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第2話 俺がカガヤキ・トライスティルになった日

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「ううっ……」

 ひんやりとした冷たい床が、俺の頬に触れていた。
 如何やらうつ伏せで倒れているらしく、俺は膝を付いて体を起こす。
 一体なにがあったのか。
 頭を押さえながら、首を左右に振り回した。

「一体なにが、とりあえず生きているのは確かで……ん?」

 俺のボヤけた視界が捉えるのは、身に覚えのない床だ。
 真四角のタイルが何枚も貼られている。
 はっきり言うが、俺の家はフローリングで、タイル貼りの部屋は一つも無い。

「ここ何処だ?」

 その時点で、ここが俺の住んでいる家じゃないのは確実に分かる。
 ふと我に返ると、辺りを見回す。
 妙に広い部屋で、全身鏡とクローゼットが一つずつ、部屋の隅に置かれている以外には何も無い。あまりにも殺風景な風景が広がっていて、つまらないがミニマムで居心地は悪くない部屋だった。

「なんでこんな所に。もしかして、俺さ酒飲んだ?」

 正直、意識を失ったのは鮮明に覚えている。
 頭がクラクラしていたので、思いだすだけで片頭痛になりそうだ。

「まあ、無いよな」

 そんな状態で酒を飲むなんて自殺行為、俺がする訳が無い。
 そもそも俺は酒に耐性がある。
 友人A&Bが酔い潰れても、俺だけはいつも無事だ。それくらい弁えているので、頭が痛い中、酒を飲んで民間療法を試すなんて真似、する気が無い。

「じゃあこれは夢だな。そうに違いない……ぐはっ!」

 俺は脇腹にパンチを一発入れた。
 普通に痛い、痛すぎる。いつもの何倍も痛く、嗚咽を漏らした。

「夢じゃ、無いってことか? 嘘だろ、そんな冗談あり得ないって」

 流石に俺でもパニックになる。
 何も分からない、まるで見当が付かない。
 腕を組んで歩き回り、冷静に思考を研ぎ澄ませると、不意に全身鏡が視界に入る。

「今、俺の姿が映ったよな?」

 もちろん、鏡なんだから姿が映るのは当たり前だ。
 妙にそれっぽい電球? がチカチカ光っていて、光源も確保できている。
 鏡に反射して俺の姿を映し出しているのだが、そこに映る俺の姿は俺っぽくない。
 っていうか、普段着ることが無いような、コスプレのような格好だった。

「落ち着け、少し落ち着け、俺。今のはなんだ、きっと悪い冗談だよな?」

 最悪の想像が頭の中に過ってしまう。
 もちろんそんな悪夢、あり得る訳が無い。
 そう思ったのだが、確認するのが怖く、恐る恐る鏡に近付き、俺の姿を映し出す。

「……マジですか?」

 ポカンとした顔になってしまう。
 それもその筈、予想通りと言うべきか、いや、予想が当たって欲しくなかった。
 鏡に映っているのは間違いなく俺、天河晃陽あまかわこうようだったが、着ている服は完全にカガヤキ・トライスティルのものだった。

「なんで俺がカガヤキの格好を……これは悪夢だ。あの日の、友人B美玲に無理やり参加させられたコスプレイベントの再来なんて、絶対にありえないんだ!」

 俺はつい叫んでしまった。それくらい嫌だった。
 なにせ、カガヤキ・トライスティルは俺自身がモデルになっている。
 嫌々やらされたVTuberの姿が、まさにリアルの俺と一体化していた。
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