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最終章

256.気持ち

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 愛莉が魔車五台分を作り終えた次の日、クローバーの六人は皇帝アルベルトから直々に、皇宮に来るように指示を受けていた。


「あーあ。今日は愛莉と一日中エッチしようと思ってたのになー」


 大通りを歩きながら、未来が恥ずかし気も無くそんな事を言い出す。


「い、いきなり何言い出すのよ……!?」


 それほど大きな声ではないので、おそらく聞こえているのはクローバーのメンバーだけだが、それでもこんな往来でする話では無い。万が一にも誰かに聞かれでもしたらどうするというのか。


「えー、だってさー、前にリーシャとサフィーが二十回イッたって話聞いてから、あたしも愛莉もいっぱいしたくなっちゃったんだよ。だから魔車が完成したら一日中エッチしようって愛莉と約束してたのに」


 先日の事を思い出し、思わず頬を染めるリーシャとサフィー。だが確かに、あの日は最高だった。また同じ事をしたいと思ってはいたが、流石に毎日愛莉一人を働かせている状況だったので、リーシャもサフィーもわきまえていたのだが、そんな約束をしていたとなれば、未来が愚痴を言いたくなる気持ちも良く分かる。分かるが、やはりこんな人の多い場所でする話ではない。


「そ、そうなのね~……でもミク、こんなに人の多い所でする話ではないと思うの。もしも誰かに聞かれでもしたら………」
「別にいいよ聞かれても」
「………え?」


 未来の返事を聞き、思わず足を止めて驚くリーシャ。いや、リーシャだけではなく、サフィーもエストもリズも、そして何より愛莉が驚いている。


「もうさ、別に無理に隠さなくていいかなーって思うんだよね。だってあたしは愛莉の事が好きで好きで死ぬほど好きなのは事実なんだし、それを隠すのって違うかなーって思うんだよねー」
「未来………」


 愛莉が何とも言えない表情で未来の背中を見つめる。そんな未来はくるりと後ろを振り向くと、少し恥ずかしそうに言った。


「愛莉と結婚出来たら人生最高なんだけどなー」


 その言葉を聞いた瞬間、普段はほとんど表情を崩さない愛莉が口元をキュッと結び、その瞳には涙の膜が張る。
 大好きな未来に、そんな風に思われていた事が嬉しくて嬉しくて、自分でも気づかないほんの一瞬で、涙が浮かんで来たのだ。

 そんな愛莉の横では、リーシャとサフィー、そしてエストとリズが打ちのめされるように立ち尽くしている。
 結婚。それは同性である限り、公には認められない事。この帝国の法律を変え、同性婚を認める法を制定しなければ、絶対に叶わない願い。
 だがそれは逆に考えると、法を変える事が出来れば同性婚が認められるという事。今まで考えた事すらなかった、同性同士での結婚という未来みらい


「そうか……そういう道もあるにはあるんだ……」


 ポツリの呟いたのはリズである。その横に立つエストだけは、その小さな呟き声を何とか聞き取り、思わずリズに視線を合わせる。
 すると、リズもまたエストに視線を合わせて来た。その瞳は何やら熱を帯びていて、エストは思わず頬を染めた。


(まさか……リズちゃん……)


 自分の考えている事が当たっているとは到底思えない。それはエストにとってはあまりにも自分勝手な考え、いや、妄想とも呼べるものだったからだ。


 だがもしも、その妄想が本当だとしたら?


「わたしも……未来と結婚したいよ……」


 瞳にいっぱい涙を溜めながら、愛莉が優しく微笑む。それはもちろんこの世界でも元の世界でも実現は不可能であり、おそらく希望すら無い。でも、それでも、それは彼女達にとっての偽らざる気持ち。それほど相手の事を愛している事の証明であり、誰にも否定などさせない。


