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帝国激震の章

209.自作?

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 その綺麗で細い太ももを惜しげも無くチラつかせながら、魔車の下に潜る愛莉。目的は、この魔車の構造を詳しく調べる事。


(あれ?この車………動力に使ってるギアが一つだけ……?しかもギア比が………)


 この魔車が何故、馬車の半分ほどの速度しか出ないのか。その理由が段々と分かってくる愛莉。


(最初は魔力を伝える魔石に問題があるのかと思ってたけど………これは多分構造的な問題で………)


 もちろん愛莉にトランスミッションだのという専門的な知識は無い。無いが、歯車の使い方や種類は実はそれなりに知っている(以前DIYで歯車式の玩具を作った為)。
 なので素人目から見ても、この魔車の構造にいくつもの欠陥がある事が分かる。そもそも歯車の大きさが同じ時点でギア比がオカシイし、しかもこのサイズの車を動かすにはギアの直径自体が小さ過ぎる。これでは、仮に加速は良くても速度は出ない。いや、これでは加速すら良くないだろう。


(複数のギアを作れば……低速から高速までスピード出せるかな)


 いつの間にか魔法鞄からメモを取り出し、この魔車の構造や自分の見解を書き込む愛莉。魔車の下に潜っているので、会長からは愛莉が何をしているのかまでは見えない。


「アイリ……大丈夫かしら?」
「かなり夢中になってるわよね……ってか素人が見て分かるものなの?」
「ふふーん!愛莉だからね!」


 未来の十八番「愛莉だからね」が発動する。愛莉を語る上で、大体がこの言葉で皆が納得してしまうのは、それだけ普段からその知識や頭の回転の早さを、皆に見せつけているからだろう。


「でも……調べてどうするのかな?今は買うか買わないかの問題ではないの?」
「多分……アイリちゃんの事だからーーー」


 エストがある結論に辿り着く。いや、未来もリーシャもサフィーも、既に結論に辿り着いている。わざわざ愛莉が魔車の構造を調べているのは、もちろんーーーーー


「ふぅ……」


 ようやく調べ終わったのか、ひょっこりと顔を出す愛莉。裾をパンパンと手で払うと、会長にお礼を言いつつも、再び質問をぶつける。


「動力に使われてる魔石って、何のモンスターの魔石なんですか?」
「そ、それは流石にお教えする訳には………」


 思わず冷や汗を流す商会の会長。それはこの『魔車』の心臓部であり、一番秘匿するべき企業秘密だ。なので流石に教えられないと断ったのだが、愛莉はあっさりと引き下がった。


「ですよね。すみません、流石に聞き過ぎました」


 そう言い終えると、くるりと後ろを向く。そして目の前の『魔車』を、じーっと見つめた。


(ふーん、『大王百足ムカデ』ってモンスターの魔石かぁ)


 教えて貰えないなら自分でいい。鑑定眼を発動させて愛莉は、あっさりとこの商会の企業秘密を手中に収める。もちろん会長は気付いていない。


「ありがとうございました。さてと、行こっかみんな」


 そう言って踵を返す愛莉を見て、会長が焦りの表情を浮かべる。


「あ、あの、ご購入の方は………」
「あ、大丈夫です。すごく


 愛莉のその発言に狼狽する会長と、ニヤリと口角を上げる未来、リーシャ、サフィーの三人。そして苦笑いするエストと、最後まで意味が分からずに首を傾げたリズが、馬車販売のフロアを後にしたのだった。



■■■



 魔車を買わずに別のフロアに移動した愛莉は、何やらぶつぶつと呟きながら色々な物を購入してゆく。

 大量の綿、モンスターの皮を加工して作った革や、ドアに付ける蝶番、およそこの商会で買えそうな物を買っては、魔法鞄マジックバッグに入れてゆく。
 
 
「えーと……アイリは何の為の買い物をしているの……?」


 未だに愛莉の行動の意味が分からないリズに、皆が楽しそうに説明を始める。


「作る気なのよ。さっきの『魔車』ってのを錬金術で」
「え………ウ、ウソ……?あんな大きな物を!?」


 思わず驚愕に色を染めるリズの美しい顔。確かに愛莉の錬金術は実際に何度か見たが、それでも信じられなかった。あんなに大きな馬車………もとい、『魔車』を作るという行為が。


「すごく時間掛けて調べてたものね~。きっとどういう構造なのか隅々まで調べてたのね」
「調べて分かるものなの……?」
「それは……多分アイリちゃんなら……」


 一体、愛莉という少女は何者なのだろうとリズは思った。どんな物を作るにしても、そこにはその道の専門家が居て、過去の知識や彼、彼女らが必死に学んで得た知識や技術を駆使して作り上げる物だろう。
 しかし愛莉は、簡単な日所品ならばそれこそ簡単に作ってしまうし(しかも店で売っている物よりも格段に品質が良い)、とても簡単には作れる筈もない魔法鞄マジックバッグすらも作ったと聞いた。


(どれほどの知識……どれほどの経験があれば作れるの……?)


