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13話 VSスライム1

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 コージーとファインは草原にやって来た。
 アメリアからほど近い場所にある草原で、昨日コージーとファインが出会った大草原とは異なっていた。

 とは言え緑は豊。芝の感じも申し分ない。
 朝から気持ちが良い太陽の陽射しを浴びながら、コージーはポツリと呟いた。

「ファイン、確か今日受けた依頼ってさ」
「うん、スライムの討伐だよ」

 コージー達がこの名も無き草原にやってきた理由。
 もちろんモンスターの討伐依頼を受けたからだ。
 ここなら薬草の一つや二つ平然と生えていそうだが、選んだのは討伐。
 その方が稼げるようで、レベルアップにも直結すると見た。

(とは言え、ファインのレベル的にスライムなんて経験値の足しにもならないんじゃ……おっと、余計なことは考えるなよ、俺)

 コージーは首を一回だけ横に振ると、考えることを否定する。
 するとファインはコージーの顔色を窺いだした。

「もしかしてスライムじゃダメだった?」
「いや、ダメってことは無いんだけどさ、いなくね?」
「う、うん……いないね、スライム」

 コージーとファインが困惑する理由。
 それはただ単に立ち話をするだけの時間を余裕を以って用意されていること。
 つまりは、肝心のスライムが全く姿を見せてくれない。
 いくらキョロキョロ視線を配っても、そこにはスライムの影も形も無かった。

「ファイン。確かスライムが大量発生……」
「しているはずだよ?」
「何処が?」
「それは私に訊かれても困るよ。私もこんなことになるなんて思わなかったよ」
「百聞は一見に如かず……か」

 依頼書によると、スライムが大量発生していて困っているらしい。
 そのせいで他のモンスターが寄り付かない。
 死活問題が発生していると聞いて、報酬もまずまずだったこともあり、勇者であるファインが代表して受けたものの、これは予想外過ぎて今にも膝を折りそうだった。

「はぁ、つまんな」
「ごめんね、コージー君」
「ファインが謝る必要はないだろ? それに俺がつまんないと思ったのは……」

 バグが一向に現れないこと。
 見つけ出そうにも何処を手掛かりにすればいいのか、姉から送られてきた情報だけじゃ足りないこと。
 そんな居た堪れない気持ちになりながら、コージーは不甲斐なさに呆れていた。

(クソッ! バグの一つも取り除けないで帰るは流石にな、なにか手掛かりがもう一つ、この世界の何処かじゃなくて手短なところにでも……ん?)

 コージーは草原の草の上に座り、体育座りをしていた。
 ふと視線の隙間を縫うようにキョロキョロ目玉を動かす。
 するとコージーの目が変なものを捉える。それは黒い球体で、バグか何かかと思って首を持ち上げた。

「あれは……」
「コージー君、どうしたの? もしかしてスライムを見つけて……うわぁ!」
「今度はなんだ!? って、まさかあれがバグなのか」

 コージーは〈蛇腹鋼刃〉を抜こうとした。
 しかしファインも剣を構え、今にも戦う態勢を取る。
 もしかすると、否、もしかしなくてもあれがバグに違いない。

「バグ? そんなモンスターじゃないよ。あれはブラックスライム!」
「ブラックスライム? あれ、通常種じゃなくて?」
「確かに珍しいよ。でも気を付けてコージー君。ブラックスライムは……」

 ファインが何か大事なことを伝えようとした。
 しかしそれよりも早くブラックスライムは気が付く。
 自分に向けられる視線。これは殺される合図だとばかりに警戒心が強まると、そのまま逃げる……のかと思った。だけど現実は違ったのだ。

「プルルゥ!」

 まさかのブラックスライムは逃げる気はなく、これから攻撃を開始する。
 今にも飛び掛かって来そうな勢いで、コージーは警戒して少し下がった。
 しかしファインは剣を持ったまま前衛を買って出ると、そのまま飛び出す姿勢になる。

「コージー君、私が前に出るから援護して」
「それはいいけど、勝てるのか?」
「勝てるか……は分からないけど」
「……」

 そこは勇者だから勝てるとか言って欲しかった。
 コージーの願望が通じることは無く、ファインはウインクをして合図をする。
 如何やらコージーの意思は無いらしい。
 視線を泳がせるのも億劫で、コージーは「分かった」と答える。

「それじゃあ行くよ。ブラックスライムは厄介だから」
「一体なにが厄介なのか分からないんだけどな」
「それは見なくてもいいよ。それっ!」

 ファインは走り出した。
 剣を構えて、今にもブラックスライムを切り伏せる予感。
 一瞬の間で近付き、一切の反撃を与えない。ギリギリ目で追えたけれど、流石のレベルだった。

「これ、援護する必要なくね?」

 コージーは援護することを怠った。
 流石にサポートのサの字も要らない相手だと思い込んでいた。
 しかし次の瞬間、ほんの少しだけ目を放してしまうと、ファインの悲鳴が飛んだ。

「うがっ!」
「ファイン? ……はっ」

 コージーはファインの悲鳴を聞いて素早く剣を抜く。
 いつでも〈蛇腹鋼刃〉を放てるようにした。
 しかしその必要は無かった。けれどおかしなことになっていた。

 ファインは何故か真っ黒になっていた。
 頭から覆い被さったみたいに黒い。
 それはタコとかイカとか、そっち系の色合い。
 つまりは墨なんじゃないかと、コージーは呆れてものも言えずに固まってしまった。
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