「ふふ……結婚ですってサフィー。本当にそんな事が出来たら幸せね~」
「ふん……出来る訳無いじゃない………」


 そう言いながらも、何処かで期待を胸に抱いているサフィー。本当にそんな事が出来るのだとしたらーーーーー


 未来と愛莉以外、誰もが淡い夢を抱いた瞬間。もしも本当に、サフィーと結婚出来たら………リーシャと結婚出来たら。

 あのリズと、帝国の第一皇女であるリズと結婚………こんな事を考えるのは不敬の極みである筈なのに、自分の気持ちに嘘をつく事がエストには出来ない。
 
 だって、きっとリズが今考えている事はーーーーー



■■■



 未来が相変わらずニコニコしながら、愛莉が何処か幸せそうな表情を浮かべながら、到着したのはリズの実家でもある皇宮である。
 愛莉と未来にしてみれば、昨日までの十日間『魔車』作りの為に毎日通った場所でもあるので、流石にこの圧倒的に巨大で豪華な建造物にも慣れてしまった。


「はぁ……何度見ても凄いわね……」
「そうね~、此処に来るとリズが皇女殿下なのだと思い出してしまうわね~」


 一方のリーシャとサフィーは、皇宮に立ち入るのはこれで二度目だ。リズの成人の儀が行われた日に、初めてリズに会ったあの時以来この皇宮を訪れた事は無い。


「ふふ、わたしは皇女なんかより冒険者としてみんなと一緒に居る時の自分の方が好きよ」


 そう言って柔らかく微笑むリズの笑顔は、誰もが見惚れてしまう程に美しかった。その笑顔を見ているだけで、エストも思わず笑顔が溢れてしまう。


「やっぱりリズっちはチョー可愛いなー」
「そうだね。わたし達の世界に来たら大変な事になるよね」


 自分達の世界では、日本は元より世界中探してもこれほどの美少女は居ないだろう。もしもリズやエストを連れて帰れば、世界中のマスコミが殺到する事になるだろう。もちろん有り得ない話ではあるが。


「お待ちしておりました皆様。陛下がお待ちでございます」


 皆がリズの顔を眺めていると、突如として執事が現れた。リズも良く知る、皇帝アルベルトお付きの執事である。


「ご苦労様です。それじゃあみんな、行こっか」


 ピクッと執事の眉が動く。今の砕けた話し方は、執事の知らないリズである。執事の良く知るリズであれば、「ご苦労様です。それでは皆様、参りましょう」と言うのだ。


(すっかり皆様と打ち解けていらっしゃるご様子)


 リズの事を産まれた時から見てきた執事にとって、それは驚くと同時に嬉しい事だった。皇女として常に毅然としていて力が入っていたのが、今は良い意味で力が抜けている。十五歳という、年相応の振る舞いをしている。
 思えばリズに限らず、貴族の子息令嬢というものは裕福な反面、自由度が平民に比べて極端に少ない。勝手に遊びに行く訳にもいかないし、話し方一つ取っても人前では礼儀作法を脱してはいけない。つまり、常に貴族であるという事を意識して生活しなければならないのだ。
 

(短い間の事かもしれませんが……良かったですなリズお嬢様)


 リズの冒険者生活にも、いずれ必ず終わりは来る。そして冒険者生活を終えた後に待つのは、再び帝国第一皇女としての生活。


「やっぱり何度来てもでっかくて綺麗だよね!こんな所で生まれ育ったとかパないよねー」
「ふふ、でもわたしはあの宿屋の部屋だって気に入ってるのよ?何だか落ち着くもの」


 先頭を歩きながら、口元を緩める執事。確かにリズの冒険者生活はいずれ終わりを迎える日が来るが、この培われた友情はきっと永遠に続いてゆく事だろう。
 

「ふーん?気に入ってるのは落ち着くからだけー?」
「え………」
「そこはやっぱりほら」


 そう言って未来がチラリとエストに視線を向ける。その視線に気づいたエストとリズが、同時に頬を染めた。


「そうよね~、やっぱりそれが大きいわよね~」
「大きいって言うより、それが全てでしょ」
「ちょっ……みんな声が大きい………」
「そ、そうだよぉ……執事さんに聞こえちゃう……」

 しっかりと後ろから耳に入って来る彼女達の楽しそうな声を聞かながら、執事は何処か嬉しそうに歩みを進めるのだったーーーーー





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