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サイドM②
少女時代③
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ピアノの音。その繊細で物悲しい音色がベートーベンの月光ソナタの第3楽章を奏でいることに気づくまでの間、私はここがどこなのか見失っていた。
「ね、いいだろう?乱暴はしないからさ」
男のヤニ臭い声が鼻元で囁いている。ああ、そうか、私この男とホテルにいるんだった。1mgの愛のかけらさえないSEX。乱暴しないだって?恋人ごっこのつもりなんだろうか?馬鹿馬鹿しい。頭が空っぽな援交娘だってロハじゃこんなことさせやしないのに。
帰らなくちゃ。起き上がろうとしたが、体が動かない。ハッ、として首を上げると下着だけにされた自分の身体が、使い古されたダブルベッドに両手足を大の字に縛りつけられていた。手枷に足枷。こいつ、どんなつもりでこんなものを用意してきたのだろう。黄ばんだ天井と覗き込む小汚い男のドヤ顔が私の心を抉る。
「カンダさんがさ、すぐに帰るなんて言い出すからいけないんだよ。まあ、でもこれでもう帰れないね。グフフフッ。それにしてもカンダさんって、いい体してんだね」
ぬめり、ぬちゃり。ネチっこい視線で山田は私の身体を上から下まで舐め回すと、動けない私の顔を舌で愛撫し始めた。腐りかけの牛乳の臭いがする唾液をベタベタに擦り付けながら、耳元でぐちゅっと音を立てる。興奮のせいか汗かきなのか、粘り気のある汗がひっきりなしにポタポタと私の身体に滴り落ちた。
んぐぅ。
喉の奥から激しい嘔吐感が湧き上がって来た。悲壮。月光の悲しい旋律が脳髄を支配する。縛られて抵抗出来ない無力な身体が、茶電灯が泡混じりにテラテラ光る男の体液に染め上げられる。私は目を閉じることも忘れて、ただ呆然と黄ばんだ天井を見詰めていた。天井のシミがグルグルと蠢き、やがて見知らぬ男の顔になる。こいつ、誰だっけ?
****** ******
暑い夏だった。私は東北の田舎町にある祖母の家に姉と二人で泊まりに行った。活発な姉はすぐに近所の子供たちと意気投合したが、私はそんな風に出来なかった。一人でいると、
「暑いだろう、水浴びでもしよう」
優しい声で誘ってくれた男がいた。男のことは祖母の家で時々見掛けた。良く知らないが、多分、近所の人か親戚の誰かだったのだと思う。山間の川の水はとても冷たくてキラキラしていた。「気持ちいい」私が笑うと、男は「可愛いよ」と褒めてくれた。
川辺の東屋。
「ほら、乾かさないと風邪ひくよ」
と服を脱がされた。その時初めて男と二人でいるのだと意識した。蝉の声だけが聴こえる東屋はとても静かだった。
「乱暴はしないから」
男はそう言って、まだ女にもなっていなかった私の下腹部を撫でた。
「くすぐったいよ」
私が笑いながら逃げようとすると、
「じっとしてて」
と肩を掴まれる。動けない。男の上気した赤い顔がとても嬉しそうに見えたのを憶えている。
今思えばイタズラされたのだと分かるが、その時はよく分かっていなかった。もう20年も前のことだ。後のことは霧がかかったようにはっきりしない。ただこの記憶の底には何故か姉の怒ったような顔が沈んでいた。姉はそこにいなかったはずなのに……。
元々誰だったのかも憶えていない男だったが、その日以降、見掛けることもなくなった。
天井に現れた顔が、その時の男の顔だったことを思い出す。
****** ******
荒々しい男の息づかいにピアノの音が遮られた。天井の顔が消える。山田は夢中で自分の汗塗れの私の胸を揉みしだき、股間を太腿に擦り付けた。性的な興奮はなかった。むしろ男のザラついた陰毛が肌に擦れる不快感がたまらない。それでも私は声を出さなかった。
無言でされるがままになっているのをいい事に、男は私のまだ濡れてもいない膣にナマの肉棒をあてがてきた。あぁ、なるほど。コイツもか。みんなあいつらと同じなんだ。
