生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ

文字の大きさ
上 下
45 / 86

閑話 変態貴族の終わらせ方③

しおりを挟む
 部屋に入ると、のほほんとした姿で、赤いふかふかのソファーの上に腰を据える男がいた。
 かなりの巨漢だ。いや、脂肪分の塊みたいだ。

 顔は脂肪で膨れ上がり、腹も出ている。
 着ている服が引きちぎれそうになっていて、目の奥にはそれと似た狂気が見え隠れしていた。

「いやいや、アマツカミ侯爵。わざわざ足を運んでいただき感謝いたしますぞ」
「いえ、お気になさらずに。私がこの村に立ち寄ったのも、単なる偶然の産物でございます故」
「そうですかそうですか。ですが、一目お会いしたいとは思っておりましたよ。いやはや、誠に美しい女性だ」

 今の一言、
 私は心を読むことも得意としています。
 今の感想は、こう。

(チッ。なんでアマツカミガ。まあいい。どうせバレんだろ。それにしても、この女が少女ならなー)

 と言った具合です。
 全く、虫唾が走るぐらいには、最低最悪な変態野郎ですね。

「ところで、この部屋、かなりものが少ないように思いますか?」
「応接室ですからね。普段は、あまり使いませんので」
「そうでしょうか?」
「はい?」

 私は部屋に入って一目見て確信した。
 この部屋には小細工が多い。

 例えば、

「あの観葉植物。毎日水を与えていますね。あの本棚の近くです」
「はあ?」
「証拠は埃です。埃の量や、動いた跡があります。あの本棚の真下辺り、そうですね壁際から少し離れた位置です。おそらく、あの場所に曲線美があることから、あの辺りに鉢を置いていたものを、何かの理由で避けたのでしょうね」
「そ、そこまでわかるのですね」
「ええ。それから、本棚ですが。中にある本、皆同じ背表紙で統一されています。シャルロッテ著書のシャーリーン探偵事務所シリーズの最新刊までが並んでいますね。ですが、一つおかしくはありませんか?」
「おかしい?」

 私は本棚に近づいて、勝手に取り出します。
 私は本の背表紙を見るとともに、「やはり」と確信しました。

「この本、第四巻と五巻の間にあたる、中編小説、ロッセルドの滝殺人事件が少し分厚いですね。これは、本棚との隙間を埋めるための小細工でしょう。それにこの本だけが、少しへたれていて、さらには本の上部に埃がない。何故でしょうか?」
「そ、それはその本だけよく読むんですよ」
「そうですか。では、この本の犯人は?」
「そ、それは……」

 言葉に詰まる。
 それは当然です。何故なら一度読んだら、絶対に忘れない人物なんですからね。

「覚えていないんですか?」
「そ、それはその。ど忘れしただけだとも」
「ほほう? グレイ・スージー。依頼人の娘が犯人だと知らずにですか?」
「そ、そうだそうだ。グレイ・スージー。まさか彼女が犯人だとは思わなかったよ。まさか、十四歳の娘が犯人……」
「はい、嘘ですね」
「なあっ!?」

 私は嘘を見破りました。
 何故なら、

「グレイ・スージーは、最初の被害者です。それを覚えていないなど、すでに貴方の嘘は見破られているんですよ。ですから、この先には!」
「や、やめろ!」

 私は本を引いた。
 すると本棚が軋みだし、誇りを巻き上げながら、壁の向こうに道を作る。
 そう、本棚の裏には隠し通路があったのだ。隠し部屋。この先には、

「だ、誰か助けてよ!」
「お願いです。お願いだから!」

 少女達の声が聞こえてきました。

「どうですか?」
「こ、この野郎が!」

 つい先ほど助けた少女達の声。
 わざと張ってもらっていたんです。

 しかし暴かれた途端に、豹変するなんて、最低ですね。いえ、パターン的には凡人です。

 私は襲ってきたヘンネル伯爵を、指一本使わず、気配だけで威圧させると、そのまま指を鳴らしました。

 バタン!ーー

「ヘンネル伯爵、覚悟!」
「な、何をするは、離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 扉が盛大に開き、待機していた騎士たちが飛び込んでいました。
 すると瞬く間に確保され、私は無駄に足掻く姿を目の当たりにします。

「どうですか? これでもまだ、貴方の行動を認めないなら、ここにいる人たちが怒りに任せて、貴方を殺すかもしれませんよ?」
「く、くそっ!」
「せいぜい足掻くんですね。

 私の言葉はまるで呪いのようでした。

 こうして、ヘンネル伯爵の短い貴族人生は幕を閉じ、牢に収監されることになりました。
 近々裁判があるようですが、私は参加しません。

 今までに殺されてきた少女たち、誘拐されてきた少女たち、その無念の絶望と悲しさを背負って、彼には身を潰してでも償ってほしい? と、思う心があるのかは、私にはさっぱりでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...