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第5章
9回表/危機一髪
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<9回表>
5点差のまま9回を迎えたあけぼの高校ベンチに、
「とどめを刺すぞ」
という佐藤キャプテンの掛け声が響いた。このまま逃げ切るためにも追加点でとどめを刺したい。打順も1番のキイチからだ。
わかたか学園の4番手投手は一年生だった。春の選抜の甲子園出場校のわかたかで一年生でベンチ入りしたのは花畑三男とこの選手だけ。素質の高い選手であることは間違いなかったが、今日のキイチとでは格が違った。初球のカーブを何なく捌くと、三遊間の真ん中を破るレフト前ヒットで出塁する。すかさず2番が送ってランナー2塁でマモルを迎えた。
マモルはわかたか打線の圧力にかなりの疲労を感じていたが、あと1回なら何とかいけるという手応えを感じていた。自分の投球を楽にする為にもキイチをホームに返しておきたい。
打つ。絶対に打つ。そんな気持ちが強過ぎたのかも知れない。疲労によって咄嗟の反応が鈍くなっていたのかも知れない。アウトコースにヤマを張って、踏み込んで打ちに行ったところに襲ってきた頭部へのボールを避けきれなかった。
ヘルメット直撃。何故か音はほとんどしなかった。倒れたマモルはピクリとも動かない。一瞬の静寂の後、グランドは騒然となった。担架で運び出されたマモルは途中で意識を戻したものの、依然朦朧とした様子で、うわごとのように、
「マモル......」
と自分の名前を繰り返していたという話が伝わってきた。
名前じゃねえよ。キイチは、それがマモルがこの試合で、うのから預かったバトンであることを知っていた。心配しないでくださいよ、マモル先輩。そのバトン、俺が預かるから。ゆっくり休んどいてください。2塁ベースにランナーとして戻ったキイチは、空を見上げて雲に誓った。
ざわついた雰囲気に両チーム共に動揺が隠せない中、控え投手が尽きたわかたか学園は、花畑兄をマウンドに立てた。本職ではないながらも、抜群の野球センスを見せた花畑兄がこの回を何とか0点で収拾することに成功し、ゲームは最終回の裏の攻撃を残すのみとなった。
<シャワールーム>
うのはベンチプレスのベンチから立ち上がって花畑弟の前に立った。身長差が30cmあるので見上げる形になるが、少しも気圧されていない。
「次は何」
こいつ、まともじゃねえ。花畑弟は男と女の圧倒的な差を実感させて、うのを精神的に叩きのめそうとしたのだが、まさかこの身体で100kgを挙げるとは。全くの想定外だった。だが、このまま済ませるわけにはいかない。
「なんだなんだ、その生意気な態度は。うの、お前はどうも自分の立場をわきまえてねえな。俺の一言であけぼの高校は失格なんだぞ。チームの甲子園も終わりだ。みんな頑張ったのにな。全部、お前のせいだ」
酷い。山本先生は花畑弟の言葉に思わず耳を塞いだ。うのも俯くしかなかった。
「もうまどろっこしいのはなしだ。今すぐふんどしを取って俺によこせ。そもそもお前がふんどしなんか履いて試合に出たのが、ことの始まりだったんだ。兄貴にも手土産もなしってわけにはいかねえからな」
「……」
「何度も言わせるなよ。うのは俺には逆らえないってことはわかってるだろう。自分でできねなら、ほら、お前ら」
花畑弟に促された3人組は、顔を見合わせながらうのを取り囲んだ。
「君島さん、すいません。でも、ふんどしで済むなら」
「それ以上はさせませんから」
「俺たちはほら、一度、あのピンクのやつで、ね」
何とかこの場を収めようと3人組がうのを説得にかかる。
「ぐちゃぐちゃ何喋ってんだよ。気に入られねえな。ははあ、そういやお前ら、何だか知らねえが妙にあけぼのの肩を持つと思ったら、そうかそうか、うのにたらし込まれてたってわけか」
当たらずとも遠からず。3人組は何とかうのを花畑弟から守りたいと思っていた。たとえふんどしは取られても、それ以上は絶対させまいと。
「それじゃ仕方ねえ。俺が直々にうののふんどしをひっぺがしてやろう。ほら、お前らはどけ」
花畑弟は3人組を蹴散らして、うのの前に立ちはだかる。
「大人しくしてろよ。今、俺が楽にしてやるから」
そう言うとうのの前に屈んで、ベルトに手を掛けた。
「やめろよ」
逃れようと腰を引くうの、花畑弟はそのお尻を掴んで引き寄せる。ものすごい力だ。動けない。
「大人しくしてろと言ったはずだろう。まあ、お陰で可愛いケツを触らせてもらえたがな」
花畑弟の手の平が、うののお尻のカタチと弾力を楽しむように上下に這っている。
見てられない。山本先生は目を背けた。その時。
「おお、なかなか楽しそうなことをやってるじゃないですか」
後ろからポンと肩を叩かれてギョッとした山本先生が振り返ると、そこには松村理事長の笑顔があった。
