ひとづまざむらい~元禄編~

牧村燈

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プロローグ

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 生類憐みの令の公布など何かと物議を醸した五代将軍綱吉の治世の頃は、元禄時代と呼ばれ、力を持ち始めた町人たちが主流となった文化が栄え、猫も杓子もお犬様も江戸城下を暢気な面で闊歩する、一見、賑やかでいかにも平和ボケな様子が見られたものであります。

 しかし一方においては、戦国の世を生き延びた輩の血族の血は、決して根絶やしにされてしまったわけではなく、ともすれば何でもない長屋の片隅にその末裔が汚れた血の匂いを隠して身を潜めていた、などということもなかったわけではございませぬ。

 このお話は、そんな長屋で町人としてひっそりと生きる道を選んだ、侍の血を引く娘の物語であります。戦国を生きた侍の血が、平和な江戸元禄の世の裏側でどんな物語を紡いでいたのやら。歴史書には書かれていない、儚くも切なく、そして逞しきその生きる力を、どうぞ一夜の酒の肴に飲み干してくださいませ。
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