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第5章 希望の海
5-1 二陣
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第2基地に到着したカゼは、即座に現有戦力を確認した。基地に到着した兵が20名余り、向かっていることが確認されている者が10名ほどという報告。
「まさか、本当に100潰されたっていうのか?」
恐らくは集合の指示も聞く気のない、そもそも単なる賞金稼ぎの兵もそれなりの数はいるのだろう。しかし、それを差し引いてもあまりに酷い。カゼは敵の残存勢力の分析をしてまた愕然とした。拘束して抹殺を指示した2人以外、戦闘で倒したと想定されるのはたったの1名であった。都合3人か。こっちは100削られたというのに。舐めてかかったつもりはなかったが、オークションの参加メンバーが想像以上の猛者であったこと。そして、あの王女。商品の分際が、いつの間にかチームをまとめ上げていたということなのか。
「生まれながらの女王蜂か」
ア国のヘビ王子がなぜこの小娘に執着しているのか、その理由が分かったような気がした。カゼは集まった兵に向って、魂を込めた口調で話し出す。
「ここからは私の指揮下に入れ。情勢を見れば分かる通り厳しい戦いだが、是が非でも任務を完遂する。任務を完了すれば各自の契約の4倍の報酬を出そう。その代りその命を私に預けて欲しい。私に従えない者、または命を張る気のない者は今すぐここで離脱しろ」
小さなざわめきが起こる。この程度の脅しについてこない奴は役に立たない。足手まといはここで離脱してもらった方がいい。離脱した者を生きて帰すつもりもないが。そんなカゼの思いを知ってか知らずか、離脱を申し出る者は一人もいなかった。
「よし。ならば諸君らの命は私が預かった。敵は7人。手練れもいるようだが、多勢に無勢だ。武装した諸君が本気になれば、戦力は3倍以上、勝てる戦だ。広場に炙り出して数で圧倒する。以上だ」
そもそもが寄せ集めの傭兵である。付け焼刃で細かい指示を出したところでうまく機能するとは思えない。であるならば紛れのない作戦を取るのが一番だろう。本来であればここは一旦引いて態勢を立て直すべき局面だが、タイムリミットが迫っていた。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
王女とタマネギは、マコトの生家を脱出した。テッコツマンスーツの下は一糸纏わぬ裸だった王女は、残っていたマコトの私服を借りることにした。結果、見事な黒づくめスタイルになった。いかにもマコトらしい服のセンスだ。
タマネギは頼りになる戦士だった。もしもタマネギが駆けつけてくれなければ、自分はサトルに犯された、囚われの身となって何処へか連れ去れていたに相違ない。行き先はア国か、それとも竹国か。そこで更に想像に耐えない辱めを受けることになったのだろう。
だというのに。王女の頭の中にタマネギの姿はなかった。ああ、マコト。今こそ傍にいて欲しい。王女の心はマコトでいっぱいだった。
朝を迎えた広場は荒涼としていた。嵐の前の静けさだろうか。風がない。
「生臭いな」
タマネギが呟く。王女には匂いは感じられなかったが、確かに何か不穏な予感がよぎった。
「敵か?」
「まあ、味方ってことはあるまい」
「やるしかないか?」
「いや、ここは逃げよう。どうも嫌な予感しかしねえ」
タマネギは広場から離れるべく王女を導いた。まだ、敵の影すら見えていない段階での判断だったが、それは実に的確な判断だった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
二人が広場から姿を消して数分もしない間に、広場はカゼが率いる兵隊によって占拠された。即座に周辺の建物のチェックが始まる。マコトの生家で、拘束されて意識を失ったサトルが発見されるまで、ものの10分も掛からなかった。報告を受けたカゼは、直ちに討ち果たすようにと言い渡した。
「裏切り者めが」
舌打ちする。しかし、カゼの兵がサトルを討ち果たすには及ばなかった。マコトの生家は次の瞬間、轟音と共に消失してしまったのである。
「くそが、竹国か」
カゼはサトルが竹国の命を受けた傭兵で、ミッションに失敗して消されたのだと瞬時に把握した。どれほどの金を積まれたのかは知らないが、何故に竹国になど心を売ったのであろうか。ア国も決して天使の国ではないが、竹国に比べれば人情がある。実力があれば夢を見ることも出来た。ま、今回のような体たらくでは、自分も夢どころじゃないがな。カゼは自嘲しながら、せめて王女をヘビ王子の下へ連れて行かなければと、爆破の周辺から王女の痕跡の追跡を急がせた。
