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第1章 闇オークション
1-7 蛍光
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オークション商品の感度チェックは続く。
然るべき手順を踏んで下半身に降りてきた店長の二丁ローターは、バーテンダーの最後の砦であるブルーの三角形にその先端を届かせた。ゆっくりと急所をギリギリで外しながら旋回する振動する先端部が、狙い澄ましているターゲットをピンポイントで浮き上がらせる。
次か、その次か。ターゲットされているバーテンダーの清楚な突起物は、まるでその瞬間を待ち侘びるかのように、小さな布の中でそのピンク色の頭を覗かせていた。その姿とはまるで対照的に身構えてこわばるバーテンダーの口元から、一筋の涎が流れ出す。顎で滴になった涎は、やがて糸を引いて桜色に火照る胸にトロリと垂れ、その存在をアピールするかのように膨張した敏感な円柱に絡まった。
ヘソマニアにとっては、ビキニスタイルで行われている感度チェックは、至高の鑑賞タイムになっていた。バーテンダーの官能が高まるにつれて激しく上下する腹袋が目まぐるしくヘソの形を変化させる。正面からその様子を舐めるようにじっくり観察していたヘソマニアは、ヘソの中に不思議な輝きを見ていた。
あれは、なんだ?
これまで何万というヘソを観察して来たヘソマニアのデータベースにない、仄かな緑色に輝く小さな模様。それは目を離すとすぐに消えてしまうほど仄かでありながら、何故かどうしてももう一度見たくなる、そんな光だった。そうか、蛍のひかりか。ヘソマニアはその光を、もっと間近で見たいという気持ちに突き動かされ、身体を前にのめり出した。
「三番様、失格です」
気づいた時にはラインを超えていたばかりか、バーテンダーのヘソを左右に広げてその中を覗き込んでいた。信号機が咎める声もまったく耳に入らなかった。ヘソの光に魅入られた亡者・ヘソマニアは失格という最悪の結果に天を仰いだ。
感度チェックは一時中断となった。ヘソマニアは、監視員から参加証を剥奪され、店長に付き添われて会場から退出した。
「きみは気づいたか?あの光に」
ヘソマニアが店長に尋ねた。
「光?」
「そうか。あれだけ近くにいても気づかないのか」
「何の話だ?」
「いや。聞いた話だ。気にしないでくれ。だが、もし本物だとすればとんでもない話だ」
妄言か。高い参加費を払って途中失格はさぞガッカリだっただろうからな。店長は情けを掛けるつもりでこう言った。
「まあ、あんたの趣味なら、何もここまで敷居の高いオークションでなくても、いつだってお気に入りを見つけられるさ。また店に来てくれよ。験直しに一杯奢らせてもらうよ」
ヘソマニアは首を振った。
「いや、この商品の代わりを見つけるのは無理だよ。もしも俺が聞いたあの話が本当ならな。言わずに消えようと思ったが、あんたはいい奴だ。話しておくことにするよ。俺は今、蛍のひかりを見た」
「ホタルノヒカリ?何だそれは?」
店長は訝しがる。
「ヘソだよ、ヘソ。あれは何百万にひとつの輝きなんだ。俺がこれからの生涯をヘソ一筋に生きたとしても、もう二度と出会うことのない光だ。いいか、よく聞けよ。この国の王女がその珍しい光るヘソの持ち主だって話を聞いたことがあるんだ。王家に出入りしてた王女を赤ん坊の頃から世話をしていた女から聞いた話だ。それこそ敷居が少々高かったが、何とか一目と思って色々画策していたんだが......。知っての通り王女は1年前に死んじまった」
一息ついたヘソマニアは、そのまま思いを一気に吐き出した。
「だが、その光るヘソを持つ女がここにいた。年の頃もほぼ一緒だ。店長、あのバーテンダー。もしかしたら事故で死んだと思われている我が国の王女かも知れないぞ。王女は生きていたんじゃないのか?」
ヘソマニアは言い放つと、踵を返してひとり夜更けの街に消えた。
王女だと?バカか。ふざけんな。あいつは俺がゴミ捨て場から拾ってきた女だ......。
あ、と、店長は、ふ、と思い出す。1年前に起こった国中が大騒ぎをしたア国の王子との祝言を前にした国王家の事故。報道で散々流された死んだ王女の顔写真。満面の笑み。全然違う。だってあいつは一度だって笑いやしなかった......。
いや違う。バーテンは一度だけ笑ったことがあった。あれは初めてバーテンの格好をさせてやった時だ。カッコいいじゃねえか、と言ったら、そうか?と照れ臭そうに笑いやがった。その笑顔は店長の脳裏に今も鮮やかに残っていた。それほど印象的で美しい笑顔だったのだ。
あの時の、あいつの目、あいつの鼻梁、あいつの唇。まさか、あいつが王女だと。まさか。まさか。まさか?
