Dazai & JK

牧村燈

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第2章 太宰とJKが初体験に煌めいた夏休み

第1話 夏のプロローグ

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 2020年の7月23日から26日は真夏の4連休。本当なら東京オリンピックが開幕して、大いに盛り上がっていたはずだが、それもこれもCウィルスのお蔭ですべてがおじゃんだ。連日感染者が何百人出ましたと、それが多いのか少ないのかも定かではないニュースが垂れ流され、その上にお出掛けを応援する政策と、外出は控えましょうという呼び掛けが同時に降ってくる。立場が変われば言うことも変わる。だからどうしたと国のリーダーに開き直られてしまうと、一般庶民はどうしていいか分からない。まあ、そんな時は天気次第かと思っていると、いつまでたっても明けない梅雨が、あちらこちらで災害級の大雨を降らせた。これじゃあ遊びに行く気分も盛り上がらない。アタフタするばかりの人間たちに比べると、まったくもって自然というものは良く出来ているものだと感心する。

 学校の方は休校続きだった春先のつけで、夏休みがギュッとコンパクトにされてしまった。まあどうせそんなこんなで何処に行くことも出来ないのだから、学校に行くのも悪くない。ついこの間まで不登校をしていた私が、そんな風に思えるようになったのだから、きっと太宰先生なら『つまり、塞ぐものあれば開くものありだ』なんてことを言うのかも知れない。そんなことを想像するだけで口元が緩む。思い出し笑い。何だかおばあちゃんにでもなった気分だ。

 そう。私の先生は太宰治だ。どの位の人が信じてくれるか分からないけど、先生は5月の緊急事態宣言の真っただ中に私の家にやって来た正真正銘の幽霊である。不登校で時間を持て余していた私は、このとっても不思議でちょっとエッチな文豪先生と、約1ケ月、色々な話をして過ごした。

 今思えばどこからどう見てもふて腐れていた私が、その間に先生に教えられて見つけることが出来た大事なことのお蔭で、N美との友情を復活させ、自分を残して家を出た姉を一人の女性として見る視点を開くことが出来た。成長した?なんて言うとちょっとおこがましいけれど、いつもオドオドとしか生きられなかった私が、少なくともしっかりと前を向けたのは間違いない。

 遅まきながら、さあ、ここからが私の高校デビューだなんて思ったりもしたのだけれど、時は既に高校三年の夏、将来のこととか、将来のこととか、将来のことをどうするのかという問いがあちこちから降って来て、元気になりかけていた私の脳を腐らせた。

 何でも相談しようねと約束はしたものの、大学に進学することを決めて受験勉強を始めたN美には、やっぱり相談し辛かった。

「だって、そんなの考えたこともないんだから、分かんないよ」

 両親や先生にそう大声で言えたなら、まだ良かったのかも知れない。ノーヒントで最高難度の迷宮に挑む初心者ゲーマーのように、一歩迷宮に足を踏み入れる度にゲームオーバーを繰り返している内に、ずっと影を潜めていた眠れない病が、俄然勢力を増してきた。

 元の木阿弥にはなりたくないと思った私は、短い夏休みが始まると同時に、姉のところで暫く厄介になるからと言い残して家を出た。姉に了承を得てのことではない。何度か泊まらせてもらったことはあるが、突然訪ねるのは初めてのことだった。

 何となく不安はあったのだが、やはり姉の家の前で立ち往生することになる。留守。連絡してみると、5分ほどで返信があった。考えてみればあって然るべきなのだが、今日から3日ほど旅行に出ているのだと言う。

 うーん、どうしよう。だからと言ってすごすご家に帰りたくはなかった。姉が帰ってくるまでの3日間くらい、友だちのところに転がり込んで、などとまるで普通のJKみたいなことを考えてみるが、N美の勉強の邪魔をする以外では当てなどない。

 うーん、どうしよう。私の頭で考えた所で妙案なんて出て来ないことは分かっているのだが、どこに動き出すことも出来ないまま姉の部屋の前で固まっていた。長い夏の日も西に大きく傾いて、辺りはオレンジ色に染まっている。東の空に月が昇っていた。満月だ。ああ、太宰先生。満月の日に出会い、満月の日に分かれた先生を思い出す。
 
 先生、こんな時私ははどうすれば良いでしょうか?

(続く)
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