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一周忌
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夫の一周忌に出席する為に久しぶりに夫の実家の町に来た。師走も押し迫った北の田舎町の乾いた空気。合服のワンピースでは、コートを着ていても震えるほど寒い。23歳で結婚した夏菜子は、そのわずか2年後に病で夫を亡くした。まだ26歳。友達の多くが華やかな独身生活を謳歌している中、一人未亡人として生きていた。
「子供もいないのだから、また早くいい人を見つけなさい」
夫の母親からは何度か優しい言葉を掛けられたが、どうしてもそういう気持ちにはなれなかった。部屋に帰ればまだ夫がそこに居るような気がする。その感覚が生きている内はとても新しい恋なんて出来ないと思った。
それはそれでいいのだけど。
夏菜子にはこの一周忌に来るのが気重になる理由があった。
昨年の夫の葬儀。若くして逝ってしまった夫を偲ぶすすり泣きがあちこちから聞こえる沈鬱な雰囲気の中、打ちひしがれ涙も枯れた夏菜子に夫側の伯父と言う男が終始傍に付き添っていた。周りからは気遣っているようなしぐさに見えただろうし、夏菜子も初めはそれが誰なのかも分からず、ただ単によろめく身体を支えてくれている優しい人とさえ思っていた。しかし。途中から巧妙に胸やお尻を触られていることに気づいた。夏菜子は心も身体も情けないほど消耗していたが、それでも何とか伯父と距離を取ろうと試みたが、その度に強引に距離を詰められた。
周りにはとても言い出せなかったし、声を出せるような雰囲気でもなかった。仮にもし声を出したとしても、言い逃れされてしまうギリギリの巧妙さもある。つまり肝心の部分には決して触らなかった。何より50歳絡みの男が親戚の集まっている席で、まさかそんな不埒なことを考えていようとは誰も思うまい。結局されるがままに葬儀は終わった。
その伯父と今日もまた会うことになるだろう。うまく逃げられるだろうか。さすがに前回の葬儀ではそれ以上のことはなかったが、今回は分からないと予感していた。隙を作っちゃダメだ。自分に言い聞かせる。
夏菜子が会場に着くと、想像通り伯父は夏菜子を待ち構えていた。だらしなく膨らんだ腹。薄くなりかけた頭が、男性ホルモンの強さをアピールしているかのように見えて嫌悪感を覚える。
お斎の席でもやはりスルスルと当たり前のように夏菜子の隣の席に座った。はじめは世間話などして当り障りなくしていたが、酒が入ると徐々に身体を寄せてきた。何度離れようとしても腰を寄せられる。精一杯睨んでもみたが一向に応えない。元より押しに弱い夏菜子は、このような厚顔無恥な男が最も苦手なタイプだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
学生時代にも、コンパの席で好きでもない男に強引に迫られたことがある。断り切れずに別室に連れ込まれて危うく身体を奪われそうになった。怖くて声も上げられず、酔っていたせいか抵抗することも出来ないところを、無理やり唇を塞がれて胸を弄られた。男の手が太腿を這いあがって来るのが気持ち悪くて吐きそうになる。やばい。必死で腰を捻って抵抗したが男の足に動きを封じられた。卑猥な手がパンツのゴムに届いた。あ、もうそれ以上は......。
「何やってんだ」
そこを救ってくれたのが夫だった。彼が怒って大声を出したのを見たのはその時だけだ。
夫は誰にでも優しい人で、常に夏菜子の気持ちを一番に考えてくれる人だった。それはSEXでも同じだった。生まれたばかりの子猫を撫でるように、優しく時間をかけた愛撫に私の身体はいつも雲の上を漂うように甘美な時間を浮遊した。決して自分勝手に挿入をして腰を振るようなSEXはしなかった。
そんな夫が、唯一本気になって夏菜子と勝負したのがトランプだった。ゲーム好きで負けず嫌いな夏菜子も、夫との真剣勝負は楽しかった。中でも「ゲス・イット」は、シンプルなゲームでありながら騙し合いの駆け引きが面白くてよく遊んだ。
ある日、おふざけで負けた方が一枚脱ぐという賭けをした時には、優しい夫が、夏菜子を脱がそうと躍起になる姿に、夏菜子も身体の内側が興奮に熱くなるのを覚えた。最後の勝負に負けた夏菜子は、最後の一枚を夫に脱がされた。裸の股間を優しく触れた夫が耳元で「濡れているじゃないか」と囁やく。その低い声の響きだけで夏菜子は絶頂を迎えてしまった。「ゲス・イット」は夫婦にとって特別なゲームになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
お斎の席が締まり、それぞれお暇の挨拶をして三々五々に分かれていった。伯父の姿が見えなかったのが気にはなったものの、挨拶をするのも嫌だった夏菜子は内心ホッとして、宿泊先のホテルに向かった。
普段会うことのない年長者ばかりの集まりに気遣い、その上お酒も少し入ったこともあって、夏菜子は部屋に入るとコートも脱がずにそのままベッドに倒れ込んだ。すぐに起きて着替えをしようと思っていたのだが、そのままついウトウトしてしまう。
