Dazai & JK

牧村燈

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第2章 太宰とJKが初体験に煌めいた夏休み

第2話 ホテル街

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 姉には家に帰れと言われたが、ここで家に帰るとまた出てくるのに一苦労しそうだ。両親とは少しずつ話をするようにはなったが、特に進路系の話になると絶対に折り合えないことが分かっているだけに、私は口を噤むしかなかった。もっと気楽な時期だったら違っていたのかも知れない。

 3日くらい一人で何とかしよう。幸いなことに遊びに行けずに使い道のなかったお年玉が2万円くらいある。まずは今日の寝床ね、と、以前姉と一緒に泊まったことがあるホテルの予約をスマホで取ることにした。予約サイトの登録は簡単に出来たのだが、ホテルの予約の年齢認証で弾かれてしまった。そうか18歳未満はNGなんだ。バカ正直に実年齢を入れなくたって良かったんじゃないかとか、いっそ姉の名前を借りておけば良かったと反省する。ネットカフェもダメだろうし、深夜営業どころか20時以降も開けている店さえ殆どない。不便な世の中だ。こんなことだから青少年が非行に走るんだなどと八つ当たり気味の愚痴を垂れながら町を歩く。

 西に傾いた太陽がいつの間にかその色をオレンジに変えていた。まだ18時を回ったばかりだったが、7月も終わりに近づいて日暮れの時間が少し早くなったみたいだ。ビルの間の東の空に丸い月が見えた。私の足はフラフラと繁華街を抜けていった。目的地はこの盛り場の裏通りにあるラブホテル。そこはパネルで部屋を選ぶ形式でフロントがない。つまり身分証明書が不要の宿だ。そこには一度だけ姉と泊まったことがある。確かこの辺で左折だったよな。

「お姉ちゃん、どこに行くの?」

 角を曲がったところでふいに3人組の男たちに囲まれた。全員が黒マスクに帽子を被っている。一昔前なら明らかに目立つ怪しい出で立ちが、今の世では極めてスタンダードな恰好だ。制服ではないにしろ見るからにしてのJKが、まだ辛うじて日があるとはいえ盛り場をキョロキョロしながら一人で歩いて来たのだ。邪な誰かの好奇の目に止まっていたとしても何ら不思議はない。それにしても、私は彼らにつけられていたことに全く気が付いていなかった。

「ど、どこにも行きません」

 答えになっていない答えを返した私は、男たちの間をすり抜けて大通りに出ようと試みたが、その反応を予知していたかのように進行方向を塞がれた。

「なになに、そんなに慌てなくたっていいじゃない」

 私の行く手を壁になって遮った男がおどけた調子で言う。この時に全力で振り切って走れば多分逃げられたのだと思う。だが、その時の私は既に黒いマスクの男たちに恐怖を覚えてしまっていて、完全に足が竦んでいた。

「もしかして援交の子?変なオヤジとホテルで遊ぶくらいなら、俺たちと遊ぼうよ」

「おいおい、失礼な奴だな。って、え、マジでそうなの?そんなのやめなよ。俺たちと遊んだ方がよっぽど健全だよ」

 軽口を叩いた黒いTシャツの男に肩を掴まれる。

「や、やめてください」

 情けない声だ。これじゃ1m先にも聞こえやしない。手から逃れようと身体を後ろに引いた。すると今度は後ろにいた横幅の広い青Tシャツに背後から両腕を掴まれた。ハイビスカスのプリントの付いたTシャツの胸が反らされる。

「可愛いなあ。このくらいの発展途上の胸がいいんだよな。ねえ、この先に開けているBoxがあるからさ、ちょっと行こうよ」

「俺らがおごるからさ、行こう行こう」

 私はまるでNASAに捕らえられた宇宙人のように、男たちに路地の奥へと連行されれていく。このままカラオケBOXになんか連れ込まれたら絶対まずいに決まっている。経験はないけど、そのくらいのことは分かった。何とかしないと。

 30mほど行った先を左に折れた。完全なホテル街だった。「カラオケ完備」という看板。私が探していたホテルだ。

「ここここ。お姉ちゃんBox着いたよ」

 そうだ、ここならフロントさんもいない。助けを求める相手もいないってことだ。左右からガッチリと腕を掴まれた私は、そのまま何の抵抗も出来ないままホテルに連れ込まれてしまった。

(続く)
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