6 / 15
第1章 太宰とJKが過ごしたある初夏の日々
第6話 膝の傷
しおりを挟む
登校日。久しぶりの学校だ。でも、みんなにとっても同じこと。高3になって初めての登校なんだから。
「おはよう」
私はクラスメイトにごく自然に挨拶をした。否、少なくともそのつもりだった。でもそのクラスメイトは、私を一瞥もせずにスルーした。あ。ざわざわざわ。いいえ、何かに集中していて、私に気づかなかったのかも知れない。もしかしたら声が聞こえなかっただけなのかも知れない。そうではないことを知りながら、否定してみる。頑張れ。もしそうだとしても私は挫けない。だって高校を卒業すると決めたんだから。お姉ちゃんのようになる為に。
「おはよう」
私はもう一度、今度はさっきより大きな声を出してみた。葉桜の下に3人で集まっていたクラスメイトは間違いなくその声に気付いた。ように見えた。けれども彼女たちは私を振り返ることなく背を向けて歩き出した。
「何だか元気みたいね」「嘘でしょう」「信じらんない」
私に聞こえるか聞こえないかギリギリぐらいの音量での会話。みんな聞こえてるんだけど。多分私、太宰先生のせいで少し浮かれすぎていたのかも知れないな。そういえば学校なんてこんなものだった。そもそも私には、元々N美しか友だちいなかったじゃないか。
「あれ、ハルカじゃない。何だ学校来れたんだ」
声を掛けてきた彼女もクラスメイトだ。確かクラス委員だった子。さすがにクラス委員は声を掛けてくれるんだ。私はもう一度力を振り絞って「おはよう」と言った。
「ふーん。学校やめたんかと思ってたよ。ま、元気になったんだったらいいんだけどね。あのさあ。一応言っておくけど、クラスのみんながどれだけハルカのことを心配してたか知らないでしょう。何の病気か知らないけどさ。あんた全くなしのツブテだったじゃん。先生も呆れてたよ。ま、有耶無耶になってよかったね。Cウィルスのお蔭かな。じゃ、ご愁傷様」
そういうことか。教えてくれてありがとう。それにしてもご愁傷様って何だよ。そんな言葉使ってたら絶対太宰先生に怒られる。そう、今日の私はこの位じゃ挫けないんだから。
校舎に入ると1クラスの生徒を2つの教室に分けて待機させていた。感染対策っていうやつだ。N美とは別の教室。とりあえず良かった、のかな。休校中の対応についての講釈や今後のオンライン授業の受け方の説明が40分ほどあって解散になった。次回の登校はとりあえず1週間後だ。
校舎を出て空を見て一息つく。やれやれ切り抜けた、と思ったところで周りを囲まれた。さっきのクラス委員とその他5人ほど。女が4人男が2人。口火を切ったのはやはりクラス委員だった。
「ハルカさあ」
さっきもそう思ったが、お前にハルカ呼ばわりされる筋合いないんじゃね、と思う。だってこいつと喋った記憶なんて、今朝以外にはとんと思い当たらない。しかし、今はそんなことを言うタイミングじゃないことくらいは分かる。
「あなたN美のことどう思っているの。あなたが学校に来なくなってからN美は随分落ちてしまって。当然よね。あなたたち親友だったんでしょ。それがいきなり学校に来なくなるは、連絡しても一切返事は寄越さないは。私たちだって何だよって思ったくらいなんだから、そりゃN美は傷ついたでしょう。今日だってN美は休みなのに、何であなたはのうのうと登校してきてるのよ。ちゃんとN美に謝りなさいよね」
N美に謝る?私が?意味分かんない。謝るのはN美の方だ。でも私はここでそんなことを言っても意味がないのを悟っていた。
「ちょっとどいてくれる」
私は目の前で道を塞いでいた男を両手で突き飛ばした。おおっ、と声をあげて男が尻もちをつく。その隙を抜けて逃げようとしたが後ろから鞄を掴まれた。強い反作用で私は態勢を崩し、膝を地面についてしまった。ズズッと擦った感覚があって、熱さと痛みが徐々に湧いてくる。
「何、逃げてんのよ。それにあんたが先に手を出したんだからね。虐められたみたいなこと言わないでよ」
私はクラス委員の目を睨みつけていた。フザケンナ、フザケンナ。そう念じて腹筋に力を入れる。少しだけ痛みが引いたような気がした。クラス委員が目を逸らした。勝った。
「もう、行こう。こんな奴に話したってどうせ分かりっこないだろうから」
ハン。だったら最初から絡んでくんなよ。私は立ち上がって膝の汚れを落とす。擦り傷が出来ていて血が滲んでいた。どこかで洗わないと。だけど痛いのは膝よりも胸だった。
早く家に帰ろう。先生に、先生に聞いてもらうんだから。最高に面白おかしく話してあげるんだから。私はどんどん重くなる胸を抱えて、ヨタヨタ走って家に帰った。
(続く)
「おはよう」
私はクラスメイトにごく自然に挨拶をした。否、少なくともそのつもりだった。でもそのクラスメイトは、私を一瞥もせずにスルーした。あ。ざわざわざわ。いいえ、何かに集中していて、私に気づかなかったのかも知れない。もしかしたら声が聞こえなかっただけなのかも知れない。そうではないことを知りながら、否定してみる。頑張れ。もしそうだとしても私は挫けない。だって高校を卒業すると決めたんだから。お姉ちゃんのようになる為に。