(続く)
然るべき手順を踏んで下半身に降りてきた店長の二丁ローターは、バーテンダーの最後の砦であるブルーの三角形にその先端を届かせた。ゆっくりと急所をギリギリで外しながら旋回する振動する先端部が、狙い澄ましているターゲットをピンポイントで浮き上がらせる。
次か、その次か。ターゲットされているバーテンダーの清楚な突起物は、まるでその瞬間を待ち侘びるかのように、小さな布の中でそのピンク色の頭を覗かせていた。その姿とはまるで対照的に身構えてこわばるバーテンダーの口元から、一筋の涎が流れ出す。顎で滴になった涎は、やがて糸を引いて桜色に火照る胸にトロリと垂れ、その存在をアピールするかのように膨張した敏感な円柱に絡まった。
ヘソマニアにとっては、ビキニスタイルで行われている感度チェックは、至高の鑑賞タイムになっていた。バーテンダーの官能が高まるにつれて激しく上下する腹袋が目まぐるしくヘソの形を変化させる。正面からその様子を舐めるようにじっくり観察していたヘソマニアは、ヘソの中に不思議な輝きを見ていた。
あれは、なんだ?
これまで何万というヘソを観察して来たヘソマニアのデータベースにない、仄かな緑色に輝く小さな模様。それは目を離すとすぐに消えてしまうほど仄かでありながら、何故かどうしてももう一度見たくなる、そんな光だった。そうか、蛍のひかりか。ヘソマニアはその光を、もっと間近で見たいという気持ちに突き動かされ、身体を前にのめり出した。
「三番様、失格です」
気づいた時にはラインを超えていたばかりか、バーテンダーのヘソを左右に広げてその中を覗き込んでいた。信号機が咎める声もまったく耳に入らなかった。ヘソの光に魅入られた亡者・ヘソマニアは失格という最悪の結果に天を仰いだ。
感度チェックは一時中断となった。ヘソマニアは、監視員から参加証を剥奪され、店長に付き添われて会場から退出した。
「きみは気づいたか?あの光に」
ヘソマニアが店長に尋ねた。
「光?」
「そうか。あれだけ近くにいても気づかないのか」
「何の話だ?」
「いや。聞いた話だ。気にしないでくれ。だが、もし本物だとすればとんでもない話だ」
妄言か。高い参加費を払って途中失格はさぞガッカリだっただろうからな。店長は情けを掛けるつもりでこう言った。
「まあ、あんたの趣味なら、何もここまで敷居の高いオークションでなくても、いつだってお気に入りを見つけられるさ。また店に来てくれよ。験直しに一杯奢らせてもらうよ」
ヘソマニアは首を振った。
「いや、この商品の代わりを見つけるのは無理だよ。もしも俺が聞いたあの話が本当ならな。言わずに消えようと思ったが、あんたはいい奴だ。話しておくことにするよ。俺は今、蛍のひかりを見た」
「ホタルノヒカリ?何だそれは?」
店長は訝しがる。
「ヘソだよ、ヘソ。あれは何百万にひとつの輝きなんだ。俺がこれからの生涯をヘソ一筋に生きたとしても、もう二度と出会うことのない光だ。いいか、よく聞けよ。この国の王女がその珍しい光るヘソの持ち主だって話を聞いたことがあるんだ。王家に出入りしてた王女を赤ん坊の頃から世話をしていた女から聞いた話だ。それこそ敷居が少々高かったが、何とか一目と思って色々画策していたんだが......。知っての通り王女は1年前に死んじまった」
一息ついたヘソマニアは、そのまま思いを一気に吐き出した。
「だが、その光るヘソを持つ女がここにいた。年の頃もほぼ一緒だ。店長、あのバーテンダー。もしかしたら事故で死んだと思われている我が国の王女かも知れないぞ。王女は生きていたんじゃないのか?」
ヘソマニアは言い放つと、踵を返してひとり夜更けの街に消えた。
王女だと?バカか。ふざけんな。あいつは俺がゴミ捨て場から拾ってきた女だ......。
あ、と、店長は、ふ、と思い出す。1年前に起こった国中が大騒ぎをしたア国の王子との祝言を前にした国王家の事故。報道で散々流された死んだ王女の顔写真。満面の笑み。全然違う。だってあいつは一度だって笑いやしなかった......。
いや違う。バーテンは一度だけ笑ったことがあった。あれは初めてバーテンの格好をさせてやった時だ。カッコいいじゃねえか、と言ったら、そうか?と照れ臭そうに笑いやがった。その笑顔は店長の脳裏に今も鮮やかに残っていた。それほど印象的で美しい笑顔だったのだ。
あの時の、あいつの目、あいつの鼻梁、あいつの唇。まさか、あいつが王女だと。まさか。まさか。まさか?
(続く)
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