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第4章
6回裏①/ふたつの作戦
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<6回裏>
ダメ押しと言えるドラマチックなホームランを放ったうのだったが、右腕の状態の悪化に加えて、左足首の捻挫も判明した。無理をして何でもないような振りでダイヤモンドを一周して来たのもこたえたようだ。
君島監督は、9点差もわかたか学園相手では決してセーフティとは思っていなかったが、もうこれ以上うのに無理はさせられないと考えた。
「よし。ケンタ、野田のあとのサードに入れ。うのはさがって、救護室だ」
監督の指示の指示が飛んだ。
「監督、わたし、まだいけます」
それでもまだ続投を志願するうのに、監督は諭すように語った。父であり、うのどれほど厳しい訓練を積んで今日を迎えているかを知っている師として、そしてあけぼの高校の監督して。
「うの。もうこいつらを信頼してやってもいいんじゃないか?今日の試合で、お前も改めて感じているだろう。野球は1人でやるものじゃないってことを。それにここが最後じゃない。うのには、必ず甲子園マウンドに立ってもらう。このメンバーで甲子園に行こう」
マモルがうなずいて、
「キミシマ、絶対に甲子園に連れて行ってやるから、お前は少し休んどけよ」
その言葉に他のナインも大きくうなずいた。みんなの顔をこんな風にちゃんと見たのは初めてかも知れない。
「......うん、分かったよ。頼んだぞみんな」
うのは片足で立ち上がってマモルの肩を叩いた。
「頼んだよ、野田」
「おお、任せとけ」
マモルがその手を握って応える。ぐっと拳を握った佐藤キャプテンがベンチ前に飛び出した。
「よっしゃー、みんないくぞー」
こうしてあけぼの高校は、この大会で初めて、うのを欠いたメンバーで戦うことになった。しかしもう去年までの初戦敗退のチームではない。
6回裏が始まる。チームの勢いは最高潮だ。うのはベンチから出て行く仲間たちを見送る。その背中は随分頼もしくなったように見えた。しかし、相手チームの3人組に女子であることを知られてしまった事実は変わらない。
「早く救護室に行かなくちゃ」
もはや甲子園はうのだけの夢ではない。あけぼの高校野球部みんなの夢なんだ。何としても秘密を暴露させてはならない。わたしの身を挺してでも。
<わかたか学園ベンチ裏>
「それで、収穫なしと言うわけか」
花畑兄は、3人組の報告にイラついていた。
「い、いえ、全くなしと言うわけでは......」
花畑兄の剣幕を恐れて何か言い出しそうになっている1人を抑えて、
「おい、おい。いや、前回のご報告以上の話は残念ながら」
もう1人が話を戻す。
「そうです、先輩。ひとつありました。あけぼの高校の救護室の先生がめちゃ可愛いんですよ。あれは一度ご覧になって損はないかと」
更にもう1人が話を逸らしに掛かる。いいコンビネーションだ。
「俺は、おばさんに興味はない」
いかん、趣味嗜好が違ったてた。だがそこに、花畑弟が話に加わったきた。
「誰が可愛いって?」
「あ、モモ先輩(花畑弟の名前はモモジロウ)ちわーす」
確かにこっちはそっちが好きだった。確か五十代だって美魔女なら何の問題ないと豪語していた。
「俺はもう暇だからよお。こんなクソつまらねえ試合より何か面白えことがあんなら、俺も混ぜてくれよ」
「おおそうだったな。よし、こいつら役立たずだから、ここからはモモに任せよう」
この兄弟、ここで決勝戦やってること分かってんのかな?あけぼの高校とのあまりの違いに、3人組は驚きを通り越して呆れ返るばかりだ。
花畑兄は弟に、うのの尻が生尻だったこと、更にさらしを巻いていることから『ふんどし』を着用している疑惑が生まれ、これを確認させるために3人組を派遣したことなど、これまでの経緯を話した。
「なるほどな。それでその救護室の先生が美人さん、ということだな」
「まあ、そういうことだ」
「そんなの、ちょいとズボンを脱がせれば、簡単にわかる話だろうが」
モモ先輩の発言に、3人組はこれはヤバいぞと、そそくさとその場を離れ、密談を始めた。
「ダメだ、ダメだ、君島選手、今ノーパンだぜ」
1人がポケットからピンクのTバックを取り出す。
「せめてこれを履かせないと」
Tバックを広げて尻が当たる部分の面積を確認する。改めて紐としか表現出来ない細さだった。ここに君島選手の、あんなところやこんなところが、ついさっきまで当たっていたのだと思うと……3人はむしゃぶりつきたい衝動を覚えたが、それは畏れ多いとグッと我慢し、匂いを嗅ぐに留めた。
「いや、そうじゃなくてさ。今更これを履かせてもダメだ。モモ先輩は甘くない、これじゃすぐに女子だってバレちゃうよ」
「だろうな、となると、やっぱり」
「ああ」
「それしかないだろうな」
「そうだ。君島選手にふんどし履かせるしかない!」
かくして、花畑弟の君島うののズボンをひっぺがしてふんどしを確認するぞ作戦と、3人組の君島うのにふんどしを履かせよう大作戦が、同時にスタートすることになった。
