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第1章
理事長の夢
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「君たち。君たちはさっきのことをちゃんと反省していますか?」
松村理事長がマモルたちに尋ねる。
「は、はい」
マモルが答える。
「はい、野田君。では何を反省しているのか言ってください」
「あ、あの、キミシマの服を……。でも理事長。キミシマは、女のくせに男だって、俺たちを騙してうちの高校で野球やってたんですよ。そんなの許せないっすよ。それにあいつパンツ自分で脱いだんですよ。僕たちが脱がしたわけじゃありません」
「野田君、君はさっき反省したと言ったが、それは嘘ですか。今の発言からは反省の色が全く感じられないようだが」
「はい。す、すいません」
「まあ良いでしょう。私は君たちがどうして怒っているのかも、君島君に対して君たちがどんなことをしたのかも、みんな知っています」
ええっ、と驚いた顔のマモルたち4人。理事長は続けてこう話す。
「そもそも君島君が女子だということは、私は先刻承知です」
ええっ、と更に驚いた顔のマモルたち4人。理事長は続けてこう話す。
「そもそも私は正直、甲子園に行く行かないはどうでもよかったのです。うの君の入学を認めたのは、ただ単にうの君が女子野球をするのを見守っていたかったのです」
ええっ、何それという顔のマモルたち4人。理事長は続けた。
「しかしですね、私の思惑は大きく外れました。うの君は髪の毛は坊主みたいにしてしまうし、男装して普通にチームのユニフォームを来て、ただクソ真面目に男子野球を黙々とやるだけです。君たちも知っての通り、胸はさらしで、パンツも毎日男ものです」
ええっ、毎日って何で知ってんの?という顔のマモルたち4人。理事長は更に続ける。
「最初は正直ガッカリしていたんですよ。期待していたようなワクワク感なんて何にもなくて、ひたすら泥臭い野球漬けですからね。しかしね、私はこの3ヶ月間のうの君を見てきて、ちょっと考えが変わったんです。君たちも見たでしょう?うの君の身体のおびただしい傷跡を」
エンゾウが「は、はい」と答える。
「あの傷の意味、君たちはわかりますか?」
理事長は、この3ヶ月間、うのと監督が夜のグランドや体育館で繰り広げてきた厳しいトレーニングの様子を、まるで見て来たかのようにマモルたちに話した。ただでさえ厳しい野球部の練習を終えた後のことだ。それは雨の日も風の日も、一日の休みもなく、恐らく試合を明日に控えた今日も予定されているに違いない。
「決勝進出の快進撃のつまらない裏話です。そんなことをしたからと言って、誰にでも出来る快挙ではありません。類い稀な才能のあるうの君だから出来たことなのでしょう。しかしね、恐らくここまでやらなければ、うの君であっても絶対に出来なかったことなんだろうと思います」
女に負けたことを悔しがったマモルは、うのが女だから負けたのでは無かったということに気づいた。
「正直なところ、今日君たちが起こしたような事件は、うの君の転校を許した時点であり得ることと想像していました。まあ、健全な男子であれば、あんなこともしたくなる気持ちはわかりますが、いかにも陰険でしたな。あれでは女子にモテないのは当然です」
このままだと話が長くなりそうだと思ったキイチが理事長の話の切れ目を狙って質問を投げかけた。
「わかりました、理事長。では僕たちがモテるためにどうすれば良いでしょうか」
理事長は大きく頷いてこう答えた。
「事情はどうあれ、君たちは県大会の決勝まで来ました。だが決してうの君一人で勝ってきたわけではない。君たちの力があってのことです。高校球児が一番モテる舞台はやはり甲子園でしょう。その為には明日の試合に勝つこと。それが夢へのパスポートです」
「しかし、理事長、明日の相手は春の甲子園準優勝のわかたか学園ですよ」
弱気のマモルに向かって理事長が
「私は今、うの君が甲子園で投げる姿を猛烈に見たいと思っています。君たちはどうですか。甲子園に行きたくないですか。さっきのうの君も勝つ気満々だったじゃないですか。でなければパンツまで脱ぎませんよ。私はやってくれると信じています。それは君たちの活躍を含めてのことです。あけぼの高校の甲子園での勇姿をみせてくれませんか」
理事長の依頼に4人は大きくうなずいた。この後、今日のことを不問にする代わりに、うのの秘密を守ることを誓わされる。理事長の秘密についてはどうすればいいんだろうかと4人はそれぞれ思ったが、それを言い出す勇気までは出なかった。
