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14話 VSスライム2

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 「ファイン、なにやってんの?」

 ファインは墨に巻かれていた。
 これは一体何が起こっているのか。
 流石にコージーにも訳が分からなかった。

「ううっ、喰らっちゃったよ」
「喰らったって……まさか墨? ブラックスライムって、墨吐くの?」
「うん。倒した時に、ブラックスライムは抵抗するから」
「それで墨を吐くと来た……完全にトラップモンスターだ」

 コージーは初っ端出遭ったモンスターが、トリッキーすぎて残念だった。
 スライムなのに勿体ないなと、コージーは頭を抱える。
 そんな中、ファインは全身に被った墨を拭い落して、ようやく目元だけ露わになった。

「ううっ、酷い目に遭ったよ」
「ファイン、もしかしなくてもスライムってあの一匹だけ?」
「それは分からないけど……もう少し、私のことを労ってよ!」
「労うけど、被弾してるからな」
「勇者として失格みたいなこと言わないでよ!」

 ファインはコージーを怒った。
 永遠の勇者として相応しくない姿。完全に無様とでも思ったらしい。
 けれどコージーはそんなこと一切考えていない。
 むしろファインが見せてくれたおかげで、下手な真似をしなくて済んだと安堵する。

「ファイン、とりあえず顔くらいは拭いた方が良いよ」
「でも私、拭きもの持ってないよ?」
「ほらっ」

 コージーはファインにタオルを投げ渡す。
 インベントリから取り出した灰色のタオル。
 ファインは急に飛んで来たハンドタオルを受け取ると、驚いた顔をする。

「今度も何処から取り出したの?」
「何処からでもいいって。それより顔。可愛い顔が台無しだよ?」
「か、可愛い!? ……あ、ありがとう」

 ファインは真っ黒な顔になっているせいで、顔色が読めない。
 だけど全身が熱を帯びてしまい、恥ずかしさの余り顔を隠す。

「もう」
「牛?」
「そんなんじゃないよ! それに……」
「うん。まだ終わってない」

 会話にもなっていないやり取り。
 そんな中、ファインが口走ろうとした言葉を、上からコージーから塗り潰す。
 何もこれで終わりとは思っていない。あくまでも言葉の裏でしかなく、周囲からピリピリとした殺気を感じる。これこそが【気配察知】の能力だ。

「コージー君?」
「ファインも気付いているんだろ? スライムの群れ、すぐ近くに来てる。きっとさっきの墨が目印だったんだ」

 コージーは振り替えると、気色の悪い光景が広がっていた。
 草原の草の上をまばらに塗り潰す、マーブル模様。
 様々な色が点々とし、カラフルに彩っている。
 けれどそれ全てが生き物だと思うと鳥肌もので、大量のスライム達が一斉に集まっていた。

「な、なにこの状況!?」
「なにもかにもないよ。とにかく倒すぞ!」

 ここからがいよいよスライム戦。
 コージーは〈蛇腹鋼刃〉を取り出すと、ウネウネと蠢く蛇のような剣身を巧みに活かして、同時に何匹ものスライムを薙ぎ払っていく。

「そらっ!」
「「「プルルゥ!」」」

 射程距離は八メートル。
 それほど長くはない、中距離用の剣。
 しかしコージーが操る〈蛇腹鋼刃〉はそれすらも生物の一つとカウントでき、次から次へと集まっているスライムを倒してしまう。まさに飛んで火にいるスライム達だ。

「それっそれっそれっそれっ!」

 コージーは右腕を振る度に命を刈り取るのを感じ取る。
 今までのようなゲームとはなかなか思えない。
 そんな不気味な感触から逃げるように剣を振り続けると、スライム達も怯えて逃げようとする。

「逃がすか!」

 しかしコージーの魔の手は決して逃がさない。
 集まっているスライム達が一斉に四方に逃げ出すので、先行して叩き付ける。

「「「プルルゥ!?」」」

 一匹が剣の先で捕まると、そのまま勢い任せに叩き付けられる。
 一つが動くと、他の全てにも影響が出てしまう。
 完全にスライム達の行動を手に取るように把握し、次から次へと仕留める。

「コージー君、凄い……」
「感心している場合じゃない! 手伝って」
「あっ、う、うん……コージー君、強いけど、まるで獣みたい」
「そこは竜みたいの方が気分的にはいいな」

 放心状態で見守っていたファインも要請を受けて参加する。
 逃げ惑うスライム達。その全てを倒し切るのは時間もかかる。
 効率なんて度外視。コージーとファインは一つ一つ潰して回ると、まるでその光景は一方的な蹂躙で、あまり気持ちの良いものではなかった。

「ううっ、勇者っぽくないよ」
「俺は勇者じゃないからな」
「そうだけど、勇者パーティーっぽくないよ」
「そうか? 最近のラノベだと、真っ当なスタイルだけじゃない作品も多いけどな」
「ラノベ? もう訳が分からないよ」

 途中でファインが頭がイカれそうになり悲鳴を上げた。
 それもそのはず全てのスライムを倒し切るまでに三時間もかかった。
 圧倒的な苦行。しかしやり切ったおかげで草原は綺麗になり、スライムの残骸だけが散らばるのだった。
 その光景はまさに圧巻。疲れ果てて座るファインは吐露する。

「倒せたけど、やるせないよ」
「確かにこの数はな」

 コージーも終わってみてから気が付いた。
 あまりにも一方的な勝利に味気が無い。
 頭を掻きながらウネウネ動く〈蛇腹鋼刃〉を鞘に納めると、残骸=ドロップアイテムを回収しに向かうのだった。
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