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第7話 ラッキーでもないパンチ
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ミュシェルと分かれた俺は、魔王城を散策。
石造りのしっかりとした建物で、あちこち古くなっている。
現実だと古城認定をくらいそうだ。
そんな貴重な建物を、俺とミッシェルの二人だけで堪能する。
「って、変態かよ、俺は」
苦い顔をして、一切手を付ける気がないミッシェルのことを考える。
もちろん、俺は下手なことはしないと決めている。
だからこそ、首をブンブン横に振ると、魔王城の中を回り、丁度窓を見つけた。
「うわぁ、本当に夜だ。なんにも見えない……!?」
魔王城の近くは、深い森で覆われていた。
灯りなんて何も無く、ここをミュシェル一人で帰すのは、流石に酷だ。
俺はミッシェルを帰さなくてよかったと胸を撫でた。
と同時に、首を伸ばして遠くを見ると、何やら近くには大きな灯りの塊がある。
「あの明るい塊はなんだ? もしかして街でもあるのかな」
魔王城の近くに街がある。まあ、なんとも言えない。
きっとベルファーは目の敵にされて来たんだろう。
俺は可哀想に思ってやると、窓から外れる。
「って、そんなことよりベッドだ……うわぁ!」
俺は目を伏せてクルンと踵を返す。
すると一匹のコウモリが飛んだ。
俺の顔目掛けて飛び去ると、窓を無理やり突き破って出ていく。
パリーン!
「な、なんだ、今のコウモリ。乱暴だな」
あまりにも乱暴で、窓ガラスが一枚破れる。
森の中にバラバラにガラス片が散っていくと、流石に回収はできない。
俺は無茶なことをされたと唇を尖らせるが、生き物なんだから仕方ないと思う。
そうして魔王城を見て回ると、一つ一つ扉を開けた。
「ここは……よし、ベッドがあるな」
魔王城を歩き回り、ようやく使えそうな部屋を見つけた。
客室のような雰囲気があり、最低限の設備が整っていた。
とりあえず休息を取る分にはこれでいい。
俺はそう思い、部屋に入ると、ベッドの上に横になる。
「はぁー、疲れた」
まさかこんなに疲れるなんて思わなかった。
せっかく異世界転移するなら、もっとゆるりとした、スローライフの方が断然マシだ。
あまりにも濃い展開に、俺の精神は切羽詰まる。
これがカガヤキの姿でなければ、壊れていたに違いない。
「もしかして、そのためにカガヤキの姿に? 考えすぎかな」
俺はベッドに仰向けになり、頭に腕枕を当てる。
ボーッと天井を眺めると、シミの数を数える。
「ミュシェルも疲れ切っていた。早く休ませないと、下手したら倒れるぞ」
きっとベルファーを倒すために、必死にここまで来たのだろう。
それが俺の登場に、全てが水の泡になる。
ユキムラ達、水の勇者パーティーを撤退させ、その末にミュシェルだけを置いてけぼりにさせた。
酷なことを強いてしまったと思えば思う程、タイミング最悪だと恨んだ。
「まあ仕方がないか。それにしても、この衣装はどうにかならないのか?」
俺はカガヤキの姿で横になって気がつく。
この衣装、寝ることに適していない。
最初からコスプレ衣装として用意されていたせいか、見た目だけは派手。その分分厚くて、横になると肌にピッタリくっつき、安眠とは程遠かった。
「俺は裸で寝る趣味はないし、クローゼットの中には」
部屋に備えられたクローゼット。
中を開けると、当然何も入っていない。
ボロ雑巾の一枚もなく、俺は口を歪めると、溜息を付いてベッドに戻る。
「結局これを着るしかないのか。……この角、邪魔だな」
カガヤキの赤いプラ板で作った角が、邪魔以外の何物でもない。
寝返りをうとうとすると、当たって痛いのだ。
「なんとかならないのかな? うーん、そう言えば右のボタンは押してなかった気がする」
俺はヘッドホンの右側に手が触れる。
こっちもボタンになっていて、ダイヤルも付いていた。
押したら何が起きるのか? 俺は首を捻り、指先で軽く押すと、突然不思議なことになった。
「おっ、角が消えた!」
ボタンを押し込むと、赤い角が消えた。
初めから生えていなかったみたいに、赤いプラスチックの角がレーザーみたいに消える。
「これで寝返りが打てるぞ。よし、お休みなさ……はっ!?」
寝ようとした俺は、寝られる筈もなかった。
自分の体を見ると、瞬きを何度もした。
「なんでだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は絶叫を上げた。
