上 下
18 / 34
第2章

5回表②/ピンクの真相

しおりを挟む
<5回表の続き>

 1-0からの2球目、3球目を続けてアウトコース低めの速球を空振りしたうのは、1-2と追い込まれた。速い。150km位なら打てると思っていたが、花畑弟の190センチの身長から繰り出される速球の角度は想定以上だった。スピードに対応する為にバットを寝せて打席に入り直す。とにかく何とか当てようという打法に、わかたか学園の守備陣は内外野共に一斉に前進守備を敷いた。

 うのの狙いはライン際、ベースギリギリを抜くか、一塁手か三塁手の頭上を越える打球だ。このシフトで最もヒットになる確率が高い場所にターゲットを絞っていく。三塁手の花畑兄の守備範囲を考慮すれば、狙いはライト線一本だ。インコースに来い。2球続けてアウトコースの速球を見送る。カウントは2-1、バッティングチャンスだ。散らしているつもりらしいこの捕手のバランス重視の配球なら、必ず次はインに来るとヤマを張った。4球目、やはりインコースだ。ブレーキの利いたカーブに身体にためを作って食らいつく、これだ、と軽くバットを合わせると、打球は一塁手の頭上に上がった。思い描いた狙い通りの場所に飛んでいく。ツーアウトでランナーもスタートを切っている、落ちればビッグチャンスの到来だ。落ちろぉ。

 二塁手が回り込んでこの打球に飛び込んだが、わずかに届かない。打球は点々とファールグランドを転がった。セーフティで生きたエンゾウが走る。三塁コーチャーが、ここは一か八かだと大きく手を回した。躊躇なくホームを目指すエンゾウ、立ち上がった二塁手が漸くボールを拾った時には、エンゾウは三本間の中間に達していた。バックホーム。真っ直ぐに伸びてくる良いボールがワンバウンドでキャッチーミットに収まった時には、エンゾウはホームを駆け抜けていた。

「よっしゃー、2点目だ!」

 エンゾウが足で稼いだ1点にベンチが盛り上がる。セカンドベース上で打点を稼いだうのも左手を挙げて歓声に応えた。2-0、あけぼの高校が待望の追加点を上げてリードを広げた。

<救護室準備室>

 白衣を脱いだ山本先生は、次にどんな指令を受けるのかを想像しながら、うのちゃんでさえ4人の男の前で下着を脱ぐ覚悟したのよ、私が怖がってどうするのと気持ちを奮い立たせた。

「先生、先生と付き合ってたからぼくだけ君島選手のストリップを見てないんですよ。ね、分かりますよね。ぼくは代わりに先生のストリップが見たいです」

「ストリップ?ここで脱ぐの?」

「いいですよ、外で脱いでくれるならそれでも」

 子供のくせにと思いながらも、返しが鋭くて、とてもいなせそうにない。

「分かったわよ、ここで脱ぐわ」

 恥ずかしがればそれだけこの子達の興奮を助長してしまうと考え、出来るだけ淡々と脱ごうと決めた。息を整えてシャツを脱ごうとすると「ちょっと待った」の声が掛かる。

「何だよ、いいところで邪魔するなよ」

「いや、あくまでもお前が君島選手のストリップを見てないから、それを再現してもらうって話だったろう。シチュエーション無視はルール違反だぞ」

「何のルールだよ。そんなのどうでもいいだろう。それより先生の裸を拝ませてもらおうぜ」

「ダメだって。先生、うーん、何か先生っていうと、どーも堅っ苦しいなあ。そうだ、先生の下の名前は?」

「みすず、だけど」

「おお、みすず先生ですね。いやそうじゃなくて、これからみすずちゃんと呼ばせてもらいましょう。いいですか、みすずちゃん。君島選手はね、ユニフォームの裾をパンツに入れようとして、ベルトとジッパーを緩めてたら、パンツをストン落としてね、それを慌てて屈んで穿いた時に我々にピンクのお尻を晒して見せてくれたんすよ」

 ピンクのお尻?何それ。うのちゃんの下着はいつもボクサーパンツだったはずだけど。

「ちょっといい。君島君のピンクのお尻って何?」

「先生、しらばっくれても無駄っすよ。我々二人の目には、あのお尻に食い込んだ『ピンクの』が刻まれているんです。あの可愛い顔でさらしにふんどしなんて、お兄ちゃん先輩に言わせれば『』っす」

 ここまでの話を聞いて、山本先生は概ねの事態を把握した。なるほど。やっぱり高校生ね、っていうか、マジ愛すべきバカ野郎達かも知れないわ。

「そう、そこまで知られてしまっては、もう私がここで秘密を守ろうとしても意味がないのね。仕方ないわ、先輩に報告するならしなさい」

 山本先生はそう言うと白衣を拾って準備室を出ようとした。

「本当にいいんですね。君島投手がふんどし野郎だって知れ渡っても」

「残念だけど、仕方がないわ」

「ええええっ、何それ。何で急に、そんなあ」

「先生、いや、みすずちゃん。そんな殺生な。ここまで来て何にもなしは無いですよね。もう俺たちは、みすずちゃんの裸が見たいモード全開なんですから。な、みんなそうだろう」

「おお!」

「そうだそうだ!」

「そう、残念ね。あきらめなさい。早くベンチに戻って先輩に報告した方がいいんじゃない」

 そう言って準備室のドアノブを掴んだ山本先生の手を3人組の一人が掴んだ。

「もう、我慢出来ねえ」

 という言葉が宙を舞った。

「うわーーーーー」

 ドスンとお尻から落ちた3人組の一人が床でのた打ち回る。

「さ、ケガしない内に帰りなさい」

 山本先生の圧倒的なオーラに、3人組は慌てて退散して行った。そう。何を隠そう山本先生は合気道の有段者。怒らせたら怖いのである。

(続く)
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...