上 下
247 / 316
帝国激震の章

230.戦場と食堂

しおりを挟む
 ツヴァイフェッターの五人の視界には、数日前に見た漆黒の竜の姿。


「来たぜ!」


 あの時は突然の来訪と、更には街中という事もあり手を出せなかった。だが今は違う。今はあの竜を倒す為に、この地に立っているのだ。


「ラギア、頼む」


 流石の”英雄”バルムンクも”剣聖”ミルファも”破壊王”ゼレットも、相手が空高く飛んでいては手も足も出ない………事は無いのだが、攻撃の威力は格段に落ちる。なのでまずは、相手を同じ土俵へと引きずり降ろさなければならない。
 その為には、強力な遠距離攻撃で相手を撃ち落とさなければならないのだが、それが出来るのは、ツヴァイフェッターではただ一人”魔導大帝”ラギアのみ。

 ラギアも自分の役割など百も承知なので、バルムンクに言われる前には既に、両腕を空へと向かって突き出していた。そしてその絶大な魔力を、澄み切った空へと放出する。


「雷神よ、眩い閃光と共に敵を穿て」


 雲一つ無い空に、吸い込まれるように消えてゆくラギアが放った魔力弾。すると突然、青い空の下に暗雲が発生。暗雲は渦を巻きながら広がって行き、あっという間に青い空を覆い隠す。
 
 
 そこへ漆黒の翼を広げた天空の覇者が、まるで眼中に無いとでも言わんばかりに侵入して来る。だがその空は既にラギアの領域テリトリー


轟雷神鎚トール・ハンマー


 その瞬間、恐るべき熱量を含んだ光の柱が、黒き竜を飲み込む。光の柱はそのまま地上へと到達し、あたり一面にはまるで噴火直後のような粉塵、噴煙が立ち昇る。
 当然すぐ近くに立つツヴァイフェッターの五人にも凄まじい衝撃波が襲い掛かるが、いつの間にか皆を覆うようにリュアーネが展開した防御壁のお陰で、五人は微動だにしない。

 
「あらあら、相変わらず凄い威力ね」
「だな。ってかこれ、しばらく視界ゼロじゃねえか」


 防御壁の中でそんな会話をする一方で、今の光景の一部始終を見ていた帝都外壁上部の冒険者や兵士達は、誰もが騒然としていた。


「す、すげぇ……なんて威力だよ……」
「おい、まさか一撃で倒しちまったとか……」
「ああ……あんな攻撃を食らったら、いくら化物でもひとたまりもないぜ」


 喧騒が少しずつ歓声に変わる中、皇帝アルベルトとグランドマスターのマディアスだけは、ピクリとも表情を変えないで噴煙を見つめている。

 かつて黒き竜と戦った事のある自分達には、嫌と言うほど理解出来る。あの程度で倒せる相手ではない、あれで倒せるなら十五年前に自分達が倒していた。
 

「どう見る?」


 アルベルトが低い声でマディアスに訊ねる。いつも何処か笑顔のマディアスも、珍しく真剣な表情で目を細める。


「撃ち落とす事には成功したようです。ですが、残念ながらダメージはほとんど与えられていないでしょう」


 そもそも既に生命活動を千年以上も前に終えている黒き竜に、ダメージという概念があるのかどうかも怪しい。間違いないのは、痛みも疲れも一切感じないという点だ。


「そうか。ならばここからが本当の戦いという事だな」
「ですね。ツヴァイフェッターが何処まであの黒き竜と戦えるか……我々には見守る事しか出来ない」


 ギュッと拳を握り締めるマディアス。かつて黒き竜に破れ、プリュフォールが事実上の解散に追い込まれた後も一人で研鑽を怠らず、常に精進して来た。いつかまた、あの竜と戦う日の事を想像しながら。
 そんなマディアスの気持ちが分かるからこそ、アルベルトもまた居た堪れない気持ちになる。


「すまんな。本来であればお前が真っ先に奴と戦いたかった筈。だがこの場にお前が居なくなれば、帝都の防衛は裸同然。今お前を欠く訳にはいかぬのだ」
「ええ、分かっていますよ。私も何だかんだ言って歳を取り過ぎた。その間に有望な若い者達が台頭し、我々は戦う側から導く側へと移り変わった」