着ていた魔王の衣装が消えたからだ。
俺は裸になってしまうと、何もラッキーじゃない。客室のベッドで、胡座をかいた裸野郎が居るだけで、面白くもなんともなかった。
石造りのしっかりとした建物で、あちこち古くなっている。
現実だと古城認定をくらいそうだ。
そんな貴重な建物を、俺とミッシェルの二人だけで堪能する。
「って、変態かよ、俺は」
苦い顔をして、一切手を付ける気がないミッシェルのことを考える。
もちろん、俺は下手なことはしないと決めている。
だからこそ、首をブンブン横に振ると、魔王城の中を回り、丁度窓を見つけた。
「うわぁ、本当に夜だ。なんにも見えない……!?」
魔王城の近くは、深い森で覆われていた。
灯りなんて何も無く、ここをミュシェル一人で帰すのは、流石に酷だ。
俺はミッシェルを帰さなくてよかったと胸を撫でた。
と同時に、首を伸ばして遠くを見ると、何やら近くには大きな灯りの塊がある。
「あの明るい塊はなんだ? もしかして街でもあるのかな」
魔王城の近くに街がある。まあ、なんとも言えない。
きっとベルファーは目の敵にされて来たんだろう。
俺は可哀想に思ってやると、窓から外れる。
「って、そんなことよりベッドだ……うわぁ!」
俺は目を伏せてクルンと踵を返す。
すると一匹のコウモリが飛んだ。
俺の顔目掛けて飛び去ると、窓を無理やり突き破って出ていく。
パリーン!
「な、なんだ、今のコウモリ。乱暴だな」
あまりにも乱暴で、窓ガラスが一枚破れる。
森の中にバラバラにガラス片が散っていくと、流石に回収はできない。
俺は無茶なことをされたと唇を尖らせるが、生き物なんだから仕方ないと思う。
そうして魔王城を見て回ると、一つ一つ扉を開けた。
「ここは……よし、ベッドがあるな」
魔王城を歩き回り、ようやく使えそうな部屋を見つけた。
客室のような雰囲気があり、最低限の設備が整っていた。
とりあえず休息を取る分にはこれでいい。
俺はそう思い、部屋に入ると、ベッドの上に横になる。
「はぁー、疲れた」
まさかこんなに疲れるなんて思わなかった。
せっかく異世界転移するなら、もっとゆるりとした、スローライフの方が断然マシだ。
あまりにも濃い展開に、俺の精神は切羽詰まる。
これがカガヤキの姿でなければ、壊れていたに違いない。
「もしかして、そのためにカガヤキの姿に? 考えすぎかな」
俺はベッドに仰向けになり、頭に腕枕を当てる。
ボーッと天井を眺めると、シミの数を数える。
「ミュシェルも疲れ切っていた。早く休ませないと、下手したら倒れるぞ」
きっとベルファーを倒すために、必死にここまで来たのだろう。
それが俺の登場に、全てが水の泡になる。
ユキムラ達、水の勇者パーティーを撤退させ、その末にミュシェルだけを置いてけぼりにさせた。
酷なことを強いてしまったと思えば思う程、タイミング最悪だと恨んだ。
「まあ仕方がないか。それにしても、この衣装はどうにかならないのか?」
俺はカガヤキの姿で横になって気がつく。
この衣装、寝ることに適していない。
最初からコスプレ衣装として用意されていたせいか、見た目だけは派手。その分分厚くて、横になると肌にピッタリくっつき、安眠とは程遠かった。
「俺は裸で寝る趣味はないし、クローゼットの中には」
部屋に備えられたクローゼット。
中を開けると、当然何も入っていない。
ボロ雑巾の一枚もなく、俺は口を歪めると、溜息を付いてベッドに戻る。
「結局これを着るしかないのか。……この角、邪魔だな」
カガヤキの赤いプラ板で作った角が、邪魔以外の何物でもない。
寝返りをうとうとすると、当たって痛いのだ。
「なんとかならないのかな? うーん、そう言えば右のボタンは押してなかった気がする」
俺はヘッドホンの右側に手が触れる。
こっちもボタンになっていて、ダイヤルも付いていた。
押したら何が起きるのか? 俺は首を捻り、指先で軽く押すと、突然不思議なことになった。
「おっ、角が消えた!」
ボタンを押し込むと、赤い角が消えた。
初めから生えていなかったみたいに、赤いプラスチックの角がレーザーみたいに消える。
「これで寝返りが打てるぞ。よし、お休みなさ……はっ!?」
寝ようとした俺は、寝られる筈もなかった。
自分の体を見ると、瞬きを何度もした。
「なんでだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は絶叫を上げた。
着ていた魔王の衣装が消えたからだ。
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