どのくらいの時間が過ぎただろうか。コツコツとドアを叩く音に夏菜子は目を覚ました。ホテルの食事の案内と思い込んでいた夏菜子は、無防備にドアを開けてしまう。
ドアの外に立っていたのはホテルマンではなかった。そこには、あの伯父が赤ら顔に満面の笑みを浮かべて立っていた。
(続く)
「子供もいないのだから、また早くいい人を見つけなさい」
夫の母親からは何度か優しい言葉を掛けられたが、どうしてもそういう気持ちにはなれなかった。部屋に帰ればまだ夫がそこに居るような気がする。その感覚が生きている内はとても新しい恋なんて出来ないと思った。
それはそれでいいのだけど。
夏菜子にはこの一周忌に来るのが気重になる理由があった。
昨年の夫の葬儀。若くして逝ってしまった夫を偲ぶすすり泣きがあちこちから聞こえる沈鬱な雰囲気の中、打ちひしがれ涙も枯れた夏菜子に夫側の伯父と言う男が終始傍に付き添っていた。周りからは気遣っているようなしぐさに見えただろうし、夏菜子も初めはそれが誰なのかも分からず、ただ単によろめく身体を支えてくれている優しい人とさえ思っていた。しかし。途中から巧妙に胸やお尻を触られていることに気づいた。夏菜子は心も身体も情けないほど消耗していたが、それでも何とか伯父と距離を取ろうと試みたが、その度に強引に距離を詰められた。
周りにはとても言い出せなかったし、声を出せるような雰囲気でもなかった。仮にもし声を出したとしても、言い逃れされてしまうギリギリの巧妙さもある。つまり肝心の部分には決して触らなかった。何より50歳絡みの男が親戚の集まっている席で、まさかそんな不埒なことを考えていようとは誰も思うまい。結局されるがままに葬儀は終わった。
その伯父と今日もまた会うことになるだろう。うまく逃げられるだろうか。さすがに前回の葬儀ではそれ以上のことはなかったが、今回は分からないと予感していた。隙を作っちゃダメだ。自分に言い聞かせる。
夏菜子が会場に着くと、想像通り伯父は夏菜子を待ち構えていた。だらしなく膨らんだ腹。薄くなりかけた頭が、男性ホルモンの強さをアピールしているかのように見えて嫌悪感を覚える。
お斎の席でもやはりスルスルと当たり前のように夏菜子の隣の席に座った。はじめは世間話などして当り障りなくしていたが、酒が入ると徐々に身体を寄せてきた。何度離れようとしても腰を寄せられる。精一杯睨んでもみたが一向に応えない。元より押しに弱い夏菜子は、このような厚顔無恥な男が最も苦手なタイプだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
学生時代にも、コンパの席で好きでもない男に強引に迫られたことがある。断り切れずに別室に連れ込まれて危うく身体を奪われそうになった。怖くて声も上げられず、酔っていたせいか抵抗することも出来ないところを、無理やり唇を塞がれて胸を弄られた。男の手が太腿を這いあがって来るのが気持ち悪くて吐きそうになる。やばい。必死で腰を捻って抵抗したが男の足に動きを封じられた。卑猥な手がパンツのゴムに届いた。あ、もうそれ以上は......。
「何やってんだ」
そこを救ってくれたのが夫だった。彼が怒って大声を出したのを見たのはその時だけだ。
夫は誰にでも優しい人で、常に夏菜子の気持ちを一番に考えてくれる人だった。それはSEXでも同じだった。生まれたばかりの子猫を撫でるように、優しく時間をかけた愛撫に私の身体はいつも雲の上を漂うように甘美な時間を浮遊した。決して自分勝手に挿入をして腰を振るようなSEXはしなかった。
そんな夫が、唯一本気になって夏菜子と勝負したのがトランプだった。ゲーム好きで負けず嫌いな夏菜子も、夫との真剣勝負は楽しかった。中でも「ゲス・イット」は、シンプルなゲームでありながら騙し合いの駆け引きが面白くてよく遊んだ。
ある日、おふざけで負けた方が一枚脱ぐという賭けをした時には、優しい夫が、夏菜子を脱がそうと躍起になる姿に、夏菜子も身体の内側が興奮に熱くなるのを覚えた。最後の勝負に負けた夏菜子は、最後の一枚を夫に脱がされた。裸の股間を優しく触れた夫が耳元で「濡れているじゃないか」と囁やく。その低い声の響きだけで夏菜子は絶頂を迎えてしまった。「ゲス・イット」は夫婦にとって特別なゲームになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
お斎の席が締まり、それぞれお暇の挨拶をして三々五々に分かれていった。伯父の姿が見えなかったのが気にはなったものの、挨拶をするのも嫌だった夏菜子は内心ホッとして、宿泊先のホテルに向かった。
普段会うことのない年長者ばかりの集まりに気遣い、その上お酒も少し入ったこともあって、夏菜子は部屋に入るとコートも脱がずにそのままベッドに倒れ込んだ。すぐに起きて着替えをしようと思っていたのだが、そのままついウトウトしてしまう。
どのくらいの時間が過ぎただろうか。コツコツとドアを叩く音に夏菜子は目を覚ました。ホテルの食事の案内と思い込んでいた夏菜子は、無防備にドアを開けてしまう。
ドアの外に立っていたのはホテルマンではなかった。そこには、あの伯父が赤ら顔に満面の笑みを浮かべて立っていた。
(続く)
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