 細めていた目を、ふっと緩めるマディアス。その視線の先には、今は噴煙で見えないが勇敢に戦う弟子の姿。


「大丈夫、私の思いは弟子に託しました。あとは弟子の勝利を信じて見守るのみ」


 以前マディアスはアルベルトに、クローバーこそが希望だと語った事があった。その直後から、方々に手を尽して行方を追ったが、結局クローバーの足取りは掴めなかった。
 それもその筈で彼女達はこの数日間、マディアスすら知らない転移魔法で、遥か東の果てのファルディナの街と『濃霧の森』を行き来していた。いくら帝都の近辺を探した所で、毎日ファルディナの街の宿屋で寝泊まりしているクローバーの所在など分かる訳もない。

 頼みの綱だったクローバーの行方が分からない以上、もはやツヴァイフェッターに賭けるしかない。どうか無事に生きて帰ってくれと、弟子やその仲間達の息災を祈るマディアスだった。



■■■



「ったく……朝っぱらから何やってんのよあんた達………」


 いつもよりも遅い朝食の時間、偶然なのか必然なのかは分からないが、特に示し合わせた訳でも無いのに六人全員が同じ時間に、宿屋の食堂に顔を出した。
 そしていつものように、六人全員で女将の作った手料理を堪能しているのだが、心なしかリーシャ、サフィー、エスト、リズの頬が紅く染まっていた。その原因とはーーーーー


「だって……起きたら未来が……って言うかそれで起こされたみたいなものだし……」
「あはは、愛莉の裸見てたらさ、なんかめっちゃムラムラしちゃってさ、だからしちゃった!みたいな?」


 そう、愛莉が目を覚ますと、未来にアソコを愛撫されていた。どうやらそれなりに長い時間されていたらしく、快感で目を覚した時には既に全身が敏感になっていて、そのまま流されるように行為に及んでしまった。
 カーテンから差し込む光で既に夜が明けていた事は理解していたが、身体が快感に飲み込まれていた為か、寝起きと相まってあまり思考も働かずに、朝から激しく身体を重ねてしまったのだ。


「驚いちゃった……目が覚めたら二人の……が聞こえて来たから……」


 そう言って一層その頬を染めるリズ。あの行為は夜に行うものだと何となく決めつけていたので、朝から二人の嬌声が聞こえて来た時には、本気で一瞬固まってしまった。


「こっちもよ。ったく……あんた達の声は両隣に聞こえるって理解してんのかしら……」
「とか言いつつ、あたし達の声聞きいてたら興奮して、みんなコッソリしてたんじゃないのー?」


 冗談で言った未来の発言に、四人は手の動きを止める。


「ま、まさか~、いや~ね~ミクったら……」
「ほ、ほんとよ……!あんた達じゃあるまいし………」
「そ、そうよ……ね……。朝からだなんて……そんな………」
「は、はい……流石に朝からは………」


 四人の反応を受けて、愛莉が内心で確信する。


(あ、本当にみんなしてたんだ)


 ーーーーと。


 そう、昨夜は未来と愛莉同様、リーシャとサフィーも、エストとリズも、遅くまで身体を重ねた結果、珍しくそのまま寝てしまった。特にエストとリズは毎晩行為が終わると、最低でも下着だけは身に着けて寝るのだが、昨夜は珍しくそのまま寝落ちしてしまった。

 そんな状態で目が覚めると、隣から聞こえてくる性欲を高める卑猥な声。そして目の前には、愛しの人の一糸纏わぬ姿。全ての条件が揃ってしまっていたのだ。
 リーシャとサフィーは未来と愛莉に出会う以前にしていたように、声を殺しながら相手の陰核クリトリスを弄りながら軽く絶頂。
 エストとリズは所謂シックスナインの体位で互いの性器ヴァギナを舐めながら声を殺して絶頂。

 つまり四人の頬が紅かったのは、二人の嬌声を聞いたからではなく、朝から性行為に至ってしまった自分自身への羞恥心によるものだったのだ。


「あっははは、だよねー。流石にみんなは朝からはしないよねー」
「え、ええ……もちろんよ~」
「そ、そうね……そんな気も起きないし……」
「う、うん。朝は身支度とか忙しいから……」
「と、当然よね。身体も汚れてしまうもの……」


 四人ともぎこち無い口調で言い訳をするが、言い訳をすればするほど怪しさが増してるのになぁと、密かに思わずにはいられない愛莉だった。
 

しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...