あやかしの森の魔女と彷徨う旅の吟遊詩人

牧村燈

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処刑執行

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 拍手のさざ波がどんどん広がり、やがて森中がその優しい響きに包まれた。Sの心の願いが森の民に通じたのだ。その拍手に応えて頭を下げるSは一糸まとわぬ全裸である。しかしその姿は、もはや森の民を煽動するようなエロティックなものではない。神々しいばかりに美しく眩い光を纏っていた。

「S……」

 Kの瞳がキラリ光る。Sが頷く。

「なんだ、なんだ、なんだ、なんだ。なんだこの茶番は!お前たちのような弱者は、何も考えずに私に従っていればいいものを、何勝手なことをしているんだ」

 導師がイライラを爆発させた。

「ぼくは君に言われた通りにこの森の長になる。勝手なことなんてしていない」

「Kは処刑だ。それは森の民の総意だ」

「それは今、森の民によって許された。それは君も見ただろう」

「うううううううう、反論するな。あんな集団催眠術を使った誘導、邪道だろう」

「そういう君はどうやって森の民の総意を得たというんだい」

「お前は、生意気だ!」

 導師は指先をSに向けて身体を操ろうするが、すぐにKが落雷を落とす。導師がKに指先を向けると、今度はSが導師の精神に揺さぶりを掛けた。

「くっそお。忌々しい姉妹だ。ならばこれでどうだ」

 導師は舞台の一番前にいたニロニロ10体に術を掛けて巨大化させると、KとSを襲えと指示を出した。物理的攻撃を受けつけないヌラヌラした直径に1mほどの円柱の巨体が舞台に押し寄せる。

「S、こいつらの弱点は目だ」

 KがSに耳打ちする。

「待って、お姉ちゃん。ここでニロニロを攻撃してはだめ」

 Sが制する。たった今、森の民に対して贖罪を約束したばかりだ。いくら導師の術に掛かっているからと言って、この舞台の上でニロニロを傷つけることは出来ない。

「そんな。S。どうするの?こいつらに力では勝てない」

「でも、待って」

 Sはニロニロに念派を送る。先頭のニロニロが立ち止まったが、残りの9体がそれを蹴り倒して押し寄せて来た。Sは続けざまに必死で念派を送ったが、勢い込んだ重戦車軍団を一度に全部を止めるすべはなかった。

「あっ、もう無理」

 抵抗空しく二人はあっと言う間に巨大化ニロニロの虜になった。

「ヨーーシ。よしよし。よくやった。それでいいんだ。ハハハハハ。慈悲心が仇になったなお嬢ちゃん」

 ざわめく広場の様子など全く歯牙にも掛けない導師が満足気に笑う。Kを取り押さえていたニロニロの一体が、器用に両手を使って徐にKの身体のシーツを剥ぎ取った。

「おお。なかなか気が利くじゃないか。おい、そっちの女も目と口を押さえておけ。そうだ。それでいい。これで面倒な術を使われることもなくなった。さあ、ニロニロどもよ。今度こそKの処刑をはじめるのだ」

 舞台にニロニロの身体の大きさほどもある巨大な剣が用意された。艶めかしいほどにギラギラした光が、その剣のえげつない切れ味を物語っている。二体のニロニロに跪かされたKの首筋にその巨大な剣があてがわれた。広場のざわめきが大きくなる。やはり、Kは殺されるべきなのか。あのSの必死の願いを叶えてやることは出来ないのか。森の民の揺れる心が広場にカゲロウを作る。

 お願い。お願い。お願い。目と口を塞がれニロニロの動きを封じることが出来ないSは祈るよりほかに何も出来なかった。

 お願い。お願い。お願い。助けて。助けて、スニーフ!

 剣が高々と振り上げられて、真っ直ぐにKの首へと振りおろされた。

 万事休す。

 次の瞬間、Sは押さえつけられて力がふっと消えたの感じ、視界が一気に戻った。

 Sは飛んでいた。真下に花舞台が見える。巨大化ニロニロが四方にバラバラに吹き飛んでいる。真ん中に裸のお姉ちゃん。首は、ついている。お姉ちゃんの隣に見えるのはきっとMだ。

 この背中は。そう。スニーフの背中だ。

「遅くなってすまなかったな。お嬢ちゃん」

「うん」

 Sはひとつ頷いて、その背中に強く抱きついた。

(続く)
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