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第1章 太宰とJKが過ごしたある初夏の日々
第6話 膝の傷
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登校日。久しぶりの学校だ。でも、みんなにとっても同じこと。高3になって初めての登校なんだから。
「おはよう」
私はクラスメイトにごく自然に挨拶をした。否、少なくともそのつもりだった。でもそのクラスメイトは、私を一瞥もせずにスルーした。あ。ざわざわざわ。いいえ、何かに集中していて、私に気づかなかったのかも知れない。もしかしたら声が聞こえなかっただけなのかも知れない。そうではないことを知りながら、否定してみる。頑張れ。もしそうだとしても私は挫けない。だって高校を卒業すると決めたんだから。お姉ちゃんのようになる為に。
「おはよう」
私はもう一度、今度はさっきより大きな声を出してみた。葉桜の下に3人で集まっていたクラスメイトは間違いなくその声に気付いた。ように見えた。けれども彼女たちは私を振り返ることなく背を向けて歩き出した。
「何だか元気みたいね」「嘘でしょう」「信じらんない」
私に聞こえるか聞こえないかギリギリぐらいの音量での会話。みんな聞こえてるんだけど。多分私、太宰先生のせいで少し浮かれすぎていたのかも知れないな。そういえば学校なんてこんなものだった。そもそも私には、元々N美しか友だちいなかったじゃないか。
「あれ、ハルカじゃない。何だ学校来れたんだ」
声を掛けてきた彼女もクラスメイトだ。確かクラス委員だった子。さすがにクラス委員は声を掛けてくれるんだ。私はもう一度力を振り絞って「おはよう」と言った。
「ふーん。学校やめたんかと思ってたよ。ま、元気になったんだったらいいんだけどね。あのさあ。一応言っておくけど、クラスのみんながどれだけハルカのことを心配してたか知らないでしょう。何の病気か知らないけどさ。あんた全くなしのツブテだったじゃん。先生も呆れてたよ。ま、有耶無耶になってよかったね。Cウィルスのお蔭かな。じゃ、ご愁傷様」
そういうことか。教えてくれてありがとう。それにしてもご愁傷様って何だよ。そんな言葉使ってたら絶対太宰先生に怒られる。そう、今日の私はこの位じゃ挫けないんだから。
校舎に入ると1クラスの生徒を2つの教室に分けて待機させていた。感染対策っていうやつだ。N美とは別の教室。とりあえず良かった、のかな。休校中の対応についての講釈や今後のオンライン授業の受け方の説明が40分ほどあって解散になった。次回の登校はとりあえず1週間後だ。
校舎を出て空を見て一息つく。やれやれ切り抜けた、と思ったところで周りを囲まれた。さっきのクラス委員とその他5人ほど。女が4人男が2人。口火を切ったのはやはりクラス委員だった。
「ハルカさあ」
さっきもそう思ったが、お前にハルカ呼ばわりされる筋合いないんじゃね、と思う。だってこいつと喋った記憶なんて、今朝以外にはとんと思い当たらない。しかし、今はそんなことを言うタイミングじゃないことくらいは分かる。
「あなたN美のことどう思っているの。あなたが学校に来なくなってからN美は随分落ちてしまって。当然よね。あなたたち親友だったんでしょ。それがいきなり学校に来なくなるは、連絡しても一切返事は寄越さないは。私たちだって何だよって思ったくらいなんだから、そりゃN美は傷ついたでしょう。今日だってN美は休みなのに、何であなたはのうのうと登校してきてるのよ。ちゃんとN美に謝りなさいよね」
N美に謝る?私が?意味分かんない。謝るのはN美の方だ。でも私はここでそんなことを言っても意味がないのを悟っていた。
「ちょっとどいてくれる」
私は目の前で道を塞いでいた男を両手で突き飛ばした。おおっ、と声をあげて男が尻もちをつく。その隙を抜けて逃げようとしたが後ろから鞄を掴まれた。強い反作用で私は態勢を崩し、膝を地面についてしまった。ズズッと擦った感覚があって、熱さと痛みが徐々に湧いてくる。
「何、逃げてんのよ。それにあんたが先に手を出したんだからね。虐められたみたいなこと言わないでよ」
私はクラス委員の目を睨みつけていた。フザケンナ、フザケンナ。そう念じて腹筋に力を入れる。少しだけ痛みが引いたような気がした。クラス委員が目を逸らした。勝った。
「もう、行こう。こんな奴に話したってどうせ分かりっこないだろうから」
ハン。だったら最初から絡んでくんなよ。私は立ち上がって膝の汚れを落とす。擦り傷が出来ていて血が滲んでいた。どこかで洗わないと。だけど痛いのは膝よりも胸だった。
