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第2章
5回表②/ピンクの真相
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<5回表の続き>
1-0からの2球目、3球目を続けてアウトコース低めの速球を空振りしたうのは、1-2と追い込まれた。速い。150km位なら打てると思っていたが、花畑弟の190センチの身長から繰り出される速球の角度は想定以上だった。スピードに対応する為にバットを寝せて打席に入り直す。とにかく何とか当てようという打法に、わかたか学園の守備陣は内外野共に一斉に前進守備を敷いた。
うのの狙いはライン際、ベースギリギリを抜くか、一塁手か三塁手の頭上を越える打球だ。このシフトで最もヒットになる確率が高い場所にターゲットを絞っていく。三塁手の花畑兄の守備範囲を考慮すれば、狙いはライト線一本だ。インコースに来い。2球続けてアウトコースの速球を見送る。カウントは2-1、バッティングチャンスだ。散らしているつもりらしいこの捕手のバランス重視の配球なら、必ず次はインに来るとヤマを張った。4球目、やはりインコースだ。ブレーキの利いたカーブに身体にためを作って食らいつく、これだ、と軽くバットを合わせると、打球は一塁手の頭上に上がった。思い描いた狙い通りの場所に飛んでいく。ツーアウトでランナーもスタートを切っている、落ちればビッグチャンスの到来だ。落ちろぉ。
二塁手が回り込んでこの打球に飛び込んだが、わずかに届かない。打球は点々とファールグランドを転がった。セーフティで生きたエンゾウが走る。三塁コーチャーが、ここは一か八かだと大きく手を回した。躊躇なくホームを目指すエンゾウ、立ち上がった二塁手が漸くボールを拾った時には、エンゾウは三本間の中間に達していた。バックホーム。真っ直ぐに伸びてくる良いボールがワンバウンドでキャッチーミットに収まった時には、エンゾウはホームを駆け抜けていた。
「よっしゃー、2点目だ!」
エンゾウが足で稼いだ1点にベンチが盛り上がる。セカンドベース上で打点を稼いだうのも左手を挙げて歓声に応えた。2-0、あけぼの高校が待望の追加点を上げてリードを広げた。
<救護室準備室>
白衣を脱いだ山本先生は、次にどんな指令を受けるのかを想像しながら、うのちゃんでさえ4人の男の前で下着を脱ぐ覚悟したのよ、私が怖がってどうするのと気持ちを奮い立たせた。
「先生、先生と付き合ってたからぼくだけ君島選手のストリップを見てないんですよ。ね、分かりますよね。ぼくは代わりに先生のストリップが見たいです」
「ストリップ?ここで脱ぐの?」
「いいですよ、外で脱いでくれるならそれでも」
子供のくせにと思いながらも、返しが鋭くて、とてもいなせそうにない。
「分かったわよ、ここで脱ぐわ」
恥ずかしがればそれだけこの子達の興奮を助長してしまうと考え、出来るだけ淡々と脱ごうと決めた。息を整えてシャツを脱ごうとすると「ちょっと待った」の声が掛かる。
「何だよ、いいところで邪魔するなよ」
「いや、あくまでもお前が君島選手のストリップを見てないから、それを再現してもらうって話だったろう。シチュエーション無視はルール違反だぞ」
「何のルールだよ。そんなのどうでもいいだろう。それより先生の裸を拝ませてもらおうぜ」
「ダメだって。先生、うーん、何か先生っていうと、どーも堅っ苦しいなあ。そうだ、先生の下の名前は?」
「みすず、だけど」
「おお、みすず先生ですね。いやそうじゃなくて、これからみすずちゃんと呼ばせてもらいましょう。いいですか、みすずちゃん。君島選手はね、ユニフォームの裾をパンツに入れようとして、ベルトとジッパーを緩めてたら、パンツをストン落としてね、それを慌てて屈んで穿いた時に我々にピンクのお尻を晒して見せてくれたんすよ」
ピンクのお尻?何それ。うのちゃんの下着はいつもボクサーパンツだったはずだけど。
「ちょっといい。君島君のピンクのお尻って何?」
「先生、しらばっくれても無駄っすよ。我々二人の目には、あのお尻に食い込んだ『ピンクのふんどし』が刻まれているんです。あの可愛い顔でさらしにふんどしなんて、お兄ちゃん先輩に言わせれば『とんたお祭り野郎』っす」
ここまでの話を聞いて、山本先生は概ねの事態を把握した。なるほど。やっぱり高校生ね、っていうか、マジ愛すべきバカ野郎達かも知れないわ。
「そう、そこまで知られてしまっては、もう私がここで秘密を守ろうとしても意味がないのね。仕方ないわ、先輩に報告するならしなさい」
山本先生はそう言うと白衣を拾って準備室を出ようとした。
「本当にいいんですね。君島投手がふんどし野郎だって知れ渡っても」
「残念だけど、仕方がないわ」
「ええええっ、何それ。何で急に、そんなあ」
「先生、いや、みすずちゃん。そんな殺生な。ここまで来て何にもなしは無いですよね。もう俺たちは、みすずちゃんの裸が見たいモード全開なんですから。な、みんなそうだろう」
「おお!」
「そうだそうだ!」
「そう、残念ね。あきらめなさい。早くベンチに戻って先輩に報告した方がいいんじゃない」
そう言って準備室のドアノブを掴んだ山本先生の手を3人組の一人が掴んだ。
「もう、我慢出来ねえ」
という言葉が宙を舞った。
「うわーーーーー」
ドスンとお尻から落ちた3人組の一人が床でのた打ち回る。
「さ、ケガしない内に帰りなさい」