(続く)
松村理事長がマモルたちに尋ねる。
「は、はい」
マモルが答える。
「はい、野田君。では何を反省しているのか言ってください」
「あ、あの、キミシマの服を……。でも理事長。キミシマは、女のくせに男だって、俺たちを騙してうちの高校で野球やってたんですよ。そんなの許せないっすよ。それにあいつパンツ自分で脱いだんですよ。僕たちが脱がしたわけじゃありません」
「野田君、君はさっき反省したと言ったが、それは嘘ですか。今の発言からは反省の色が全く感じられないようだが」
「はい。す、すいません」
「まあ良いでしょう。私は君たちがどうして怒っているのかも、君島君に対して君たちがどんなことをしたのかも、みんな知っています」
ええっ、と驚いた顔のマモルたち4人。理事長は続けてこう話す。
「そもそも君島君が女子だということは、私は先刻承知です」
ええっ、と更に驚いた顔のマモルたち4人。理事長は続けてこう話す。
「そもそも私は正直、甲子園に行く行かないはどうでもよかったのです。うの君の入学を認めたのは、ただ単にうの君が女子野球をするのを見守っていたかったのです」
ええっ、何それという顔のマモルたち4人。理事長は続けた。
「しかしですね、私の思惑は大きく外れました。うの君は髪の毛は坊主みたいにしてしまうし、男装して普通にチームのユニフォームを来て、ただクソ真面目に男子野球を黙々とやるだけです。君たちも知っての通り、胸はさらしで、パンツも毎日男ものです」
ええっ、毎日って何で知ってんの?という顔のマモルたち4人。理事長は更に続ける。
「最初は正直ガッカリしていたんですよ。期待していたようなワクワク感なんて何にもなくて、ひたすら泥臭い野球漬けですからね。しかしね、私はこの3ヶ月間のうの君を見てきて、ちょっと考えが変わったんです。君たちも見たでしょう?うの君の身体のおびただしい傷跡を」
エンゾウが「は、はい」と答える。
「あの傷の意味、君たちはわかりますか?」
理事長は、この3ヶ月間、うのと監督が夜のグランドや体育館で繰り広げてきた厳しいトレーニングの様子を、まるで見て来たかのようにマモルたちに話した。ただでさえ厳しい野球部の練習を終えた後のことだ。それは雨の日も風の日も、一日の休みもなく、恐らく試合を明日に控えた今日も予定されているに違いない。
「決勝進出の快進撃のつまらない裏話です。そんなことをしたからと言って、誰にでも出来る快挙ではありません。類い稀な才能のあるうの君だから出来たことなのでしょう。しかしね、恐らくここまでやらなければ、うの君であっても絶対に出来なかったことなんだろうと思います」
女に負けたことを悔しがったマモルは、うのが女だから負けたのでは無かったということに気づいた。
「正直なところ、今日君たちが起こしたような事件は、うの君の転校を許した時点であり得ることと想像していました。まあ、健全な男子であれば、あんなこともしたくなる気持ちはわかりますが、いかにも陰険でしたな。あれでは女子にモテないのは当然です」
このままだと話が長くなりそうだと思ったキイチが理事長の話の切れ目を狙って質問を投げかけた。
「わかりました、理事長。では僕たちがモテるためにどうすれば良いでしょうか」
理事長は大きく頷いてこう答えた。
「事情はどうあれ、君たちは県大会の決勝まで来ました。だが決してうの君一人で勝ってきたわけではない。君たちの力があってのことです。高校球児が一番モテる舞台はやはり甲子園でしょう。その為には明日の試合に勝つこと。それが夢へのパスポートです」
「しかし、理事長、明日の相手は春の甲子園準優勝のわかたか学園ですよ」
弱気のマモルに向かって理事長が
「私は今、うの君が甲子園で投げる姿を猛烈に見たいと思っています。君たちはどうですか。甲子園に行きたくないですか。さっきのうの君も勝つ気満々だったじゃないですか。でなければパンツまで脱ぎませんよ。私はやってくれると信じています。それは君たちの活躍を含めてのことです。あけぼの高校の甲子園での勇姿をみせてくれませんか」
理事長の依頼に4人は大きくうなずいた。この後、今日のことを不問にする代わりに、うのの秘密を守ることを誓わされる。理事長の秘密についてはどうすればいいんだろうかと4人はそれぞれ思ったが、それを言い出す勇気までは出なかった。
(続く)
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