早く家に帰ろう。先生に、先生に聞いてもらうんだから。最高に面白おかしく話してあげるんだから。私はどんどん重くなる胸を抱えて、ヨタヨタ走って家に帰った。
(続く)
「おはよう」
私はクラスメイトにごく自然に挨拶をした。否、少なくともそのつもりだった。でもそのクラスメイトは、私を一瞥もせずにスルーした。あ。ざわざわざわ。いいえ、何かに集中していて、私に気づかなかったのかも知れない。もしかしたら声が聞こえなかっただけなのかも知れない。そうではないことを知りながら、否定してみる。頑張れ。もしそうだとしても私は挫けない。だって高校を卒業すると決めたんだから。お姉ちゃんのようになる為に。
「おはよう」
私はもう一度、今度はさっきより大きな声を出してみた。葉桜の下に3人で集まっていたクラスメイトは間違いなくその声に気付いた。ように見えた。けれども彼女たちは私を振り返ることなく背を向けて歩き出した。
「何だか元気みたいね」「嘘でしょう」「信じらんない」
私に聞こえるか聞こえないかギリギリぐらいの音量での会話。みんな聞こえてるんだけど。多分私、太宰先生のせいで少し浮かれすぎていたのかも知れないな。そういえば学校なんてこんなものだった。そもそも私には、元々N美しか友だちいなかったじゃないか。
「あれ、ハルカじゃない。何だ学校来れたんだ」
声を掛けてきた彼女もクラスメイトだ。確かクラス委員だった子。さすがにクラス委員は声を掛けてくれるんだ。私はもう一度力を振り絞って「おはよう」と言った。
「ふーん。学校やめたんかと思ってたよ。ま、元気になったんだったらいいんだけどね。あのさあ。一応言っておくけど、クラスのみんながどれだけハルカのことを心配してたか知らないでしょう。何の病気か知らないけどさ。あんた全くなしのツブテだったじゃん。先生も呆れてたよ。ま、有耶無耶になってよかったね。Cウィルスのお蔭かな。じゃ、ご愁傷様」
そういうことか。教えてくれてありがとう。それにしてもご愁傷様って何だよ。そんな言葉使ってたら絶対太宰先生に怒られる。そう、今日の私はこの位じゃ挫けないんだから。
校舎に入ると1クラスの生徒を2つの教室に分けて待機させていた。感染対策っていうやつだ。N美とは別の教室。とりあえず良かった、のかな。休校中の対応についての講釈や今後のオンライン授業の受け方の説明が40分ほどあって解散になった。次回の登校はとりあえず1週間後だ。
校舎を出て空を見て一息つく。やれやれ切り抜けた、と思ったところで周りを囲まれた。さっきのクラス委員とその他5人ほど。女が4人男が2人。口火を切ったのはやはりクラス委員だった。
「ハルカさあ」
さっきもそう思ったが、お前にハルカ呼ばわりされる筋合いないんじゃね、と思う。だってこいつと喋った記憶なんて、今朝以外にはとんと思い当たらない。しかし、今はそんなことを言うタイミングじゃないことくらいは分かる。
「あなたN美のことどう思っているの。あなたが学校に来なくなってからN美は随分落ちてしまって。当然よね。あなたたち親友だったんでしょ。それがいきなり学校に来なくなるは、連絡しても一切返事は寄越さないは。私たちだって何だよって思ったくらいなんだから、そりゃN美は傷ついたでしょう。今日だってN美は休みなのに、何であなたはのうのうと登校してきてるのよ。ちゃんとN美に謝りなさいよね」
N美に謝る?私が?意味分かんない。謝るのはN美の方だ。でも私はここでそんなことを言っても意味がないのを悟っていた。
「ちょっとどいてくれる」
私は目の前で道を塞いでいた男を両手で突き飛ばした。おおっ、と声をあげて男が尻もちをつく。その隙を抜けて逃げようとしたが後ろから鞄を掴まれた。強い反作用で私は態勢を崩し、膝を地面についてしまった。ズズッと擦った感覚があって、熱さと痛みが徐々に湧いてくる。
「何、逃げてんのよ。それにあんたが先に手を出したんだからね。虐められたみたいなこと言わないでよ」
私はクラス委員の目を睨みつけていた。フザケンナ、フザケンナ。そう念じて腹筋に力を入れる。少しだけ痛みが引いたような気がした。クラス委員が目を逸らした。勝った。
「もう、行こう。こんな奴に話したってどうせ分かりっこないだろうから」
ハン。だったら最初から絡んでくんなよ。私は立ち上がって膝の汚れを落とす。擦り傷が出来ていて血が滲んでいた。どこかで洗わないと。だけど痛いのは膝よりも胸だった。
早く家に帰ろう。先生に、先生に聞いてもらうんだから。最高に面白おかしく話してあげるんだから。私はどんどん重くなる胸を抱えて、ヨタヨタ走って家に帰った。
(続く)
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