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第9話 エスメールに行ってみよう
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いよいよだ。俺は魔王城の外に出る。
ここまでやけに長かった。
多分、漫画なら九話くらい、アニメなら二話くらいかかっている。
けれどついに異世界の空を歩くんだ。
俺はワクワクしてしまい、ニヤッと笑う。
すると隣に立っていたミュシェルがジト目になる。
ヤバい奴を見る目。俺は知っている。
これは、友人Aをどうしようもない奴だと思って見る時の目だ。
「カガヤキさん、大丈夫ですか? 今日は止めておきますか?」
「止めないけど?」
「そうですか……では行きましょうか。くれぐれも、私の傍から離れないでくださいね」
ミュシェルはマジで母親みたいだった。
俺は完全に子供扱いされてしまうも、今回は従う。
なにせ、この格好だ。魔王がマジでいる世界だから、石を投げられること間違いない。
「離れる訳が無いだろ?」
「えっ、それって……」
「なんで顔赤いんだ? もしかして本当に熱があるんじゃ」
「あ、ありません!」
俺はミュシェルの顔が赤くなるので、心配して顔を近付けた。
だけど気に食わなかったらしい。
距離を取られてしまい、突き放されてしまう。
(まあ、これが普通なんだろうけど)
友人Bがヤバいくらい、抵抗が無かった。
男友達の俺と友人Aが心配になるくらいには、男女間に差が無かった。
それに比べれば、あまりにも新鮮で、普通な態度に俺は安心する。
「ミュシェルは女の子らしいね」
「な、なんですか急に!?」
「あっ、セクハラのつもりじゃないからね」
「分かっていますよ、カガヤキさんに悪気が無いことくらい」
なんだろう、この態度の差は。
今更だが、ゴライアスが可哀そうに思えてしまう。
とは言え、アレはガチでミュシェルの肌に触れていた。今の時代、セクハラだと叩かれてもおかしくないのは確かだ。
(人間って、いつの時代も怖いな……あっ、これは魔王的な意味でな)
俺は自分自身に訴えかけ、迷わないように道標を出した。
一人コクコクと頷き返し、納得してみせると、ミュシェルの目が痛い。
とりあえず無駄口を叩くのは止め、まずは森を抜けることにした。
魔王城の外には深い深い森が広がっていた。
鬱蒼としていて、完全に光を遮っている。
大陸自体が南側とは言え、そこまで暑くもなく、心地の良い日差しを受けているせいか、葉っぱも大きく成長も早いのが原因だろう。
「本当に温帯なんだな」
「外に出て第一声がそこなんですか?」
何か間違ったことを言ったのだろうか?
首を捻ってしまうと、ミュシェルは答えた。
「この森は、魔王城を覆い隠すように広がっています。範囲は半径一キロと言った所でしょうか?」
「半径一キロ。そう言われると凄そうだ」
逆に言えば、半径一キロに渡る範囲が森で覆われている。
しかもただ覆われている訳ではなく、暗がりに染まっている。
光が一切入らないのは寂しい上に冷たい。そんな気持ちが混じると、森の草木が揺れ動く。
ガサガサゴソゴソ!