「大丈夫、外に出すからさ」
ギシギシ揺れるベッドは小柄な山田と私のSEXに今にも壊れそうな音を立てている。関取でも来た日にはお釈迦になるななんて、頭はやけに冷静に自分の営みを見ていた。
手足の拘束を解かれても、私は男のなすがままに股を開き、その薄汚い肉の全てを受け容れている。ベッドの横に貼られたあちこちに傷のある鏡に映る、貧弱な男に貫かれている自分の様は、どう贔屓目に見ても見栄えのするものではなかった。
醜いのはこいつのせい。薄汚れたこいつのせい。もしもこいつが精液を一滴でも私に残したら、いつか必ず〇〇〇〇〇〇。私はそう念じて虚空を睨み続けていた。左足の傷がチクリと痛んだ。
結局、山田は私の中で果てた。生温いものが膣の入口に降りてくる。どんだけ溜めてたんだこいつ。なんて阿保らしい感想が浮ぶ。こっちはどうせ妊娠してんだよ、と自分に向かって毒づいて、なのに勝手に涙がこぼれた。何の涙だろう。ただどうせ、この涙もイカ臭いに違いない。
余韻に浸って目を瞑っていた山田に、私は甘えるようにすり寄った。男は頬を綻ばせて喜んでいる。そのまま緩んだ腹の上に跨った。男の精液で濡れた裸の下半身が、汗で湿った男の腹に密着する。男が次の行為を期待するように上気した顔でこちらを見る。私はその期待に応えて両手で男の両乳首を摘まんだ。
「うううん」
という気色悪い声。もう十分だろう。私はそのまま男の首に手を掛け、グッと指を食いこませると、そのまま力の限りを込めて首を絞めた。
「ぐっ、うぐう、カ、カンダさん?ちょ、ちょっと……」
自然と力が入る私の両手の下で悶え動く脂ぎった喉仏。拍子抜けした男の声色が私の下に踠づく。
しかし、それはほんの束の間のことだった。山田に掴まれた私の指は、たちまち首から引き剥がされてしまう。掴まれた部分が引きちぎられたように痛かった。男の力にはまるで敵わないと思い知らされる。
「おいおい、勘弁してくれよな」
男は反転して私をベッドに押さえつけると、逆に私の首を絞めた。
「う、うぐっ」
く、苦しい、あっあああぁ。白目を剥いた私の意識が飛ぶ寸前で力が緩んだ。
「殺すぞ、このアマ」
そう言い捨てると、山田はホテルを出ていった。
(サイドM②完、サイドK②に続く)
「ね、いいだろう?乱暴はしないからさ」
男のヤニ臭い声が鼻元で囁いている。ああ、そうか、私この男とホテルにいるんだった。1mgの愛のかけらさえないSEX。乱暴しないだって?恋人ごっこのつもりなんだろうか?馬鹿馬鹿しい。頭が空っぽな援交娘だってロハじゃこんなことさせやしないのに。
帰らなくちゃ。起き上がろうとしたが、体が動かない。ハッ、として首を上げると下着だけにされた自分の身体が、使い古されたダブルベッドに両手足を大の字に縛りつけられていた。手枷に足枷。こいつ、どんなつもりでこんなものを用意してきたのだろう。黄ばんだ天井と覗き込む小汚い男のドヤ顔が私の心を抉る。
「カンダさんがさ、すぐに帰るなんて言い出すからいけないんだよ。まあ、でもこれでもう帰れないね。グフフフッ。それにしてもカンダさんって、いい体してんだね」
ぬめり、ぬちゃり。ネチっこい視線で山田は私の身体を上から下まで舐め回すと、動けない私の顔を舌で愛撫し始めた。腐りかけの牛乳の臭いがする唾液をベタベタに擦り付けながら、耳元でぐちゅっと音を立てる。興奮のせいか汗かきなのか、粘り気のある汗がひっきりなしにポタポタと私の身体に滴り落ちた。
んぐぅ。
喉の奥から激しい嘔吐感が湧き上がって来た。悲壮。月光の悲しい旋律が脳髄を支配する。縛られて抵抗出来ない無力な身体が、茶電灯が泡混じりにテラテラ光る男の体液に染め上げられる。私は目を閉じることも忘れて、ただ呆然と黄ばんだ天井を見詰めていた。天井のシミがグルグルと蠢き、やがて見知らぬ男の顔になる。こいつ、誰だっけ?