 そう思わずにはいられない。技術的な物は『錬金術』がスキルである以上は必要無いのかもしれないが、いくら錬金術でも知識無くしては何も作れない筈。もしもこれで、愛莉が商会で売っていた魔車よりも優れた魔車を作り上げてしまったらーーーーー


「さてと……商会で買える物は大体こんなものかな」


 大量の綿や肌触りの良い革など、およそ魔車を作る上では必要無さそうな物まで買い込んだ愛莉。そんな彼女が次に向かう場所と言えばーーーーー


「次は魔石売ってる店と、鍛冶工房とかを何件か回りたいんだけど。あと鉱石売ってる所も念の為に」


 やはりだ。愛莉は先ほど見たあの魔車を、自分の手で作り上げようとしている。その為に動力部となる『大王百足』の魔石が必要だし、車の骨子や表面となるフレームやボディ、そしてもちろん車を動かす為のギアやシャフト、車輪などの作成には金属が欠かせない。その為の鍛冶工房、鉱石屋なのだろう事は誰もが容易に想像出来た。


「木とかで作るんじゃないんだ?」


 一般的な馬車の場合、大部分を木材で作ってある事が多い。もちろん貴族が乗るようなキャリッジなどは金属製が多いが、乗り合い馬車なども土台は木材で、雨風避けの幌などは防水性の高い革を使用している。


「それなりの速度を出そうと思ってるから、木だと耐久性の問題もあるし」


 木材には軽いという利点もあるが、強度は低く、経年劣化は金属よりも格段に早い。せっかくなので、耐久性に優れながらも速度も出る、そんな魔車を作りたいとこだわるのは、愛莉がいつも趣味のDIYで妥協しないが故の事だ。


「オッケー!じゃあ色々なトコ見て回ろっか!」


 この頃には既に、どんな凄い魔車が出来るのかと期待しかしていない未来。元気良く先頭を歩くが、残念ながら帝都に土地勘などは無いので、往来で声を掛けて来る者達に逆に訊ねて回るという、相変わらずのコミュニケーション力を発揮する。

 
「ん?要らない鉄鉱石?」
「はい。使い道の無いような鉱石や鉄くずなんかを譲って欲しいんですけど。もちろんお金は払いますから」
「はっはっはっ!そんなのいいっていいって!どうせ捨てるだけの代物だしな!錆が出てるのとかでもいいのかい?」
「はい、是非!」


 ほとんど利用価値の無い小さな鉄鉱石や、失敗作の武器、防具など、とにかく手当りしだいに貰ってゆく愛莉。鉄鉱石の他にも、愛莉の武器『円月輪』にも使用している『ガルム鉄』などの金属も数多く手に入れる。
 鍛冶工房も一軒だけではなく、何件も回って金属を集める。鍛冶師達には使い道の無い屑鉱石でも、それが集まれば愛莉にとってはまさに宝の山だ。

 鍛冶工房だけでは集めきれなかった金属は、鉱石屋などで足りない分を購入する。とりあえずこんなものかと満足した所で、次は硝子工房へ。硝子の材料となる珪砂や石灰などを購入する。どうやら窓の部分に使う硝子用らしいが、硝子の材料など知らないリーシャやサフィー、エストとリズも愛莉から説明されて、驚きの表情を浮かべる。
 そして最後は魔石を扱う店へ。もちろん目的は『大王百足』の魔石だ。


「大王百足の魔石だね。一つ銀貨五枚だけどいくつ欲しいんだい?」
「五つください。あと、氷狼アイスウルフの魔石と火トカゲの魔石も二つずつ」


 魔石屋で目的の魔石を購入し、魔車に必要な素材をようやく全て買い揃えた愛莉。結局この日は愛莉の買い物だけで一日を終えたクローバーの少女達は、再び転移魔法でファルディナの街へと帰るのだった。





 
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