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サイドM⑤
妄言探偵③
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翌日、私は中田さんに同行してもらって警察署に出向いた。夫・康介の容態確認と被害届の提出のためだ。康介は昨夜一時生死の境目を彷徨ったようだが、今朝には落ち着いた状態を取り戻し、峠は越えただろうと知らされた。
心からホッとした。もう一度、兄としての康介と向き合いたい。その先のことは今はまだ考えたくなかった。
施設の先生が二人で様子を聞きに来てくれていた。夫が施設を出てからもう10年以上経つというのに、その心配する様子から、まるで家族のことのように親身な愛情を感じた。それは私も知っている会社の同僚の若い男女からも、初めて会う女子大生風の若い女からも、本当に心配している人にしかない気色が溢れていた。
夫には人を優しい気持ちにする特技があった。子供の頃の記憶がない夫のそれは、本人が後天的に獲得したものなのだろう。私が妹であるとも知らずに注がれた沢山の愛情や温もりは、もしも私が普通に愛を受け取れる女であったなら、十分に幸せだったに違いない。
中田さんが若い女を外に連れ出していった。私に会わせないように中田さんが気遣うということは、なるほど、あの子が昨日の女なのね。そう思った途端に胸が苦しくなった。俯きがちにしていても私にはない明るい雰囲気、若さ、美貌、その何もかもが胸糞悪くてたまらない。
いたたまれない苦しさを訴えた私は、後のことを中田さんに託して先に家に帰らせてもらうことにする。タクシーに乗って一人になると、さっきの苦しさは嘘のように霧散した。
その代わりに。今度は身体の芯から熱いものが湧き出して来た。全身が性感帯になったかのように、車の振動にビクン、ビクン身体が痙攣する。全身に熱い汗が滴り、はあはあと息が荒くなった。
「お客さん、大丈夫ですか?」
バックミラー越しに私の異様な様子に気づいた運転手が声を掛けて来た。中年の赤ら顔。どこかで見た顔のような気がして、私は少しかすむ目でダッシュボードに貼ってある写真を見た。名前は山田某。
あいつだ。あのオンボロのお化け屋敷のようなホテルで私の首を絞めた男。そう、確か名前も山田だった。最悪の相手との最悪の再会。だがもうこの際誰でも良かった。私のこの身体の火照りを癒してくれるなら、デブでもハゲでもジジイでも何でもいい。
「はあ、はあ、お願いです。はあ、はあ、す、少し休ませてください」
私は後部座席で上着を脱いで横になり、自分でブラウスのボタンを二つ外した。タイトなミニスカートは黒いストッキングに包まれた太ももを殆ど隠していないだろう。
車が停車し、振り向いた運転手が「お客さん」という言葉と同時に息を飲んだのが分かる。「大丈夫ですか」と言いながら伸びてきた手が太ももに触れた。その刺激に体をくねらせて「あっ、うーん」と声を漏らす私。股間から妖しい匂いが漏れ出していた。盛っている女。大人しそうな顔をしてとんでもない痴女だな、とでも思われているだろうか。
運転手の手が恐る恐る股間に近づいてくる。早く、早く来て。私は腰を浮かせて運転手の骨張った指の刺激を待った。「ゴクリ」と唾を飲む音が、他に何の音もない車内に響く。運転手は手袋を外すと、黒いパンスト越しにのぞいているであろう白いパンツの中心部に指の腹を当ててきた。
「むうううっ、おおおっ」
という運転手の獣の咆哮のような声と、パンツ越しのクリトリスへの指の刺激だけで、私は官能の塊を握り潰された。
「うううん、んんぐぐっ、あ、ああっ、い、いく、いぐ、いきます」
呆気なく絶頂に導かれる。吹き出した愛液がパンツもパンストも突き抜けて、運転手の手も座席下もグショグショに濡らした。
運転手が後部座席に場所を移動しようとしたので、私は「もう大丈夫です」と言って服を直した。運転手は「あ、良かったです」と返事をすると、改めて手袋を付けると車を動かした。運転手はあの山田ではなかった。
家に着くと中田さんから連絡が入った。康介の意識が戻ったという。私の体調が大丈夫なら明日にでも話に来るようにとのことだった。
今更康介さんと何を話すことがあるんだろうかと、私はさっきのタクシーの中の官能の極みを思い出しながら考えてみた。何か大事なことがあったような気もしたが、考えること自体が面倒臭い。あああ、みんな中田さんがやってくれればいいのに。あの人も肝心な時に使えないんだから、と思う。
