映るこれは、なにも間違ってない訳だ」

 運ばれてきたのは丁寧に盛り付けられたパスタ。
 もちろん、ただのパスタと案ずるのは早い。
 パスタ麺の上には、大き目のロールキャベツが一つ、ポツンと鎮座している。

 まるでこれ見よがしにだ。ロールキャベツが主役だと思わされる。
 けれどテーブルに置いてあるメニュー表をもう一と見ると、“パスタ料理”と記載されている。
 カテゴリー的には、パスタメインなのだろうが、残念ながらクリームも無ければ、ロールキャベツに主役を奪われていた。

「こういうものかな?」
「もしかして、お嫌いでしたか?」
「いや、それは無いよ。それは無い」

 不安そうにミュシェルは訊ねる。
 いいや、違う。俺はパスタは好きな方だ。
 手軽だし、食べやすく、様々なバリエーションを可能にしてくれる。

「もしかして、クリームが何処にあるのか気になっているんですか?」
「もちろん、それが一番だよ」
「ご安心ください。私が食べてみせますね」

 ミュシェルはナイフとフォークを手にした。
 早速ロールキャベツに手を付けると、フォークで押さえつけ、ナイフで切る。
 すると、柔らかいキャベツを使っているのか、ホロリと崩れ、ロールキャベツが開かれた。

 トロッ

「えっ!?」

 俺は驚いて立ち上がってしまった。
 ロールキャベツが切られると、中が開き、とろーりとしたクリームチーズがダムの放流のように流れた。

「すごっ、メッチャ映えるな」
「映える?」
「評判良さそうってこと。なるほど、確かにそのパターンは一番に考えるべきだった……しかも、そぼろまで入ってたんだ」

 ロールキャベツの中にクリームチーズを隠しておく。
 確かにそれは一理も二理もある。
 圧倒的なワクワク感に、客が自分でパスタを完成させる満足感。
 どちらも相まって、俺は映えを感じた。

「そぼろですか?」
「そう、そぼろ」

 まさかのボロネーゼ風だった真実に、俺は驚く。
 正直、カルボナーラ系だと思っていたが、そんな浅はかな考えは払拭。
 早速俺もナイフを突き付けると、ミュシェルは呟いた。

「このそぼろ、子牛の脳みそを使っているんですよ」
「……ん?」
「珍しいですよね。でも、これがいいアクセントになって……どうかしましたか、カガヤキさん? 今度は顔が青ざめて。ナイフを持つ手から力が抜けていますよ?」

 俺は持っていたナイフを滑って落としそうになる。
 まさかそんな素材を使っているなんて。
 食べる前から食欲が失せた。

「もしかして、子牛の脳みそを食べるのは、初めてですか?」
「まあ、普通初めてだと思うけど?」

 正直、偏見が大きく入っている。
 子牛の脳みそだって、食べれば美味しい筈。
 ただ分化が違うから食べ慣れていないだけ。なのに俺は食べる前からアウト。
 手が止まってしまい、申し訳ない気分になる。

「食べられないのでしたら仕方が無いですね」
「ごめん」
「大丈夫ですよ。でも、一口だけ挑戦してみませんか?」
「挑戦って……はぁ、あむっ」

 俺はフォークでパスタを丸めると、口の中に押し運んだ。
 柔らかすぎない麺の硬さ。加えて、濃厚なクリームチーズの風味。
 ロールキャベツのシナシナ感が相まって、俺の口の中に旨味が広がる。

「えっ、美味い?」
「それはよかったです。そぼろはどうですか?」
「……悪くないかも?」

 正直、そぼろを食べている感じはしない。
 むしろクリームチーズとキャベツに呑み込まれて消えている。
 俺はこれでいいのかと思いつつ、次へと口に運んだ。普通に美味しくてびっくりだ。

「食べられますか?」
「うん、食べられるかも」
「よかったです。ここも私の行きつけのレストランなので、気にいって貰えたらなによりです」

 ミュシェルは自分のことのように嬉しくなった。
 ウットリとした笑みを浮かべられ、俺も何となくパッと明るくなる。
 やっぱりミュシェルは只者じゃない。そんな気がしてしまうと、勇者パーティーのメンバーの肩書がますます俺を圧した。
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