「ところで、先生、そんな格好で何をしているんですか?」
(続く)
5点差のまま9回を迎えたあけぼの高校ベンチに、
「とどめを刺すぞ」
という佐藤キャプテンの掛け声が響いた。このまま逃げ切るためにも追加点でとどめを刺したい。打順も1番のキイチからだ。
わかたか学園の4番手投手は一年生だった。春の選抜の甲子園出場校のわかたかで一年生でベンチ入りしたのは花畑三男とこの選手だけ。素質の高い選手であることは間違いなかったが、今日のキイチとでは格が違った。初球のカーブを何なく捌くと、三遊間の真ん中を破るレフト前ヒットで出塁する。すかさず2番が送ってランナー2塁でマモルを迎えた。
マモルはわかたか打線の圧力にかなりの疲労を感じていたが、あと1回なら何とかいけるという手応えを感じていた。自分の投球を楽にする為にもキイチをホームに返しておきたい。
打つ。絶対に打つ。そんな気持ちが強過ぎたのかも知れない。疲労によって咄嗟の反応が鈍くなっていたのかも知れない。アウトコースにヤマを張って、踏み込んで打ちに行ったところに襲ってきた頭部へのボールを避けきれなかった。
ヘルメット直撃。何故か音はほとんどしなかった。倒れたマモルはピクリとも動かない。一瞬の静寂の後、グランドは騒然となった。担架で運び出されたマモルは途中で意識を戻したものの、依然朦朧とした様子で、うわごとのように、
「マモル......」
と自分の名前を繰り返していたという話が伝わってきた。
名前じゃねえよ。キイチは、それがマモルがこの試合で、うのから預かったバトンであることを知っていた。心配しないでくださいよ、マモル先輩。そのバトン、俺が預かるから。ゆっくり休んどいてください。2塁ベースにランナーとして戻ったキイチは、空を見上げて雲に誓った。
ざわついた雰囲気に両チーム共に動揺が隠せない中、控え投手が尽きたわかたか学園は、花畑兄をマウンドに立てた。本職ではないながらも、抜群の野球センスを見せた花畑兄がこの回を何とか0点で収拾することに成功し、ゲームは最終回の裏の攻撃を残すのみとなった。
<シャワールーム>
うのはベンチプレスのベンチから立ち上がって花畑弟の前に立った。身長差が30cmあるので見上げる形になるが、少しも気圧されていない。
「次は何」
こいつ、まともじゃねえ。花畑弟は男と女の圧倒的な差を実感させて、うのを精神的に叩きのめそうとしたのだが、まさかこの身体で100kgを挙げるとは。全くの想定外だった。だが、このまま済ませるわけにはいかない。
「なんだなんだ、その生意気な態度は。うの、お前はどうも自分の立場をわきまえてねえな。俺の一言であけぼの高校は失格なんだぞ。チームの甲子園も終わりだ。みんな頑張ったのにな。全部、お前のせいだ」
酷い。山本先生は花畑弟の言葉に思わず耳を塞いだ。うのも俯くしかなかった。
「もうまどろっこしいのはなしだ。今すぐふんどしを取って俺によこせ。そもそもお前がふんどしなんか履いて試合に出たのが、ことの始まりだったんだ。兄貴にも手土産もなしってわけにはいかねえからな」
「……」
「何度も言わせるなよ。うのは俺には逆らえないってことはわかってるだろう。自分でできねなら、ほら、お前ら」
花畑弟に促された3人組は、顔を見合わせながらうのを取り囲んだ。
「君島さん、すいません。でも、ふんどしで済むなら」
「それ以上はさせませんから」
「俺たちはほら、一度、あのピンクのやつで、ね」
何とかこの場を収めようと3人組がうのを説得にかかる。
「ぐちゃぐちゃ何喋ってんだよ。気に入られねえな。ははあ、そういやお前ら、何だか知らねえが妙にあけぼのの肩を持つと思ったら、そうかそうか、うのにたらし込まれてたってわけか」
当たらずとも遠からず。3人組は何とかうのを花畑弟から守りたいと思っていた。たとえふんどしは取られても、それ以上は絶対させまいと。
「それじゃ仕方ねえ。俺が直々にうののふんどしをひっぺがしてやろう。ほら、お前らはどけ」
花畑弟は3人組を蹴散らして、うのの前に立ちはだかる。
「大人しくしてろよ。今、俺が楽にしてやるから」
そう言うとうのの前に屈んで、ベルトに手を掛けた。
「やめろよ」
逃れようと腰を引くうの、花畑弟はそのお尻を掴んで引き寄せる。ものすごい力だ。動けない。
「大人しくしてろと言ったはずだろう。まあ、お陰で可愛いケツを触らせてもらえたがな」
花畑弟の手の平が、うののお尻のカタチと弾力を楽しむように上下に這っている。
見てられない。山本先生は目を背けた。その時。
「おお、なかなか楽しそうなことをやってるじゃないですか」
後ろからポンと肩を叩かれてギョッとした山本先生が振り返ると、そこには松村理事長の笑顔があった。
「ところで、先生、そんな格好で何をしているんですか?」
(続く)
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