上 下
86 / 86

80話 謎のお返しと一つの終わり

しおりを挟む
 ウチオニ村とソトオニ村の騒動は、こうして幕を閉じた。
 これまでの鬼による被害は、すぐに冒険者ギルドにも知れ渡り、その結果新聞社にもそのことはすぐに知れた。
 けれど本人のことは知れなかった。
 それは拒否したからだった。ただ一つ、師匠たちにだけ通じるサインを残して。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 お店は今日も繁盛していた。
 テーブルにもカウンターにも、客がひっきりなしにやって来る。それからウエイターの僕とリーファさんに幾度も声をかけ続けた。

「すみませーん、カレーライス二つ。大盛りで」
「カレーライス大盛りですね。少々お待ちください」
「オレンジジュースのおかわりお願いできますか?」
「少々お待ちください」

 いつもよりも客足が尽きない。
 僕とリーファさんは久々に、気持ちのいい汗をかいていた。そして、ルビーさんの笑顔と、疲労感を訴える。

「はぁはぁ。いつもより、お客さんが多い」
「もう一人ほしいですね」
「うん。これじゃあ死んじゃうよ」

 僕でも音を上げる。こんなに疲れるとなると、冒険者活動の比じゃない。
 額からの汗が尋常じゃなく、僕とリーファさんは少し客足が減ったのを見て、すこし休むことにした。

「うわぁ、風が気持ちいい!」
「そうですね。いい風です」

 僕は宿の屋根に登った。
 吹き抜ける町の風が、優しく頬を撫でる。全身を駆け巡る優しい風の音に心奪われ、僕はエプロンを外した。
 不意にシャツのボタンを一つ外すと、遠い空を見る。

「いい空」
「そうですね」

 颯爽と、後ろにいたのはリーファさん。
 後ろで手を組み、風の魔法で僕の元までひとっ飛び。
 そんなリーファさんは僕の隣に立つと、不意に思い出したことがあったのか、口にし出した。それはこの間の、帰り道で貰った変のお土産の話だ。

「そう言えば、先日いただいたお面のことは覚えていますか?」
「お面? ああ、魔除けの面ね。覚えてるよ」

 僕たちが貰ったのは、龍のお面だった。
 白を基調としたもので、赤や黄色など鮮やかな色彩を放つ模様を持っていた。ありきたりなものじゃない、伝統品みたいだったが、リーファさんはそのお面を見て、不気味に思っていた。何せ、龍のお面なんて、不気味で仕方ない。

「私、あのお面が苦手みたいで」
「そう? 僕は好きだよ。あのお面」

 リーファさんが顔を顰める。
 しかし僕はまだ続けた。

「龍のお面。いかにも神聖そうだよね。鬼を祓う、魔除けの面」
「でも、気味が悪くて」
「そうかな? 僕は龍とか好きだよ」
「そうなんですか?」
「うん。だって、僕は知ってるもん」

 可愛らしく、笑顔を見せた。
 リーファさんは困惑していたけれど、僕は龍が嫌いじゃない。むしろ光栄なそして神聖視してしまうほど、大きくて偉大な存在だった。やっぱり師匠のことだった。

 と、そんな中。僕とリーファさんは風を待っていた。
 だけどこの町にも芽生えるものがある。新しい風が吹いたんだ。

「ここが、冒険者の町。マルシアね。いいところじゃん」

 何気なく現れた一つの影。
 黒い服にフードで顔を覆う、少女がいたことを、僕は気づくことはなかった。

 今日もこの町は新しい風が吹く。
 それは希望か絶望か。
 それを決めるのは、誰だってない。自分でしかないのだから。

 to be continued
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

俺だけ異世界行ける件〜会社をクビになった俺は異世界で最強となり、現実世界で気ままにスローライフを送る〜

平山和人
ファンタジー
平凡なサラリーマンである新城直人は不況の煽りで会社をクビになってしまう。 都会での暮らしに疲れた直人は、田舎の実家へと戻ることにした。 ある日、祖父の物置を掃除したら変わった鏡を見つける。その鏡は異世界へと繋がっていた。 さらに祖父が異世界を救った勇者であることが判明し、物置にあった武器やアイテムで直人はドラゴンをも一撃で倒す力を手に入れる。 こうして直人は異世界で魔物を倒して金を稼ぎ、現実では働かずにのんびり生きるスローライフ生活を始めるのであった。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...