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77話 鬼狩り
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霧の中。そこにいたのは、巨大た影。
頭からは角が生え、手には金棒を持っている。
故郷の国に伝わる、昔ながらの鬼の風貌をしていたが、シルエットだけではっきりとは見えない。だけど何か嫌な気がした。赤く濡れた液体が垂れ、死肉のように臭い。
「何だここは。まあいい、死ねっ!」
「うわぁ!?」
僕は右に避けた。
さっきまで立っていたところに、金棒が降り落ちる。
地面が抉れ、木が倒れた。
「マジで?」
呆気に取られた。
霧の中で視界が悪いのは、この業を使った時から気づいていた。
しかしここまで速くてパワーもあるなんて。考えもしなかったんだ。
だけど何より恐ろしいのは、その凶悪性。
僕は霧の中で身軽さを活かして、木々の合間からナイフを取り出すと、投げつけた。
だけど、鬼は金棒を振り回して、僕のナイフを払い落とす。
カキィーン!ーー
ナイフが音を立てて地面に落ちた。
それから僕の姿を捉えたのか、ぎょろっとした瞳が僕を捉える。
「そこにいるのか」
「そりゃあ!」
僕は鬼の振り下ろした金棒を足場に使った。
身軽さを活かしたものの、棘付きの金棒の上は流石に痛い。足の裏がちくちくするが、そんなこと構わずに一気に肩まで上ると、ナイフを突き立てる。
「そりゃあ!」
僕は三本のナイフを同時に投げつけた。
けれど鬼は逃げも隠れもせず、ナイフを噛み砕く。
歯と歯の間で受け止めると、唾を吐きかけるみたいに捨てた。
「ちょこまか動くな。何だ、今度の生贄は戦えるのか。面白い、もっとだ。もっとやれ!」
「戦闘強すぎでしょ」
僕は声真似をして女の人みたいにした。
少しでも男だとバレれば、面倒だ。
自然のエネルギーも断ち切り、如何やら動きも鈍い。この霧が晴れる前に、仕留めるしかない。
「逃げ足は速いな。だが、何が起きている。今までの女たちは悲鳴を上げ、甲高い声で泣いていたというのに」
「悲鳴を上げる。やっぱりこの臭いは」
「ああそうだ。いや、人間の女はいい。特に若い子を孕っていない、無垢な女は。処女の女は、柔らかくて美味いんだ」
「そうか。何故そんなことをするんだ!」
僕は叫んだ。
胸の奥から込み上げてくる感情。これは怒りだ。
その怒りを抑え込み、僕は鬼に語りかけると、鬼はあっさりと答えた。酷く煮えたぎる話だ。
「何故だと? そんなの美味いからに決まっているだろ。人の恐怖は、最高の隠し味。どんな醜いものも、より芳醇に変えてしまう。だから美味い。それを神だ鬼だと敬い、恐れ、食らわれるだけの家畜を食う。これ以上にない」
「そっか。これはもう、手加減できないね」
雰囲気が一変した。
僕は目の奥を赤々と変え、手に持つナイフを強く握りしめる。
それから鬼は何を悟ったか。僕の気配を感じとっては、一瞬身を構えた。萎縮している。
「な、何だこれは!」
鬼が叫ぶ。
僕は怒りを抑え込み、冷酷に。そっと答えた。
「今からお前を倒す。ただそれだけだよ」
止めることはない。
霧の中に鬼は孤立し、僕の声だけが無情にも響く。怒りを忘れ、恐れに変わり、渇望は僕の気配の前に消えたので、何と呆気ない。立ち込めていたものがより怖くなるのか。
頭からは角が生え、手には金棒を持っている。
故郷の国に伝わる、昔ながらの鬼の風貌をしていたが、シルエットだけではっきりとは見えない。だけど何か嫌な気がした。赤く濡れた液体が垂れ、死肉のように臭い。
「何だここは。まあいい、死ねっ!」
「うわぁ!?」
僕は右に避けた。
さっきまで立っていたところに、金棒が降り落ちる。
地面が抉れ、木が倒れた。
「マジで?」
呆気に取られた。
霧の中で視界が悪いのは、この業を使った時から気づいていた。
しかしここまで速くてパワーもあるなんて。考えもしなかったんだ。
だけど何より恐ろしいのは、その凶悪性。
僕は霧の中で身軽さを活かして、木々の合間からナイフを取り出すと、投げつけた。
だけど、鬼は金棒を振り回して、僕のナイフを払い落とす。
カキィーン!ーー
ナイフが音を立てて地面に落ちた。
それから僕の姿を捉えたのか、ぎょろっとした瞳が僕を捉える。
「そこにいるのか」
「そりゃあ!」
僕は鬼の振り下ろした金棒を足場に使った。
身軽さを活かしたものの、棘付きの金棒の上は流石に痛い。足の裏がちくちくするが、そんなこと構わずに一気に肩まで上ると、ナイフを突き立てる。
「そりゃあ!」
僕は三本のナイフを同時に投げつけた。
けれど鬼は逃げも隠れもせず、ナイフを噛み砕く。
歯と歯の間で受け止めると、唾を吐きかけるみたいに捨てた。
「ちょこまか動くな。何だ、今度の生贄は戦えるのか。面白い、もっとだ。もっとやれ!」
「戦闘強すぎでしょ」
僕は声真似をして女の人みたいにした。
少しでも男だとバレれば、面倒だ。
自然のエネルギーも断ち切り、如何やら動きも鈍い。この霧が晴れる前に、仕留めるしかない。
「逃げ足は速いな。だが、何が起きている。今までの女たちは悲鳴を上げ、甲高い声で泣いていたというのに」
「悲鳴を上げる。やっぱりこの臭いは」
「ああそうだ。いや、人間の女はいい。特に若い子を孕っていない、無垢な女は。処女の女は、柔らかくて美味いんだ」
「そうか。何故そんなことをするんだ!」
僕は叫んだ。
胸の奥から込み上げてくる感情。これは怒りだ。
その怒りを抑え込み、僕は鬼に語りかけると、鬼はあっさりと答えた。酷く煮えたぎる話だ。
「何故だと? そんなの美味いからに決まっているだろ。人の恐怖は、最高の隠し味。どんな醜いものも、より芳醇に変えてしまう。だから美味い。それを神だ鬼だと敬い、恐れ、食らわれるだけの家畜を食う。これ以上にない」
「そっか。これはもう、手加減できないね」
雰囲気が一変した。
僕は目の奥を赤々と変え、手に持つナイフを強く握りしめる。
それから鬼は何を悟ったか。僕の気配を感じとっては、一瞬身を構えた。萎縮している。
「な、何だこれは!」
鬼が叫ぶ。
僕は怒りを抑え込み、冷酷に。そっと答えた。
「今からお前を倒す。ただそれだけだよ」
止めることはない。
霧の中に鬼は孤立し、僕の声だけが無情にも響く。怒りを忘れ、恐れに変わり、渇望は僕の気配の前に消えたので、何と呆気ない。立ち込めていたものがより怖くなるのか。
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