あ、そんなことより。私は今から会える男はいないだろうかとスマホのアプリを開いた。
(サイドM⑤完結、サイドK⑤につづく)
心からホッとした。もう一度、兄としての康介と向き合いたい。その先のことは今はまだ考えたくなかった。
施設の先生が二人で様子を聞きに来てくれていた。夫が施設を出てからもう10年以上経つというのに、その心配する様子から、まるで家族のことのように親身な愛情を感じた。それは私も知っている会社の同僚の若い男女からも、初めて会う女子大生風の若い女からも、本当に心配している人にしかない気色が溢れていた。
夫には人を優しい気持ちにする特技があった。子供の頃の記憶がない夫のそれは、本人が後天的に獲得したものなのだろう。私が妹であるとも知らずに注がれた沢山の愛情や温もりは、もしも私が普通に愛を受け取れる女であったなら、十分に幸せだったに違いない。
中田さんが若い女を外に連れ出していった。私に会わせないように中田さんが気遣うということは、なるほど、あの子が昨日の女なのね。そう思った途端に胸が苦しくなった。俯きがちにしていても私にはない明るい雰囲気、若さ、美貌、その何もかもが胸糞悪くてたまらない。
いたたまれない苦しさを訴えた私は、後のことを中田さんに託して先に家に帰らせてもらうことにする。タクシーに乗って一人になると、さっきの苦しさは嘘のように霧散した。
その代わりに。今度は身体の芯から熱いものが湧き出して来た。全身が性感帯になったかのように、車の振動にビクン、ビクン身体が痙攣する。全身に熱い汗が滴り、はあはあと息が荒くなった。
「お客さん、大丈夫ですか?」
バックミラー越しに私の異様な様子に気づいた運転手が声を掛けて来た。中年の赤ら顔。どこかで見た顔のような気がして、私は少しかすむ目でダッシュボードに貼ってある写真を見た。名前は山田某。
あいつだ。あのオンボロのお化け屋敷のようなホテルで私の首を絞めた男。そう、確か名前も山田だった。最悪の相手との最悪の再会。だがもうこの際誰でも良かった。私のこの身体の火照りを癒してくれるなら、デブでもハゲでもジジイでも何でもいい。
「はあ、はあ、お願いです。はあ、はあ、す、少し休ませてください」
私は後部座席で上着を脱いで横になり、自分でブラウスのボタンを二つ外した。タイトなミニスカートは黒いストッキングに包まれた太ももを殆ど隠していないだろう。
車が停車し、振り向いた運転手が「お客さん」という言葉と同時に息を飲んだのが分かる。「大丈夫ですか」と言いながら伸びてきた手が太ももに触れた。その刺激に体をくねらせて「あっ、うーん」と声を漏らす私。股間から妖しい匂いが漏れ出していた。盛っている女。大人しそうな顔をしてとんでもない痴女だな、とでも思われているだろうか。
運転手の手が恐る恐る股間に近づいてくる。早く、早く来て。私は腰を浮かせて運転手の骨張った指の刺激を待った。「ゴクリ」と唾を飲む音が、他に何の音もない車内に響く。運転手は手袋を外すと、黒いパンスト越しにのぞいているであろう白いパンツの中心部に指の腹を当ててきた。
「むうううっ、おおおっ」
という運転手の獣の咆哮のような声と、パンツ越しのクリトリスへの指の刺激だけで、私は官能の塊を握り潰された。
「うううん、んんぐぐっ、あ、ああっ、い、いく、いぐ、いきます」
呆気なく絶頂に導かれる。吹き出した愛液がパンツもパンストも突き抜けて、運転手の手も座席下もグショグショに濡らした。
運転手が後部座席に場所を移動しようとしたので、私は「もう大丈夫です」と言って服を直した。運転手は「あ、良かったです」と返事をすると、改めて手袋を付けると車を動かした。運転手はあの山田ではなかった。
家に着くと中田さんから連絡が入った。康介の意識が戻ったという。私の体調が大丈夫なら明日にでも話に来るようにとのことだった。
今更康介さんと何を話すことがあるんだろうかと、私はさっきのタクシーの中の官能の極みを思い出しながら考えてみた。何か大事なことがあったような気もしたが、考えること自体が面倒臭い。あああ、みんな中田さんがやってくれればいいのに。あの人も肝心な時に使えないんだから、と思う。
あ、そんなことより。私は今から会える男はいないだろうかとスマホのアプリを開いた。
(サイドM⑤完結、サイドK⑤につづく)
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