【遺稿】ティッシュの花

牧村燈

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第1章 ティッシュの花

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3月13日 

 今日は久々の飲み会の予定だったが、昨夜からの蕁麻疹の影響かあまり体調が芳しくないので自重した。久しぶりに会える人もいたのでとても残念だったが、お金の心配をしながら飲むのも粋じゃないかななどと思ってもいたので、微妙な安堵感もあった。たかだか安い居酒屋に行くだけのことなのに、と思うと何とも複雑な気分になる。こんな話、誰に言ってみたところでみっともないだけだが、それでも誰かに聞き流してもらえたら少しは気も紛れるのに。渋谷のガード下、今はもう潰れてしまったけど、あの店のアジフライが無性に食べたくなった。

 メンタルの通院では特別な指導はなく、いつもどおりの薬をもらった。胃腸薬は今回は無しになった。明日は、以前本命視していた会社の7回目の面接だ。会長ではなく社長面接になったそうだ。いずれにしても今回こそ最後だろう。ここまでやって来たのだ、目一杯で行ってこよう。


3月14日 

 社長面接。7回目の面接所要時間は実質20分。果たしてこれで結論は出るのだろうかと不安になる。人事部長はこれで最終的な結論を出すと言っていたが、似たような話は既に何度か聞いた気がする。

 来週、火曜日に面接の決まった会社はいきなり社長面接で一発勝負の短時間で決めてしまうらしい。早く結果の欲しい今となっては、ありがたい話だが、本当にそれでいいのだろうかとも思う。いい加減なマッチングは、結果もいい加減なものになってしまう可能性が高いことを、経験者は語る。

 それはそうとして、第一志望の会社から最終面接の案内が来ない。これもそろそろ結論を出して欲しいのだが。来週は山になりそうだ。というか山になって欲しいものである。とにかく頑張らなくっちゃ、だ。


3月15日

 明日は通院なので仕事は休み。最近よく顔を合わせる同僚のイザワ君は明日も仕事らしいのだが、私が休みなら休みたいなと言っていた。以前話した時に「正社員になるなら『フォーク(リフト)』の資格を取ったらいいです」と熱心に勧めてくれて、

「ハナサキさんなら絶対正社員になれますよ」

 と太鼓判を押してくれたイザワ君。倉庫中を縦横無尽に走り回るフォークリフトは恰好良かったが、狭いスペースでモノを避けながらの運転は、相当に難しそうだった。

 明日は人材銀行に登録に行ってから病院に行く。期待は薄いがとにかく一箇所決まればいいのだから少しでも可能性のあるところには網をはっておこうと思う。きっと大丈夫だと、自分で自分に暗示をかける。太鼓判を押してくれたイザワ君の為にも、私は頑張らなくちゃいけないのだ。


3月17日 

 つい先ほど、悪い知らせがあった。役員面接を待っていた第一志望の会社からNGの連絡だった。せめて役員面接を受けた上で結論をもらいたかった、とも思うが、それはそれでショックが大きかっただろう。縁がなかったものと思って潔く諦めよう。明日は、初トライにして恐らく最終面接になるだろう会社に行く。とにかく全力でぶつかるのみだ。いつも思うことではあるが、今度こそここが正念場だ。

 週初めの月曜早々、仕事にあぶれてしまったので今日は読書の日になった。頼みの図書館が休館日だったのでやむを得ずデパートで読書をした。あまり長時間座っていて不審がられてもいけないので、適当な時間で2階から1階、そしてまた2階へと場所を移した。何故こんなに気を使いながら時間つぶしをしないといけないのだろうと思うが、他にどうしようもないのが実際だった。昼食はカロリーメイトと缶コーヒー。早くまっとうな仕事に就かないと身体まで壊しかねない。何とかしなくては。


3月18日

 面接が夕方だったので学校を卒業式の準備の関係で早帰りしてきた末娘と中古品の買取屋にいった。ゲームのコインとテレカを6枚(50度数)を買取依頼したが、買い取り価格は1,520円也。テレカは新橋のチケット屋なら50度数1枚300円で引き取ってくれるのだが、ここでは250円換算。需給関係、田舎のつらさということなのだろう。娘はラブベリとたまっごちカードの束売りを買って上機嫌だった。まあそれだけでも来て良かったなと思った。


3月20日 

 今日は雨。お彼岸だというのにとっても寒い。またしても仕事がなかったので、末娘と図書館とデパートのゲームコーナーに行ってきた。500円で1時間遊べるコーナーに入る。ボールプールや風船でいっぱいの部屋、究極にのんびりしたメリーゴーランドや透明なプラスチックに噴水が仕込まれた滑り台、自動で上下するシーソー等どれもとてもカラフルな遊具が沢山あった。

 風船の部屋にはドーナツのぬいぐるみを二つ抱えてひたすらクルクル回転して、挙句に目を回して倒れ込んでしまう謎の少年や、二つある風船の部屋の片方に全ての風船を集めて、何故か不気味な笑みを浮かべる少女など個性的な子供たちが登場。何ということもない遊び場だったが、1時間はあっという間に過ぎていった。気に入った様子だったおみやげでもらった風船が駐車場で割れてしまったのだが、

「お菓子があるからいいや」

 と泣いたり悔しがったりしなかった娘を見て、随分成長したものだと感じた。もうこの春には小2になる。


3月21日 

 金曜日、週末であまりたくさんの入荷がなかったので、棚の整理や出荷の手伝い等でポツリポツリと仕事が入るという感じで時間が長く感じられた。それでいて最後にちょっとバタバタと仕事が入ったので何だか疲れた一日になった。来週は月曜日も同じ勤務先に行けそうだ。

 エージェントから、例の7度の面接を重ねた会社はどうやらまだ結論が出ないらしいと連絡があった。一体どうなるのだろう。あまり期待し過ぎると落ちた時のショックが大きいので、もう諦めておいた方が良いのかも知れない。

(続く)
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