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第1章 太宰とJKが過ごしたある初夏の日々
第4話 喪失
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姉の部屋に太宰先生が来て1週間が過ぎた。楽しい話は尽きることがなく、すっかり寝不足だ。相変わらず隙あらば私に触ろうとする変態ぶりにもすっかり慣れた。ずっとお預けも可愛そうかな、なんて思ったりすることもあるけど、やっぱりそれは無理だなあ。せめて真っ黒な影じゃなくてイケメンだったならちょっと違うのかも知れないけど。
姉には一緒に行った太宰先生の墓参りの後に、姉の部屋に黒い影を見たところまでは話したが、その影と仲良く話しているなんてところまでは話していない。勿論、他の誰にも話していないし、そもそも姉を除いたら話せるような相手もいなかった。
その日は久しぶりの登校日だった。普段なら沈鬱になるところだが、毎日、太宰先生と話をしているせいか、気分は前向きだった。学校で何があっても、その話を先生に話せると思うと、多少の嫌なことくらいならむしろ歓迎かも、と思えた。
通学路も学校の景色も変わって見えた。昨日太宰先生と話したことが元気の元になっているかも知れない。
『時に君には、誰か信じられる人はいるかい?』
「前はたくさんいた気がするんだけど、今はなあ」
『一人もいない?』
「あ、そんなことはないんですけど」
『いいさ。私はいつも信じられる人なんて誰もいないと思っていた。私はひとりぼっちだとね。しかし、それは違っていた。ただ私が分かっていなかった、分かろうとしていなかっただけだ。自分がいつも一人ではないことは、いつもよく考えておかないと分からないものなのだ。もし、今、頭の中に一人でも信じられるかも知れないと思う人が浮かぶなら、至って君は幸せだということだ。少なくともそうであって欲しいと願う人がいると、君自身が分かっているという点において、私よりもずっと』
先生の話は周りくどいのに、何故か不思議に心に届いた。そうなのかも知れないと思う。だから私は、今日、N美やS君に会うことも怖くないと思った。親友のN美と元彼のS君。二人は、今、付き合っているカップルだ。
N美とは中学時代からの親友だった。部活のイザコザも、将来への不安も、N美と二人で話し、励まし合えばいつだって前を向けた。
S君とは高1の時に告白されて付き合った。一緒に帰ったり、時々遊びに行ったりするだけの他愛ない関係だったけど、手を繋いだり肩を抱いてもらうような、ほんの少しの触れ合いに心がときめいた。
高2の春、たまたま3人で下校した日から全てが壊れていった。初めは私の誤解、私の嫉妬だと思った。だってN美は校内でも1.2と言われるほどの美少女だったし、頭も良くて何もかも私とは違っていたから。S君だってちょっとフラッとなるのは当然だ。私なら断然N美を選ぶし、と言った時、S君の目が笑っていなかったのを見て、全てを悟った。
親友と彼を同時に失くした。
それから私は学校に行く気力が失せていった。心配してくれるクラスメイトもいたが、その気持ちに応じられなかった。応じる力が出なかったのだ。その内に誰からの連絡も途絶えた。N美からは一度も連絡はなかった。時々先生が電話をくれた。「みんな心配してるぞ」と。そんなことないでしょう、と思った。私一人がいてもいなくても世の中は何も変わらない。
その内に先生の電話に出ることさえ苦しくなった。リストカットをしたのがバレて、カウンセリングを受けたり、病院に行って薬も飲んだ。でもそれで何かが良くなっているのかいないのか、薬が効いているのかいないのか、私にはまるで分からなかった。
N美とS君の話は誰にもしなかった。唯一、姉を除いては。
(続く)
姉には一緒に行った太宰先生の墓参りの後に、姉の部屋に黒い影を見たところまでは話したが、その影と仲良く話しているなんてところまでは話していない。勿論、他の誰にも話していないし、そもそも姉を除いたら話せるような相手もいなかった。
その日は久しぶりの登校日だった。普段なら沈鬱になるところだが、毎日、太宰先生と話をしているせいか、気分は前向きだった。学校で何があっても、その話を先生に話せると思うと、多少の嫌なことくらいならむしろ歓迎かも、と思えた。
通学路も学校の景色も変わって見えた。昨日太宰先生と話したことが元気の元になっているかも知れない。
『時に君には、誰か信じられる人はいるかい?』
「前はたくさんいた気がするんだけど、今はなあ」
『一人もいない?』
「あ、そんなことはないんですけど」
『いいさ。私はいつも信じられる人なんて誰もいないと思っていた。私はひとりぼっちだとね。しかし、それは違っていた。ただ私が分かっていなかった、分かろうとしていなかっただけだ。自分がいつも一人ではないことは、いつもよく考えておかないと分からないものなのだ。もし、今、頭の中に一人でも信じられるかも知れないと思う人が浮かぶなら、至って君は幸せだということだ。少なくともそうであって欲しいと願う人がいると、君自身が分かっているという点において、私よりもずっと』
先生の話は周りくどいのに、何故か不思議に心に届いた。そうなのかも知れないと思う。だから私は、今日、N美やS君に会うことも怖くないと思った。親友のN美と元彼のS君。二人は、今、付き合っているカップルだ。
N美とは中学時代からの親友だった。部活のイザコザも、将来への不安も、N美と二人で話し、励まし合えばいつだって前を向けた。
S君とは高1の時に告白されて付き合った。一緒に帰ったり、時々遊びに行ったりするだけの他愛ない関係だったけど、手を繋いだり肩を抱いてもらうような、ほんの少しの触れ合いに心がときめいた。
高2の春、たまたま3人で下校した日から全てが壊れていった。初めは私の誤解、私の嫉妬だと思った。だってN美は校内でも1.2と言われるほどの美少女だったし、頭も良くて何もかも私とは違っていたから。S君だってちょっとフラッとなるのは当然だ。私なら断然N美を選ぶし、と言った時、S君の目が笑っていなかったのを見て、全てを悟った。
親友と彼を同時に失くした。
それから私は学校に行く気力が失せていった。心配してくれるクラスメイトもいたが、その気持ちに応じられなかった。応じる力が出なかったのだ。その内に誰からの連絡も途絶えた。N美からは一度も連絡はなかった。時々先生が電話をくれた。「みんな心配してるぞ」と。そんなことないでしょう、と思った。私一人がいてもいなくても世の中は何も変わらない。
その内に先生の電話に出ることさえ苦しくなった。リストカットをしたのがバレて、カウンセリングを受けたり、病院に行って薬も飲んだ。でもそれで何かが良くなっているのかいないのか、薬が効いているのかいないのか、私にはまるで分からなかった。
N美とS君の話は誰にもしなかった。唯一、姉を除いては。
(続く)
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