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伯父は怯えながらもなけなしの抵抗をする夏菜子の反応を楽しみながら、余裕しゃくしゃくでひとつの提案を夏菜子に示した。
「まあ、急にそんなこと言われても、っていうのも分からないでもありませんし、私も無理やり何かしようなんて気持ちはサラサラないですからね。私も分別ある大人です。ではどうでしょう。夏菜子さん、貴方にひとつチャンスを差し上げることにしましょう」
「チャンス?ですか?」
「そうです。この証文の内容を賭けて、私と真剣勝負をしてみませんか?」
「真剣勝負?」
「夏菜子さんが勝負に勝てばこの話はなかったことにしましょう。ヨシオ君に貸した金も、この証文もチャラでいい」
「ほ、本当ですか?」
「本当ですよ。私は嘘は言わない男だ」
「何の勝負をするんですか?」
「これです」
伯父はカバンからトランプを取り出した。
「トランプ遊びをしましょう。勝負は『ゲス・イット』の5本勝負。先に3勝した方の勝ちです。夏菜子さんはこのゲームを知っていますか。あまりメジャーではありませんが、なかなか面白い遊びですよ。勝負も早くつきますしね。なあに、もし知らなくてもシンプルなゲームですから。何なら私が手取り足取り教えてあげますよ、フフフフッ」
ゲス・イットと聞いて夏菜子は一瞬ドキリとした。あの日の光景が脳裏に浮かんだからだ。素直な夫との勝負では、いつも私が主導権を握った。ゲームに勝つだけならばそれこそいつでも勝つことが出来たが、わざと夫に勝たせて喜ばせたことを思い出す。
「大丈夫、知っています。それで、もし、私が負けたら?」
「私もここまで譲歩しているんだから、まあ、その時は観念しなさい。何、夏菜子さんに出来ないような無理を言ったりはしませんから。貴方には全くリスクのない私からの特別サービスです。何も迷うことはありませんよ」
明らかに言葉の魔術である。いわれのない夫の約束を夏菜子の約束にすり替えようとしているのだ。指定したこの『ゲス・イット』というゲームにも相当自信があるのだろう。だが。それでも夏菜子は心を決めた。夫の心残りを私が消し去るのだと。
「分かりました。その勝負お受けします。私が勝ったらこの話は無しだと、ここに書いていただけますか?」
夏菜子はホテルの便箋とペンをテーブル上に用意して、伯父に署名を迫った。
「いやはや何とも信用が無いんですねえ。男に二言はありませんよ。もちろん私も書きますが、貴女にも書いてもらいますよ。いいですね」
伯父は自分のサインをすると、夏菜子にペンを渡した。
「はっきりと書いてくださいよ。そうだな「いかなる指示にも従順に従い、いかなる身体的接触をされても一切の不服申し立てを行いません」とでも書いてもらいましょうか」
屈辱的な言葉だ。恐らくはこの展開になることも想定済か。いかにも用意されていたような言葉だと思った。しかし夏菜子は一切抗議することもなく無言のまま指定された文言を書いた。満足げに内容を確認する伯父の目に映った震えのないその文字は、夏菜子の決意の証を示す力強い文字だった。
(続く)
「まあ、急にそんなこと言われても、っていうのも分からないでもありませんし、私も無理やり何かしようなんて気持ちはサラサラないですからね。私も分別ある大人です。ではどうでしょう。夏菜子さん、貴方にひとつチャンスを差し上げることにしましょう」
「チャンス?ですか?」
「そうです。この証文の内容を賭けて、私と真剣勝負をしてみませんか?」
「真剣勝負?」
「夏菜子さんが勝負に勝てばこの話はなかったことにしましょう。ヨシオ君に貸した金も、この証文もチャラでいい」
「ほ、本当ですか?」
「本当ですよ。私は嘘は言わない男だ」
「何の勝負をするんですか?」
「これです」
伯父はカバンからトランプを取り出した。
「トランプ遊びをしましょう。勝負は『ゲス・イット』の5本勝負。先に3勝した方の勝ちです。夏菜子さんはこのゲームを知っていますか。あまりメジャーではありませんが、なかなか面白い遊びですよ。勝負も早くつきますしね。なあに、もし知らなくてもシンプルなゲームですから。何なら私が手取り足取り教えてあげますよ、フフフフッ」
ゲス・イットと聞いて夏菜子は一瞬ドキリとした。あの日の光景が脳裏に浮かんだからだ。素直な夫との勝負では、いつも私が主導権を握った。ゲームに勝つだけならばそれこそいつでも勝つことが出来たが、わざと夫に勝たせて喜ばせたことを思い出す。
「大丈夫、知っています。それで、もし、私が負けたら?」
「私もここまで譲歩しているんだから、まあ、その時は観念しなさい。何、夏菜子さんに出来ないような無理を言ったりはしませんから。貴方には全くリスクのない私からの特別サービスです。何も迷うことはありませんよ」
明らかに言葉の魔術である。いわれのない夫の約束を夏菜子の約束にすり替えようとしているのだ。指定したこの『ゲス・イット』というゲームにも相当自信があるのだろう。だが。それでも夏菜子は心を決めた。夫の心残りを私が消し去るのだと。
「分かりました。その勝負お受けします。私が勝ったらこの話は無しだと、ここに書いていただけますか?」
夏菜子はホテルの便箋とペンをテーブル上に用意して、伯父に署名を迫った。
「いやはや何とも信用が無いんですねえ。男に二言はありませんよ。もちろん私も書きますが、貴女にも書いてもらいますよ。いいですね」
伯父は自分のサインをすると、夏菜子にペンを渡した。
「はっきりと書いてくださいよ。そうだな「いかなる指示にも従順に従い、いかなる身体的接触をされても一切の不服申し立てを行いません」とでも書いてもらいましょうか」
屈辱的な言葉だ。恐らくはこの展開になることも想定済か。いかにも用意されていたような言葉だと思った。しかし夏菜子は一切抗議することもなく無言のまま指定された文言を書いた。満足げに内容を確認する伯父の目に映った震えのないその文字は、夏菜子の決意の証を示す力強い文字だった。
(続く)
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