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第1章

暴かれる秘密

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 偶然手に入れたうのの転校前の写真によって、うのが女かも知れないと知ったマモルたち4人。

「しかし、だとしたらですよ。何だってこんな可愛い女子が、野球なんてやってんすかね」

 とケンタ。

「そんなこと、どうでもいいだろう」

 マモルがケンタの疑問を一蹴しようとするのを、キイチが制した。

「いや、それは大事なことかも知れませんよ。少し調べてみる必要があるかも知れません」

「そう言えば……」

 エンゾウが佐藤キャプテンから聞いたという話を披露した。君島監督が今年の成績次第では解任されるかも知れないという噂がかなり信憑性が高い話だということ、そして君島うのは実は監督の子供で、それを何とかするために転校して来たのではないかという話だった。

「なるほどな、それで話が繋がったな。その子供が実は女だったってことか」

「だから2年で転校なんですね」

 マモルとキイチはうなずきあう。

「高校野球じゃ女はご法度だ。バレちまえばキミシマは試合には出られねえ」

 マモルはほくそ笑んで、キイチを見る。

「キミシマが監督のために野球をやってるなら、ここで女だってバラされるわけには行かねえなよな」

「つまり。キミシマうのをいいなりにすることが出来るってわけですね」

「そういうことさ」

 マモルはほくそ笑んだ。


 4人はうのを呼び出す計画を立てると、善は急げとばかりに早速マモルがうのの携帯に電話を掛けた。

「(ガチャ)はい」

「キミシマか。お前にちょっと話があるんだ。明日の放課後体育倉庫に来いよ」

「あああっ、何の用だよ。明後日決勝だろう。そんな暇ねえよ」

「いやいや、お前にとっちゃ試合より大事なことだと思うがな」

「な、何の話だよ」

「おお、その慌てっぷり。何か思い当たることがあるみてえだな。そうだよ。お前の大事な秘密の話だ。聞いておいた方がいいんじゃねえか?」

「秘密って......。何のことだよ。いい加減なこと言ってんじゃねえぞ」

「まあ、そう興奮するなよ。明日来れば教えてやるよ。ああ、いいんだ、いいんだ。別に来なくたってな。だが来ない時はお前の秘密をネットにバラ撒くだけだ。そんなことしたら、明後日の大事な決勝がなくなっちまうかも知れねえな。まあ、一晩良く考えてみるんだな」

 マモルはそう言うと、一方的に電話を切った。

「来ますかね?」

 キイチの問いに、マモルは自信を持って頷いた。 

「来るさ。あいつが決勝で投げたいと思ってるならな」

「それにしてもキミシマって、決勝のわかたか学園にも勝つつもりなんすかね?あの花畑兄弟にも」

 ケンタがポツリと言った言葉には、誰も何も答えなかった。


<地区大会決勝前日 体育倉庫 16時30分>

 マモル、ケンタ、キイチ、エンゾウの4人が待っている体育倉庫にうのが入ってきた。

 打ち合わせ通り、すぐにうの背後に回ったエンゾウがドアの鍵を掛けようとするが、これがうまく掛からない。鍵が掛かるのを待って話し出そうとしているマモルが、話し出すタイミングをつかめずにカクカクしている。

 やれやれと、キイチがエンゾウを張り倒して鍵を閉めた。シリアスな場面にそぐわないドタバタ劇に、やや緊張感が削がれる。

「キミシマ、やっぱり来たか。まあ来るだろうと思ってたよ」

 その上この締まらないマモルのもって回った言い方に、うのは強気を崩さずに言い返す。

「秘密ってなんだよ。こんなとこに呼び出しやがって」

 うのの勢いに押されそうなマモルにキイチが背中を突っつく。「ネタはコッチが握ってんですから」と小声で話を促す。

「いや、大したことじゃねえんだ。ちょっとした噂をきいたもんでな」

 ようやく本題がスタートする。

「うわさ?」

 うのが怪訝そうな顔をする。マモルは、普段人の顔をマジマジ見ることは少ないものだが、今、目の前のうのを女子かも知れないと思って見ると、帽子を目深に被っていても、確かにその顔つきは美しい少女そのものだと思った。

「そうだ。うわさだよ。いや、俺は全く信じてないんだぜ」

「何の話だ。サッサと言えよ」

 うのの感情が揺れるのを感じると、逆にマモルの方は気持ちが落ち着いていった。

「まあ、慌てるなよ。なあにつまらねえ噂さ。何でもよ、それによると、お前が女じゃねえかっていうんだ。いやいや、まさかそんなことあるかよ、って俺は言ったんだぜ。だけど証拠があるって言い出しやがってよぉ。なあ」

 マモルがキイチを促す。キイチが例の写真をうのに手渡した。驚いた表情のうの。それでも平静を装いながら、

「な、何だよこれ。女の写真じゃねえか」

 明らかに上気したうのの表情を見てとったマモルは、畳み掛ける。

「なに動揺してんだよ。そうだよ女の写真だよ。誰だと思った?言ってみろよ」

「......」

 うのはマモルの視線に気付いて慌てて右手のブレスレットを隠す。マモルがキイチに目配せをする。唇の端で笑う二人。

「言えねえよな。自分ですなんてな。あけぼののエースが、まさか女なんてことはねえよな」

「あたりめえだ。俺は男だ」

 悟られまいと、うのの語調はさらに強くなる。

「ま、そう言うだろうと思ったさ。それならそれでいい。だがちょっと確かめさせてくれよな」

「た、確かめる、って、何をする気だ」

「だから、男だって確かめられたらそれで終いだよ。おい、お前ら」

 マモルの合図でケンタ、キイチ、エンゾウがうのの身体を押さえつけた。うのは抵抗するが、男3人の力に動きを封じられてしまう。

「や、やめろよ。さわるな」

「何だよ、そんなに抵抗すんなよ。男同士じゃねえか」

 有無を言わせずうのの胸のワイシャツのボタンにマモルの手が掛かる。乱暴に外されるボタン。胸元に巻かれた白いさらしが露わになった。4人の男の目が胸元に集中する。声にならない高揚感が荒くなる息遣いに表出していた。

「おおおっ、おいおい。お前何でさらしなんか巻いてんだよ、ええっ」

「関係ねえだろ。ふざけんな。やめろ、離せよ」

 さらしを巻いていてもそれと分かる、うののふたつの胸の膨らみにマモルの手が伸びる。

「何だこの膨らみは。ええっ。お前、男のくせになんで胸腫らしてんだよ」

「うるせーよ。お前らに関係ねえだろ。やめろ、触るなこの変態」

 うのはマモルに胸に触らせまいと激しく身体をくねらせ、手足を押さえているマモルの腰巾着たちを睨みつけた。一瞬怯む3人。

「うるせえのはお前だよ、キミシマ。いつものクールなお前らしくもねえじゃねえか。何、焦ってんだよ」

「やめろよぉ。くっそお、てめえらいい加減にしろ、もう離せよ」

「いい子だ。まあ、そう怖い顔をするなよ。男同士じゃねえか。だったら胸を触らせるくらい何でもねえだろうが」

(続く) 
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