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地図が見たいんだよ!

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 サウサー大陸……何所の何? 多分南だろうか?
 そこにあるベルファーの住んでいた魔王城って場所。
 うん、よく分からない。

「そもそもサウサー大陸ってなんだ?」
「えっとですね、サウサー大陸とは、この世界の南に存在している大陸です」
「南……ってことは暑いの?」
「あっ、もっと南にも大陸はあるので、そこまで暑くはありませんよ。冬よりも夏の方が長いですが、四季には恵まれているんです」
 
 ミュシェルはやたら詳しく説明してくれた。
 とは言え、何となく頭の中で想像する。
 あー、地図が見たい。そう思った俺は、ヘッドホンの左ボタンを押し込んだ。

「痒いのですか?」
「いや、そう言うことじゃなくて……」

 更にダイヤルをクルクル回転させた。
 友人Aが作ってくれたこのヘッドホンは特注だ。
 様々な機能が盛り込まれていて、これ一台で色々な機能が搭載されている。

 検索機能も使えた。
 と言うことは、俺がこの世界に転移した時点で、転移者特権としてこの世界に持ち込まれたものになる。

 それなら、この世界の知識もこのヘッドホンには含まれている筈。
 一縷の望みを託して、ダイヤルをロールし続けると、目当ての機能を見つけた。

「おっ、これだ」

 俺はボタンを押して決定する。
 開かれたのは地図アプリ。
 バイザー越しに表示されたのは、見たことも無い世界地図で、俺は目を見開く。

「な、なんだこの地図!」
「な、なんですかこのバイザー。カガヤキさんにはなにが見えているんですか!?」

 俺とミュシェルは互いに違うことで驚いた。
 俺はこの世界の地図を始めて見たから。ミュシェルは俺の付けているヘッドホンから、突然バイザーが出現したから。
 お互いに見たことも無いものを初見で知ったので、声を上げてしまったのだ。

「一体幾つの大陸が……怖っ、地震とか怖いな」

 表示された地図上には無数の大陸が広がっている。
 ユーラシア大陸のような広い大陸から、南極のような氷の大陸。
 更には自然豊かな島々や、何処か見覚えのある、日本のような島まで映っていた。

 とは言えその規模は尋常じゃない。
 もっと簡単な異世界なら、飲み込みも早かったのだろうが、理解するだけで大変だ。
 
頭がパンクしそうになる情報に、俺はおえっとなる。
一旦地図アプリを終了し、見なかったことにすると、ミュシェルに言い切った。

「とりあえず、大体分かった」
「それ、分かってない人が言う言葉では無いですか?」

 ジト目になってマジマジと言われてしまった。
 とは言えぐうの音も出ないくらいご名答。
 俺は視線を外すと、ミュシェルが小さなえくぼを作って笑った。

「ぷふっ。本当に面白い転移者さんですね」
「笑う所?」
「はい。過去の文献にも、異世界への順応が早い転移者は多かったとあります。それに比べると、貴方は順応が遅いですね。よっぽど真面目みたいです」
「余計なお世話だ」

 俺は牙を剥いてミュシェルを威嚇。けれど、俺の本心を知ってしまったミュシェルには何の効果もない。
最初から脅す気なんて無いのだが、逆に強情すぎて、無理していると悟られた。

「無理していますね。可愛らしいです」
「放っておいて欲しいな」
「放っては置けませんよ。炎の魔王が本当に倒されたとしたら、ここに私がいる意味はありません。ですが、ここには貴方がいます。可愛そうな転移者が」

 ミュシェルの可哀そう連打が始まった。
 辞めて、それ以上は言わないでくれ。なんだか俺が惨めに見える。
 グッと唇を押し噛むと、ミュシェルに対してムキになる。

「俺のことを可哀そうとか言う前に、ミュシェルの方が、魔王城に一人取り残されて可愛そうじゃないのか?」
「大丈夫です」
「なにが大丈夫なんだ? アイツらは、お前を囮にして逃げたんだぞ」
「それは仕方のないことですから」
「仕方なくないだろ。勇者が意図的に他人を犠牲にして勝利を掴んでも、なんの称賛も名声もない。そういうものだろ」

 あまりにもファンタジーが過ぎた。
 俺の言う言葉は、あくまでもイメージの中にある勇者像。
 誰かのために戦い、犠牲を生み出さずに勝利を掴む。あまりにも夢物語だったが、流石に仲間を見捨てるような奴らを、俺は勇者とは呼ばない。いや、呼びたくはない。

「カガヤキさん、貴方は夢を見ているんですね」
「見たらダメなのか?」
「いえ、いいと思います。でもそうですね、私は囮にされてしまった。でも、あれでもユキムラさん達は立派な勇者パーティーですよ。私がいなくても、大丈夫な筈ですから」

 自己犠牲の精神。そんなもの、今の日本人には必要ない。
 俺は勇者パーティーの恐ろしさを少しだけ痛感した。
 それに比べると、ユキムラ達はまだ人間味がある。これもミュシェルが真面目に指名を果たそうとしているせいか、俺は額にデコピンをした。

「えいっ」
「痛っ! な、なにするんですか」

 当然ミュシェルは怒った。怒られても当然だ。
 額が赤くなり、手のひらで抑えると、ミュシェルは俺のことを睨んだ。

「ミュシェル、今日は帰った方がいい」
「帰りません」
「魔王城にいつまでもいたらダメだ。勇者パーティーから切り捨てられた以上、戦う必要も加担する必要も無いだろ」

 ミュシェルはあの瞬間、ユキムラ達に切られた。
 俺にはそう見えてしまった。
 何故ならユキムラのあの態度。助けに来る気が一切無く、仕方のない犠牲だと思っていたのだから。

「仮にそうだとしても」
「否定はしないんだ……ユキムラ達はたかが知れてるな」
「そんなことは言わないであげてください。それに、私は帰りませんし、帰れません」
「どうして?」
「もう夜が遅いからです! こんな時間に戻れば、私も貴方も白い目で見られるかも……どうしたんですか?」

 俺は固まってしまった。ミュシェルが今の時間を教えてくれた。
 確認のため、時計アプリを開いた。
 すると時刻は夜の〇時を回っている。一体いつから、何時間の間、ここに居たんだ?
 時間の感覚がおかしくなると、俺はミュシェルに言った。

「時間を教えてくれてありがとう。とりあえず、寝ようか」
「ね、寝る!? もしかして私の体を……」
「なに言ってるんだ? ここが魔王城なら部屋はたくさんある筈。適当にベッドのある部屋を各自見つけて寝ること。それじゃあ、お休み」
「ああ、カガヤキさん!」

 俺はいち早く部屋から出た。
 本当はもっと起きていてもいい。
 けれどミュシェルの膚と、俺の睡眠時間。色々確保するため、そして冷静になるため、俺はいち早く寝ることを決めた。
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