山本先生の圧倒的なオーラに、3人組は慌てて退散して行った。そう。何を隠そう山本先生は合気道の有段者。怒らせたら怖いのである。
(続く)
1-0からの2球目、3球目を続けてアウトコース低めの速球を空振りしたうのは、1-2と追い込まれた。速い。150km位なら打てると思っていたが、花畑弟の190センチの身長から繰り出される速球の角度は想定以上だった。スピードに対応する為にバットを寝せて打席に入り直す。とにかく何とか当てようという打法に、わかたか学園の守備陣は内外野共に一斉に前進守備を敷いた。
うのの狙いはライン際、ベースギリギリを抜くか、一塁手か三塁手の頭上を越える打球だ。このシフトで最もヒットになる確率が高い場所にターゲットを絞っていく。三塁手の花畑兄の守備範囲を考慮すれば、狙いはライト線一本だ。インコースに来い。2球続けてアウトコースの速球を見送る。カウントは2-1、バッティングチャンスだ。散らしているつもりらしいこの捕手のバランス重視の配球なら、必ず次はインに来るとヤマを張った。4球目、やはりインコースだ。ブレーキの利いたカーブに身体にためを作って食らいつく、これだ、と軽くバットを合わせると、打球は一塁手の頭上に上がった。思い描いた狙い通りの場所に飛んでいく。ツーアウトでランナーもスタートを切っている、落ちればビッグチャンスの到来だ。落ちろぉ。
二塁手が回り込んでこの打球に飛び込んだが、わずかに届かない。打球は点々とファールグランドを転がった。セーフティで生きたエンゾウが走る。三塁コーチャーが、ここは一か八かだと大きく手を回した。躊躇なくホームを目指すエンゾウ、立ち上がった二塁手が漸くボールを拾った時には、エンゾウは三本間の中間に達していた。バックホーム。真っ直ぐに伸びてくる良いボールがワンバウンドでキャッチーミットに収まった時には、エンゾウはホームを駆け抜けていた。
「よっしゃー、2点目だ!」
エンゾウが足で稼いだ1点にベンチが盛り上がる。セカンドベース上で打点を稼いだうのも左手を挙げて歓声に応えた。2-0、あけぼの高校が待望の追加点を上げてリードを広げた。
<救護室準備室>
白衣を脱いだ山本先生は、次にどんな指令を受けるのかを想像しながら、うのちゃんでさえ4人の男の前で下着を脱ぐ覚悟したのよ、私が怖がってどうするのと気持ちを奮い立たせた。
「先生、先生と付き合ってたからぼくだけ君島選手のストリップを見てないんですよ。ね、分かりますよね。ぼくは代わりに先生のストリップが見たいです」
「ストリップ?ここで脱ぐの?」
「いいですよ、外で脱いでくれるならそれでも」
子供のくせにと思いながらも、返しが鋭くて、とてもいなせそうにない。
「分かったわよ、ここで脱ぐわ」
恥ずかしがればそれだけこの子達の興奮を助長してしまうと考え、出来るだけ淡々と脱ごうと決めた。息を整えてシャツを脱ごうとすると「ちょっと待った」の声が掛かる。
「何だよ、いいところで邪魔するなよ」
「いや、あくまでもお前が君島選手のストリップを見てないから、それを再現してもらうって話だったろう。シチュエーション無視はルール違反だぞ」
「何のルールだよ。そんなのどうでもいいだろう。それより先生の裸を拝ませてもらおうぜ」
「ダメだって。先生、うーん、何か先生っていうと、どーも堅っ苦しいなあ。そうだ、先生の下の名前は?」
「みすず、だけど」
「おお、みすず先生ですね。いやそうじゃなくて、これからみすずちゃんと呼ばせてもらいましょう。いいですか、みすずちゃん。君島選手はね、ユニフォームの裾をパンツに入れようとして、ベルトとジッパーを緩めてたら、パンツをストン落としてね、それを慌てて屈んで穿いた時に我々にピンクのお尻を晒して見せてくれたんすよ」
ピンクのお尻?何それ。うのちゃんの下着はいつもボクサーパンツだったはずだけど。
「ちょっといい。君島君のピンクのお尻って何?」
「先生、しらばっくれても無駄っすよ。我々二人の目には、あのお尻に食い込んだ『ピンクのふんどし』が刻まれているんです。あの可愛い顔でさらしにふんどしなんて、お兄ちゃん先輩に言わせれば『とんたお祭り野郎』っす」
ここまでの話を聞いて、山本先生は概ねの事態を把握した。なるほど。やっぱり高校生ね、っていうか、マジ愛すべきバカ野郎達かも知れないわ。
「そう、そこまで知られてしまっては、もう私がここで秘密を守ろうとしても意味がないのね。仕方ないわ、先輩に報告するならしなさい」
山本先生はそう言うと白衣を拾って準備室を出ようとした。
「本当にいいんですね。君島投手がふんどし野郎だって知れ渡っても」
「残念だけど、仕方がないわ」
「ええええっ、何それ。何で急に、そんなあ」
「先生、いや、みすずちゃん。そんな殺生な。ここまで来て何にもなしは無いですよね。もう俺たちは、みすずちゃんの裸が見たいモード全開なんですから。な、みんなそうだろう」
「おお!」
「そうだそうだ!」
「そう、残念ね。あきらめなさい。早くベンチに戻って先輩に報告した方がいいんじゃない」
そう言って準備室のドアノブを掴んだ山本先生の手を3人組の一人が掴んだ。
「もう、我慢出来ねえ」
という言葉が宙を舞った。
「うわーーーーー」
ドスンとお尻から落ちた3人組の一人が床でのた打ち回る。
「さ、ケガしない内に帰りなさい」
山本先生の圧倒的なオーラに、3人組は慌てて退散して行った。そう。何を隠そう山本先生は合気道の有段者。怒らせたら怖いのである。
(続く)
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