(続く)
「まさか、本当に100潰されたっていうのか?」
恐らくは集合の指示も聞く気のない、そもそも単なる賞金稼ぎの兵もそれなりの数はいるのだろう。しかし、それを差し引いてもあまりに酷い。カゼは敵の残存勢力の分析をしてまた愕然とした。拘束して抹殺を指示した2人以外、戦闘で倒したと想定されるのはたったの1名であった。都合3人か。こっちは100削られたというのに。舐めてかかったつもりはなかったが、オークションの参加メンバーが想像以上の猛者であったこと。そして、あの王女。商品の分際が、いつの間にかチームをまとめ上げていたということなのか。
「生まれながらの女王蜂か」
ア国のヘビ王子がなぜこの小娘に執着しているのか、その理由が分かったような気がした。カゼは集まった兵に向って、魂を込めた口調で話し出す。
「ここからは私の指揮下に入れ。情勢を見れば分かる通り厳しい戦いだが、是が非でも任務を完遂する。任務を完了すれば各自の契約の4倍の報酬を出そう。その代りその命を私に預けて欲しい。私に従えない者、または命を張る気のない者は今すぐここで離脱しろ」
小さなざわめきが起こる。この程度の脅しについてこない奴は役に立たない。足手まといはここで離脱してもらった方がいい。離脱した者を生きて帰すつもりもないが。そんなカゼの思いを知ってか知らずか、離脱を申し出る者は一人もいなかった。
「よし。ならば諸君らの命は私が預かった。敵は7人。手練れもいるようだが、多勢に無勢だ。武装した諸君が本気になれば、戦力は3倍以上、勝てる戦だ。広場に炙り出して数で圧倒する。以上だ」
そもそもが寄せ集めの傭兵である。付け焼刃で細かい指示を出したところでうまく機能するとは思えない。であるならば紛れのない作戦を取るのが一番だろう。本来であればここは一旦引いて態勢を立て直すべき局面だが、タイムリミットが迫っていた。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
王女とタマネギは、マコトの生家を脱出した。テッコツマンスーツの下は一糸纏わぬ裸だった王女は、残っていたマコトの私服を借りることにした。結果、見事な黒づくめスタイルになった。いかにもマコトらしい服のセンスだ。
タマネギは頼りになる戦士だった。もしもタマネギが駆けつけてくれなければ、自分はサトルに犯された、囚われの身となって何処へか連れ去れていたに相違ない。行き先はア国か、それとも竹国か。そこで更に想像に耐えない辱めを受けることになったのだろう。
だというのに。王女の頭の中にタマネギの姿はなかった。ああ、マコト。今こそ傍にいて欲しい。王女の心はマコトでいっぱいだった。
朝を迎えた広場は荒涼としていた。嵐の前の静けさだろうか。風がない。
「生臭いな」
タマネギが呟く。王女には匂いは感じられなかったが、確かに何か不穏な予感がよぎった。
「敵か?」
「まあ、味方ってことはあるまい」
「やるしかないか?」
「いや、ここは逃げよう。どうも嫌な予感しかしねえ」
タマネギは広場から離れるべく王女を導いた。まだ、敵の影すら見えていない段階での判断だったが、それは実に的確な判断だった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
二人が広場から姿を消して数分もしない間に、広場はカゼが率いる兵隊によって占拠された。即座に周辺の建物のチェックが始まる。マコトの生家で、拘束されて意識を失ったサトルが発見されるまで、ものの10分も掛からなかった。報告を受けたカゼは、直ちに討ち果たすようにと言い渡した。
「裏切り者めが」
舌打ちする。しかし、カゼの兵がサトルを討ち果たすには及ばなかった。マコトの生家は次の瞬間、轟音と共に消失してしまったのである。
「くそが、竹国か」
カゼはサトルが竹国の命を受けた傭兵で、ミッションに失敗して消されたのだと瞬時に把握した。どれほどの金を積まれたのかは知らないが、何故に竹国になど心を売ったのであろうか。ア国も決して天使の国ではないが、竹国に比べれば人情がある。実力があれば夢を見ることも出来た。ま、今回のような体たらくでは、自分も夢どころじゃないがな。カゼは自嘲しながら、せめて王女をヘビ王子の下へ連れて行かなければと、爆破の周辺から王女の痕跡の追跡を急がせた。
(続く)
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