上 下
58 / 86

54話 真夜中のコヨーテ狩り①

しおりを挟む
 そこにいたのは大量のお腹を空かせたコヨーテたち。
 僕たちを格好の獲物と見ているのか、目がとろけている。

 黄色い目。
 生々しい血の臭い。これは、ヴァンプコヨーテだ。

 僕はそれを悟ると、すぐにナイフを抜いた。
 それからリーファさんにチェリムさんを任せる。適材適所というやつで、リーファさんの風の魔法はヴァンプコヨーテとは相性が最悪だからだ。

「リーファさん、ここは僕に任せてよ」
「しかし、この数を一人は無理です。私も手伝います」
「いや、逆にやめてほしいな。リーファさんは、ヴァンプコヨーテの特徴、知ってる?」
「い、いえ。知りませんが」
「じゃあ、退避を勧めるよ。ヴァンプコヨーテはね……」

 そうこう言っている内に、ヴァンプコヨーテたちは、群れを成して襲ってきた。
 遠吠えで連絡を取り合い、集団で襲い掛かる。その数は十匹以上にものぼっていた。

「マズいね、先に攻められた」
「私も前線に」
「だから下がっててよ。危ないよ?」

 リーファさんは、それでも前線に立とうと尽力してくれた。
 その気持ちはありがたいし、カチャ! と剣を抜こうとする音もした。
 しかしそれじゃあ駄目なんだ。だって、

 シュアッ!ーー

 ヴァンプコヨーテの下が伸びた。真っ赤な舌だった。
 血のように濡れていて、先が吸盤のようになっている。気持ち悪い。

「その舌で、あの子を襲ったんですね。吹き荒べ!」

 リーファさんは、風の魔法を発動させた。木々の合間を柔らかい風が、心地よく吹き抜けて、まるで天然の壁を形成する。

 これがリーファさんの風の魔法。
 それはわかるが、それは悪手だ。

 ギューーーーーン!ーー

「しまった」
「これは、私の魔法が吸い込まれてるんですか!」

 リーファさんの風が吸われていた。
 ヴァンプコヨーテたちは、せっかく起こした風の壁を、まるで吸引するみたいに、舌を左右に動かして、壁を取り払う。その動きはまるで掃除だよ。

「魔法が吸い込まれるなんて。きゃあっ!」
「危ないよ」

 僕はヴァンプコヨーテの舌を、ナイフで切り裂いた。
 すると赤い物が吐瀉する。

「リーファさん、魔法は使えないよ。だから一旦下がって」
「わ、わかりました。ここはお任せしますね」
「うん、任せてよ。すぐに片付けるからさ」

 僕は笑顔でいられた。
 瞳の色はまだ黒い。きっとこれ以上やれば、僕の瞳孔は赤く変わるだろう。

 しかしリーファさんたちはそれを知らない。
 だからこそ僕はウインクをして、目を隠すことにした。そんな状態ですぐさまナイフを抜くと、僕はヴァンプコヨーテを一手に引き受ける。
しおりを挟む

処理中です...