さて、どちらが先にゴールするだろうか?うのの運命やいかに。
(続く)
ダメ押しと言えるドラマチックなホームランを放ったうのだったが、右腕の状態の悪化に加えて、左足首の捻挫も判明した。無理をして何でもないような振りでダイヤモンドを一周して来たのもこたえたようだ。
君島監督は、9点差もわかたか学園相手では決してセーフティとは思っていなかったが、もうこれ以上うのに無理はさせられないと考えた。
「よし。ケンタ、野田のあとのサードに入れ。うのはさがって、救護室だ」
監督の指示の指示が飛んだ。
「監督、わたし、まだいけます」
それでもまだ続投を志願するうのに、監督は諭すように語った。父であり、うのどれほど厳しい訓練を積んで今日を迎えているかを知っている師として、そしてあけぼの高校の監督して。
「うの。もうこいつらを信頼してやってもいいんじゃないか?今日の試合で、お前も改めて感じているだろう。野球は1人でやるものじゃないってことを。それにここが最後じゃない。うのには、必ず甲子園マウンドに立ってもらう。このメンバーで甲子園に行こう」
マモルがうなずいて、
「キミシマ、絶対に甲子園に連れて行ってやるから、お前は少し休んどけよ」
その言葉に他のナインも大きくうなずいた。みんなの顔をこんな風にちゃんと見たのは初めてかも知れない。
「......うん、分かったよ。頼んだぞみんな」
うのは片足で立ち上がってマモルの肩を叩いた。
「頼んだよ、野田」
「おお、任せとけ」
マモルがその手を握って応える。ぐっと拳を握った佐藤キャプテンがベンチ前に飛び出した。
「よっしゃー、みんないくぞー」
こうしてあけぼの高校は、この大会で初めて、うのを欠いたメンバーで戦うことになった。しかしもう去年までの初戦敗退のチームではない。
6回裏が始まる。チームの勢いは最高潮だ。うのはベンチから出て行く仲間たちを見送る。その背中は随分頼もしくなったように見えた。しかし、相手チームの3人組に女子であることを知られてしまった事実は変わらない。
「早く救護室に行かなくちゃ」
もはや甲子園はうのだけの夢ではない。あけぼの高校野球部みんなの夢なんだ。何としても秘密を暴露させてはならない。わたしの身を挺してでも。
<わかたか学園ベンチ裏>
「それで、収穫なしと言うわけか」
花畑兄は、3人組の報告にイラついていた。
「い、いえ、全くなしと言うわけでは......」
花畑兄の剣幕を恐れて何か言い出しそうになっている1人を抑えて、
「おい、おい。いや、前回のご報告以上の話は残念ながら」
もう1人が話を戻す。
「そうです、先輩。ひとつありました。あけぼの高校の救護室の先生がめちゃ可愛いんですよ。あれは一度ご覧になって損はないかと」
更にもう1人が話を逸らしに掛かる。いいコンビネーションだ。
「俺は、おばさんに興味はない」
いかん、趣味嗜好が違ったてた。だがそこに、花畑弟が話に加わったきた。
「誰が可愛いって?」
「あ、モモ先輩(花畑弟の名前はモモジロウ)ちわーす」
確かにこっちはそっちが好きだった。確か五十代だって美魔女なら何の問題ないと豪語していた。
「俺はもう暇だからよお。こんなクソつまらねえ試合より何か面白えことがあんなら、俺も混ぜてくれよ」
「おおそうだったな。よし、こいつら役立たずだから、ここからはモモに任せよう」
この兄弟、ここで決勝戦やってること分かってんのかな?あけぼの高校とのあまりの違いに、3人組は驚きを通り越して呆れ返るばかりだ。
花畑兄は弟に、うのの尻が生尻だったこと、更にさらしを巻いていることから『ふんどし』を着用している疑惑が生まれ、これを確認させるために3人組を派遣したことなど、これまでの経緯を話した。
「なるほどな。それでその救護室の先生が美人さん、ということだな」
「まあ、そういうことだ」
「そんなの、ちょいとズボンを脱がせれば、簡単にわかる話だろうが」
モモ先輩の発言に、3人組はこれはヤバいぞと、そそくさとその場を離れ、密談を始めた。
「ダメだ、ダメだ、君島選手、今ノーパンだぜ」
1人がポケットからピンクのTバックを取り出す。
「せめてこれを履かせないと」
Tバックを広げて尻が当たる部分の面積を確認する。改めて紐としか表現出来ない細さだった。ここに君島選手の、あんなところやこんなところが、ついさっきまで当たっていたのだと思うと……3人はむしゃぶりつきたい衝動を覚えたが、それは畏れ多いとグッと我慢し、匂いを嗅ぐに留めた。
「いや、そうじゃなくてさ。今更これを履かせてもダメだ。モモ先輩は甘くない、これじゃすぐに女子だってバレちゃうよ」
「だろうな、となると、やっぱり」
「ああ」
「それしかないだろうな」
「そうだ。君島選手にふんどし履かせるしかない!」
かくして、花畑弟の君島うののズボンをひっぺがしてふんどしを確認するぞ作戦と、3人組の君島うのにふんどしを履かせよう大作戦が、同時にスタートすることになった。
さて、どちらが先にゴールするだろうか?うのの運命やいかに。
(続く)
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