「ん? なにかいるのか」
「気を付けてください、カガヤキさん。この森には、凶悪な魔物が潜んでいますから」
「ま、魔物!?」
なんだかそれっぽい要素が飛び出す。
俺は警戒しつつも楽しみになる。
目の煌めきが届くと、次第にガサゴソとなっていた揺れは収まってしまう。
「気のせいみたいですね」
「なんだ、つまらない。まあ、いいか」
「割り切りが早いんですね。文献によると、転移者の多くは魔物との戦闘を心から欲していたと聞きますが?」
それを言われると、少し心外だ。俺だって、魔物との戦闘は楽しみだった。
とは言え、魔物との戦闘は別に必須じゃない。
戦わないに越したことは無いので、俺はスルーすると、ミュシェルと一緒に街に向かった。
「アレが、我が主君を葬った人間……忌々しい、あの女に同行する気か……ふん、この私の敵となるなら、主君のように甘くは無いぞ」
森の中から少年少女を忌々しそうに見つめる視線と鮮血の声が上がった。
けれどカガヤキもミュシェルも決して気が付かない。
森の中に身を潜めていた彼は、不敵な笑みを浮かべると、暗がりの底から去った。
ここまでやけに長かった。
多分、漫画なら九話くらい、アニメなら二話くらいかかっている。
けれどついに異世界の空を歩くんだ。
俺はワクワクしてしまい、ニヤッと笑う。
すると隣に立っていたミュシェルがジト目になる。
ヤバい奴を見る目。俺は知っている。
これは、友人Aをどうしようもない奴だと思って見る時の目だ。
「カガヤキさん、大丈夫ですか? 今日は止めておきますか?」
「止めないけど?」
「そうですか……では行きましょうか。くれぐれも、私の傍から離れないでくださいね」
ミュシェルはマジで母親みたいだった。
俺は完全に子供扱いされてしまうも、今回は従う。
なにせ、この格好だ。魔王がマジでいる世界だから、石を投げられること間違いない。
「離れる訳が無いだろ?」
「えっ、それって……」
「なんで顔赤いんだ? もしかして本当に熱があるんじゃ」
「あ、ありません!」
俺はミュシェルの顔が赤くなるので、心配して顔を近付けた。
だけど気に食わなかったらしい。
距離を取られてしまい、突き放されてしまう。
(まあ、これが普通なんだろうけど)
友人Bがヤバいくらい、抵抗が無かった。
男友達の俺と友人Aが心配になるくらいには、男女間に差が無かった。
それに比べれば、あまりにも新鮮で、普通な態度に俺は安心する。
「ミュシェルは女の子らしいね」
「な、なんですか急に!?」
「あっ、セクハラのつもりじゃないからね」
「分かっていますよ、カガヤキさんに悪気が無いことくらい」
なんだろう、この態度の差は。
今更だが、ゴライアスが可哀そうに思えてしまう。
とは言え、アレはガチでミュシェルの肌に触れていた。今の時代、セクハラだと叩かれてもおかしくないのは確かだ。
(人間って、いつの時代も怖いな……あっ、これは魔王的な意味でな)
俺は自分自身に訴えかけ、迷わないように道標を出した。
一人コクコクと頷き返し、納得してみせると、ミュシェルの目が痛い。
とりあえず無駄口を叩くのは止め、まずは森を抜けることにした。
魔王城の外には深い深い森が広がっていた。
鬱蒼としていて、完全に光を遮っている。
大陸自体が南側とは言え、そこまで暑くもなく、心地の良い日差しを受けているせいか、葉っぱも大きく成長も早いのが原因だろう。
「本当に温帯なんだな」
「外に出て第一声がそこなんですか?」
何か間違ったことを言ったのだろうか?
首を捻ってしまうと、ミュシェルは答えた。
「この森は、魔王城を覆い隠すように広がっています。範囲は半径一キロと言った所でしょうか?」
「半径一キロ。そう言われると凄そうだ」
逆に言えば、半径一キロに渡る範囲が森で覆われている。
しかもただ覆われている訳ではなく、暗がりに染まっている。
光が一切入らないのは寂しい上に冷たい。そんな気持ちが混じると、森の草木が揺れ動く。
ガサガサゴソゴソ!
「ん? なにかいるのか」
「気を付けてください、カガヤキさん。この森には、凶悪な魔物が潜んでいますから」
「ま、魔物!?」
なんだかそれっぽい要素が飛び出す。
俺は警戒しつつも楽しみになる。
目の煌めきが届くと、次第にガサゴソとなっていた揺れは収まってしまう。
「気のせいみたいですね」
「なんだ、つまらない。まあ、いいか」
「割り切りが早いんですね。文献によると、転移者の多くは魔物との戦闘を心から欲していたと聞きますが?」
それを言われると、少し心外だ。俺だって、魔物との戦闘は楽しみだった。
とは言え、魔物との戦闘は別に必須じゃない。
戦わないに越したことは無いので、俺はスルーすると、ミュシェルと一緒に街に向かった。
「アレが、我が主君を葬った人間……忌々しい、あの女に同行する気か……ふん、この私の敵となるなら、主君のように甘くは無いぞ」
森の中から少年少女を忌々しそうに見つめる視線と鮮血の声が上がった。
けれどカガヤキもミュシェルも決して気が付かない。
森の中に身を潜めていた彼は、不敵な笑みを浮かべると、暗がりの底から去った。
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