****** ******
暑い夏だった。私は東北の田舎町にある祖母の家に姉と二人で泊まりに行った。活発な姉はすぐに近所の子供たちと意気投合したが、私はそんな風に出来なかった。一人でいると、
「暑いだろう、水浴びでもしよう」
優しい声で誘ってくれた男がいた。男のことは祖母の家で時々見掛けた。良く知らないが、多分、近所の人か親戚の誰かだったのだと思う。山間の川の水はとても冷たくてキラキラしていた。「気持ちいい」私が笑うと、男は「可愛いよ」と褒めてくれた。
川辺の東屋。
「ほら、乾かさないと風邪ひくよ」
と服を脱がされた。その時初めて男と二人でいるのだと意識した。蝉の声だけが聴こえる東屋はとても静かだった。
「乱暴はしないから」
男はそう言って、まだ女にもなっていなかった私の下腹部を撫でた。
「くすぐったいよ」
私が笑いながら逃げようとすると、
「じっとしてて」
と肩を掴まれる。動けない。男の上気した赤い顔がとても嬉しそうに見えたのを憶えている。
今思えばイタズラされたのだと分かるが、その時はよく分かっていなかった。もう20年も前のことだ。後のことは霧がかかったようにはっきりしない。ただこの記憶の底には何故か姉の怒ったような顔が沈んでいた。姉はそこにいなかったはずなのに……。
元々誰だったのかも憶えていない男だったが、その日以降、見掛けることもなくなった。
天井に現れた顔が、その時の男の顔だったことを思い出す。
****** ******
荒々しい男の息づかいにピアノの音が遮られた。天井の顔が消える。山田は夢中で自分の汗塗れの私の胸を揉みしだき、股間を太腿に擦り付けた。性的な興奮はなかった。むしろ男のザラついた陰毛が肌に擦れる不快感がたまらない。それでも私は声を出さなかった。
無言でされるがままになっているのをいい事に、男は私のまだ濡れてもいない膣にナマの肉棒をあてがてきた。あぁ、なるほど。コイツもか。みんなあいつらと同じなんだ。
「大丈夫、外に出すからさ」
ギシギシ揺れるベッドは小柄な山田と私のSEXに今にも壊れそうな音を立てている。関取でも来た日にはお釈迦になるななんて、頭はやけに冷静に自分の営みを見ていた。
手足の拘束を解かれても、私は男のなすがままに股を開き、その薄汚い肉の全てを受け容れている。ベッドの横に貼られたあちこちに傷のある鏡に映る、貧弱な男に貫かれている自分の様は、どう贔屓目に見ても見栄えのするものではなかった。
醜いのはこいつのせい。薄汚れたこいつのせい。もしもこいつが精液を一滴でも私に残したら、いつか必ず〇〇〇〇〇〇。私はそう念じて虚空を睨み続けていた。左足の傷がチクリと痛んだ。
結局、山田は私の中で果てた。生温いものが膣の入口に降りてくる。どんだけ溜めてたんだこいつ。なんて阿保らしい感想が浮ぶ。こっちはどうせ妊娠してんだよ、と自分に向かって毒づいて、なのに勝手に涙がこぼれた。何の涙だろう。ただどうせ、この涙もイカ臭いに違いない。
余韻に浸って目を瞑っていた山田に、私は甘えるようにすり寄った。男は頬を綻ばせて喜んでいる。そのまま緩んだ腹の上に跨った。男の精液で濡れた裸の下半身が、汗で湿った男の腹に密着する。男が次の行為を期待するように上気した顔でこちらを見る。私はその期待に応えて両手で男の両乳首を摘まんだ。
「うううん」
という気色悪い声。もう十分だろう。私はそのまま男の首に手を掛け、グッと指を食いこませると、そのまま力の限りを込めて首を絞めた。
「ぐっ、うぐう、カ、カンダさん?ちょ、ちょっと……」
自然と力が入る私の両手の下で悶え動く脂ぎった喉仏。拍子抜けした男の声色が私の下に踠づく。
しかし、それはほんの束の間のことだった。山田に掴まれた私の指は、たちまち首から引き剥がされてしまう。掴まれた部分が引きちぎられたように痛かった。男の力にはまるで敵わないと思い知らされる。
「おいおい、勘弁してくれよな」
男は反転して私をベッドに押さえつけると、逆に私の首を絞めた。
「う、うぐっ」
く、苦しい、あっあああぁ。白目を剥いた私の意識が飛ぶ寸前で力が緩んだ。
「殺すぞ、このアマ」
そう言い捨てると、山田はホテルを出ていった。
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