「おはよう」
私はもう一度、今度はさっきより大きな声を出してみた。葉桜の下に3人で集まっていたクラスメイトは間違いなくその声に気付いた。ように見えた。けれども彼女たちは私を振り返ることなく背を向けて歩き出した。
「何だか元気みたいね」「嘘でしょう」「信じらんない」
私に聞こえるか聞こえないかギリギリぐらいの音量での会話。みんな聞こえてるんだけど。多分私、太宰先生のせいで少し浮かれすぎていたのかも知れないな。そういえば学校なんてこんなものだった。そもそも私には、元々N美しか友だちいなかったじゃないか。
「あれ、ハルカじゃない。何だ学校来れたんだ」
声を掛けてきた彼女もクラスメイトだ。確かクラス委員だった子。さすがにクラス委員は声を掛けてくれるんだ。私はもう一度力を振り絞って「おはよう」と言った。
「ふーん。学校やめたんかと思ってたよ。ま、元気になったんだったらいいんだけどね。あのさあ。一応言っておくけど、クラスのみんながどれだけハルカのことを心配してたか知らないでしょう。何の病気か知らないけどさ。あんた全くなしのツブテだったじゃん。先生も呆れてたよ。ま、有耶無耶になってよかったね。Cウィルスのお蔭かな。じゃ、ご愁傷様」
そういうことか。教えてくれてありがとう。それにしてもご愁傷様って何だよ。そんな言葉使ってたら絶対太宰先生に怒られる。そう、今日の私はこの位じゃ挫けないんだから。
校舎に入ると1クラスの生徒を2つの教室に分けて待機させていた。感染対策っていうやつだ。N美とは別の教室。とりあえず良かった、のかな。休校中の対応についての講釈や今後のオンライン授業の受け方の説明が40分ほどあって解散になった。次回の登校はとりあえず1週間後だ。
校舎を出て空を見て一息つく。やれやれ切り抜けた、と思ったところで周りを囲まれた。さっきのクラス委員とその他5人ほど。女が4人男が2人。口火を切ったのはやはりクラス委員だった。
「ハルカさあ」
さっきもそう思ったが、お前にハルカ呼ばわりされる筋合いないんじゃね、と思う。だってこいつと喋った記憶なんて、今朝以外にはとんと思い当たらない。しかし、今はそんなことを言うタイミングじゃないことくらいは分かる。
「あなたN美のことどう思っているの。あなたが学校に来なくなってからN美は随分落ちてしまって。当然よね。あなたたち親友だったんでしょ。それがいきなり学校に来なくなるは、連絡しても一切返事は寄越さないは。私たちだって何だよって思ったくらいなんだから、そりゃN美は傷ついたでしょう。今日だってN美は休みなのに、何であなたはのうのうと登校してきてるのよ。ちゃんとN美に謝りなさいよね」
N美に謝る?私が?意味分かんない。謝るのはN美の方だ。でも私はここでそんなことを言っても意味がないのを悟っていた。
「ちょっとどいてくれる」
私は目の前で道を塞いでいた男を両手で突き飛ばした。おおっ、と声をあげて男が尻もちをつく。その隙を抜けて逃げようとしたが後ろから鞄を掴まれた。強い反作用で私は態勢を崩し、膝を地面についてしまった。ズズッと擦った感覚があって、熱さと痛みが徐々に湧いてくる。
「何、逃げてんのよ。それにあんたが先に手を出したんだからね。虐められたみたいなこと言わないでよ」
私はクラス委員の目を睨みつけていた。フザケンナ、フザケンナ。そう念じて腹筋に力を入れる。少しだけ痛みが引いたような気がした。クラス委員が目を逸らした。勝った。
「もう、行こう。こんな奴に話したってどうせ分かりっこないだろうから」
ハン。だったら最初から絡んでくんなよ。私は立ち上がって膝の汚れを落とす。擦り傷が出来ていて血が滲んでいた。どこかで洗わないと。だけど痛いのは膝よりも胸だった。
早く家に帰ろう。先生に、先生に聞いてもらうんだから。最高に面白おかしく話してあげるんだから。私はどんどん重くなる胸を抱えて、ヨタヨタ走って家に帰った。
(続く)
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
【本編完結】実の家族よりも、そんなに従姉妹(いとこ)が可愛いですか?
のんのこ
恋愛
侯爵令嬢セイラは、両親を亡くした従姉妹(いとこ)であるミレイユと暮らしている。
両親や兄はミレイユばかりを溺愛し、実の家族であるセイラのことは意にも介さない。
そんなセイラを救ってくれたのは兄の友人でもある公爵令息キースだった…
本垢執筆のためのリハビリ作品です(;;)
本垢では『婚約者が同僚の女騎士に〜』とか、『兄が私を愛していると〜』とか、『最愛の勇者が〜』とか書いてます。
ちょっとタイトル曖昧で間違ってるかも?
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる