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49話 レイダー商会②

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 急階段を上ること、足腰が鍛えられそうだった。
 如何してこんな作りになったのか、それには色々と訳があるらしい。

「この階段は、土地の確保が上手くいかず、当初の予定よりもかなり急な階段にしたそうです」
「そうなんですか。でもこれじゃあ、足腰が弱い人は、大変なんじゃないですか?」
「いえ、その辺はご心配なく。実はこの建物の裏には、荷物運搬用の緩やかなスロープが設置されているんです」

 いや、だったらスロープにすればよかったのでは? と考えてしまうのは、あまりにずさんかつ、ユーモアがない。

 しょうもない考え方は、捨てることにして、僕とリーファさんは四階を目指した。
 すると二階、それから三階からは、何やら激しいやりとりが聞こえてきた。

「申し訳ありませんが、そちらの品はうちでは取り扱っていないんです」
「そんな、もったいない。このエキスは私の国ではかなりの繁盛をもたらしたんですよ。この国でも導入するべきです」
「それは、実証がないことではありませんか」
「いえいえ、こちらのエキスは大変貴重な代物で、私のいた国では飛ぶように売れたんです。如何です? ここだけの話、レイダー商会で取り扱っていただければ、かなり安くいたしますよ?」
「そうですね、結構です」
「な、何ですと!」

 如何やら断られたらしい。
 僕は聞き耳を立てながら、歩いていると、最後に聞こえてきたのは、

「そのエキスを飲んで、顔の皮膚が溶けたと言う事例を聞いたことがあるんですよ。貴方は、指名手配中の商人の方ですね」

 うわぁー、こんな簡単に捕まっちゃうんだ。
 きっと噂になっていないと思っていたんだ。
 それこそご愁傷様です。

「色んな人がいるんですね」
「はい。ですが、商人は情報通ですので、そのような噂は聞くに耐えません。それぐらい、多いんです」
「えーっと、君も」
「私はティーダです。今年で二十三になるので、君と言う言い方はお控えください」
「ご、ごめんなさい」

 ついつい癖が出てしまった。
 僕はしょんぼりしてしまうが、リーファさんは肩を叩いて、

「大丈夫です。私は、君で構いませんから」
「あっ、うん。ありがと」

 もっと反応に困る人に言われても、ちょっと。居た堪れない気持ちになる。

 それから四階に辿り着くと、そこには部屋が三つしかなかった。
 その中でも一番奥の部屋。
 他の部屋と見劣りしない、木製の扉があるが、プレートが掛かっていた。誰がつけたんだろうか。もしかして本人?

「ここが社長室です」
「ありがとうございます、ティーダさん」
「いえ、それでは私が失礼いたします」

 ティーダさんは丁寧な口調と態度で、僕たちの元から去った。
 すると何だか緊張する。とは言って空気的には、今までに比べれば比じゃなくて、何となく歯がゆい感じがしたのは、きっと僕だけじゃないはずだ。

「ふぅ。どんな感じかな、社長室って?」
「わかりませんが、きっと豪華な装飾品の数々が並んでいるのではないでしょうか?」
「確かにね」

 応接室としても使われるはずなので、きっと貴族たちが喜びそうなものが並んでいる。
 僕は笑いながら相槌を打つが、内心では「いや、それはないと思うけど」と薄っすら感づいていた。それはきっとリーファさんも同じで、顔色を見れば、すぐに知れた。
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