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第3話 対決:自称魔王VS設定魔王1

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 俺はベタな挑発をした。
 魔王がこんな挑発に乗って来るような、器の小さい人じゃないと思ったからだ。

「ふははっ! この我を愚弄する気か」
「あれ、乗って来るんだ」

 まさかの器の小さい魔王だった。
 俺は唖然としてしまうが、ベルファーの怒りの沸点は臨界点を突破している。
 右手の人差し指に嵌めた指輪がギラギラ輝くと、言葉の矢を俺に突き付ける。

「我を愚弄した行為、素のみを持って償って貰おうか」
「嫌だな」
「問答無用だ! ベルファイア」

 ベルファーは指輪をかざした。
 魔法っぽい掛け声と共に、指輪を中心に、ベルファーの右手が真っ赤に燃える。
 轟々と燃え滾る炎の塊を手にすると、俺に向かって、まるでボールを投げるように放った。

「まずは小手調べだ。我の魔法、どう止める」
「どうって言われても……よっと」

 止めるなんて真似はしない。
 そもそもの話、魔法攻撃を魔法攻撃で相殺するのは普通っぽい。
 そんな無駄な攻防に魔力? を使うのは癪なので、俺は軽やかに飛んだ。

 丁度右側に一歩分避けると、ベルファイアと言う魔法は、俺のことを素通りする。
 別に曲がって来る訳でも無く、ただ真っ直ぐ鉄扉にぶつかった。
 灼熱の炎で鉄扉を焦がすと、ベルファーは俺のことを注視する。

「何故避けた」
「いや、避けるだろ」
「この我の攻撃を避けるなど、不愉快極まりない!」
「また古典的なボキャブラだな。国語の先生やった方がいいよ」

 俺は正直に、ベルファーは凄いと思った。
 自称魔王な設定も、俺と違ってマジでやっている。
 きっと教師になれば、生徒達からの人気は爆上がりだ。
 そう思って一人頷くも、ベルファーは腹を立てた。

「黙れ、カガヤキ!」
「……」
「なにか言え!」
「黙れって言われたから黙ったんだけど?」

 俺はベルファーのことをおちょくった。
 少しでもベルファーのペースを乱し、心の余裕を無くそう言う姑息な技だ。

 もちろん本当ならこんなことしたくはない。
 俺が天河晃陽なら、見え透いたような姑息な業を使いたくない。
 けれど、今は違う。俺は、一応設定では魔王の力を持った人間、カガヤキ・トライスティルなのだから。

「まあいいか。それで終わりか?」
「終わりな訳が無いだろう。ベルフレイム!」

 ベルファーは次の魔法を放つ。今度はベルファイアじゃない。
 一体どんな魔法なのか、警戒していた俺だったが、ベルファーの姿を覆う程、巨大な火球が現れる。
 これがベルフレイム。ベルファイの一つ上。全身が警戒する中、俺はコートを手にし、闘牛をするように煽った。

「そんな安物のコートで、我の攻撃を消せるものか!」
「安物……そっか」

 少しだけ頭に来た。
 確かに如何にもコスプレ衣装なコートだが、デザインや素材には美玲が携わっている。
 せっかくノリノリで作ってくれたものを、罵倒されれば俺でも怒る。
 ムカついたので睨みを利かせると、目の前に迫るベルフレイムにコートを触れさせた。

「確かにいかにも安っぽいコートだけどな」
「ん?」

 ベルファーは異変を感じ取る。ベルフレイムが止まったのだ。
 全てを焼き尽くす灼熱の炎、それがベルファイア。
 ベルフレイムはその上位強化版にもかかわらず、まるでビクともしない。
 圧倒的な威圧感をベルフレイム越しに感じ取ったベルファーは、流石に唇を震わす。

「な、なにが起こって……はっ!」

 ベルファーは腰を抜かし掛けた。
 ベルフレイムが掻き消され、熱風だけが部屋の中を覆う。
 モワッと立ち込めた蒸気に視界を奪われるが、その先に光る、赤い角が見据えている。

「何故だ、何故貴様が立っている」
「当然だ。俺の設定だと、俺は無敵なんだからな」
「無敵だと。面白い、面白いぞカガヤキ!」
「面白がってくれるのは構わない。けどな……」

 今度は俺の反撃だ。
 コートを着直し、軽く誇りも払っておく。
 身丈を整えると、両手をパンと合わせた。

「俺の友達が頑張って作ってくれた努力を、踏み躙るのは許さないからな。ちゃんと謝って貰うぞ」

 もはやノリじゃない。これはカガヤキとしての設定じゃない。
 友人A&B。俺の唯一と言ってもいい親友二人のことを悪く言われれば、流石に頭には来る。
 冷静沈着で、普段から怒らない俺だったが、ベルファーの態度が気に食わないので、本気で叩きのめすことにした。もちろん、俺がソウルで、ボディはカガヤキでな。
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