上 下
16 / 86

16話 教えを守った投げナイフ

しおりを挟む
 オークのボスの首が吹き飛んだ。
 その首を踏みつけて、赤い目をギラつかせた。


 ホズキ師匠は、手に小さい刀の破片を持っていた。
 そしてそれを川の向こうの小さな的目がけて、指を離した。

 スパッ!スパッ!ーー

 音だけが虚空になって、消えていく。
 そんな中、僕は瞬きを繰り返す。

「今のような感覚。わかった?」
「えーった、速すぎて見えませんでした」

 僕はホズキ師匠にそう返した。
 するとホズキ師匠は首を傾げ、考え込んだ。

「そう。うーん。難しい」
「えっと、人間業じゃないと思うんですけど?」
「そんなことない。これは立派な暗殺術」
「僕、暗殺者になるんですか?」
「ううん。違う」

 ホズキさんも理解していた。
 だけど、僕の反感を聞いて少し納得したのか、今度は刀の破片じゃないのに、同じことをして見せた。

「今度はクナイですか!」
「これならどう? 見えた?」
「見えませんでした……」

 別に僕は動体視力が悪いわけじゃない。
 むしろ、逸脱していた。

 今の僕は冷静。
 だけど、はずだ。

 だけど師匠の動きは速すぎる。
 単純にスピードが違った。

 僕は理解できないまま、ホズキ師匠の言われた通り、一応やってみた。

「じゃあ行きます!」

 スパッ!ーー

 ナイフが的目掛けて飛んでいき、見事に突き刺さった。
 しかし端っこすぎて、全然だった。

「あー、全然です」
「ううん。筋は悪くない。練習次第で、命中精度はどうにでもなる」
「本当ですか! 僕、頑張ります」

 だけどホズキ師匠の顔色は曇っていた。
 僕は不審に思うも、ホズキ師匠は僕の体つきを身始める。

「あ、あの? ホズキ師匠?」
「天月。もっと指先に集中して」
「えっ!?」

 何を言っているんだ。
 僕はちゃんとやったはずだ。
 だけどホズキ師匠のお眼鏡には叶わず、

「天月。今、どうやって投げた?」
「えっ、普通にですけど」
「やってみて」
「えっ!? じゃ、そりゃあ!」
「はい、止まって」

 ホズキ師匠は、僕の手を掴んだ。
 何が駄目だったのか。
 だけどホズキ師匠は、鋭い目を向ける。

「天月。投げちゃ駄目。そんな動きを見せたら、すぐにバレる」
「すぐにバレるって……投げないと使えないですよね?」
「それはそう。でも、それは普通すぎる。極めれば、投げたことすら気づかせない」
「そんな、どうやって」
「こうやるの」

 ホズキ師匠は何をしたのか。
 全く微動だにしなかった。
 それどころか、何が起きたのかすら悟らせなかった。

「えっ!?」
「こんな感じ」

 ストッ!

 空から何か落ちてきた。
 見ればそこには一匹の鳥。背中に何か刺さっている。

「これができるようになるまで、やる」
「あ、あはははは……」

 僕は唖然としてしまった。
 額から汗を流して、「無理」の文言が超高速で、駆け抜けた。


 そんな僕が負けるはずがない。
 瞬時に唯一の灯りを落とすと、オークたち目掛けてナイフを突き刺す。

「逃げるなら今だよ。でも、逃げられないよね?」

 僕の赤く爛々とした目が、暗闇の中で怪しく煌めく。
 暗闇すぎて、他に何も見えない。

 オークたちは棍棒を適当に振るが、僕には擦りもせずに、同仕打ちを始めた。

 憐れに見えた。
 だけど気にせずにベルトの内側に仕込んだ、ナイフを指先で挟んで飛ばし、オークたちを仕留める。

「これで終わりだよ」

 真っ暗な洞窟の中に、オークたちの死臭が充満する。
 赤い血と冷たい言葉が、冷血な印象を醸し出す。

 それまでに、僕の姿は誰にも見えなかった。
 汗の一つもかかない。
 ここまでの所要時間は、三十秒程度で、一分もかからなかった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

糸と蜘蛛

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:235pt お気に入り:1

このセカイで僕が見つけた記憶

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:43,423pt お気に入り:35,532

【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る

恋愛 / 完結 24h.ポイント:575pt お気に入り:3,502

ヴァーチャルキャンプ

青春 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

転生王子はダラけたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:9,226pt お気に入り:29,421

伝説の魔王である俺、小学校に入学する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...